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16:次のご予定

昼食を食べ終え、昼休みが終わるまで五人で話を続けていた。

互いの事から、現状の学校生活に至るまで。色々なことを。


「おなかいっぱい…」

「お粗末様です」

「ほんと、楠原君の卵焼き美味しくて毎日食べたいや」

「ありがとう」


お世辞だとしても、褒められるのは本当に嬉しい。

さりげなく言葉を受け取りつつ、空になった弁当箱を包む。


「新菜、めっちゃ気に入ってるじゃん。そこまで美味しいの?」

「とっても美味しい!」


足立さんの問いに、遠野さんは力強く断言してくれる。

そこまで評価されるとは思っていなくて、照れてしまうのだが…バレないように無表情を貫き通した。

その様子を、正面にいた陸だけが面白そうに笑っている。


「へぇ…」

「な、なんでしょうか…」

「いや、今度の家庭科の授業。クラス内交流ってノリで調理実習入ってんじゃん?」

「そういえば、そんな話が…」

「楠原誘えば百人力じゃないかって話。どう思う?鷹峰」

「確か五人班を作ればいいんだよね〜。俺たちも誰と組むか悩んでいたから、ちょうどいいと思うんだ!組もうよ成海!」

「勿論料理が出来るからって、何でもかんでもさせるみたいな負担はかけないからさ」


「足立さん達が良ければ、僕はそれでいいし…陸もそれでいいんだよな?」

「もちのろんだよ〜」

「じゃあ、次の授業で班申請しよう。あ、勝手にここまで決めちゃったけど、新菜と美咲はそれでいい?」

「私は特に問題ない。料理上手い成海氏がいるなら楽できそう…」

「わ、私も問題ないよ。よろしくね」

「じゃ、そういうことで」

「そういうことにしよう」


足立さんと陸は物知り顔でうんうんと頷いていた。

なぜそんなことになっているのか。僕も遠野さんも、吹上さんも分からず…三人で首を傾げることしかできなかった。


◇◇


昼休みが終わって、五時間目の授業が始まる。


今日は少し特別で、楽しかった。

お昼休みだけじゃない。


通学路で会えたのはびっくりした。

電車の到着が少し遅れて不安だったけれど、会えるとは思っていなかったから…。

…そういえば、生徒会長さんが一海さんと一緒に歩いていたよね。

入学式で在校生挨拶を読んでいた人だから覚えている。


あの人とは、同じ電車に乗り込んでいる。

じゃあ、これからも生徒会長さんと一緒の電車で、同じタイミングであの道に出たら…楠原君に会えるのだろうか。

…なんで、会えることを考えてしまうのだろうか。


ふと、隣に視線を向ける。

食事を摂ったばかりの昼下がり。暖かな陽気が窓から差し込んで、窓際の席を優しく照らす。

そんな暖かな空気に包まれた結果か、楠原君はうとうとと首を揺らしていた。


「…可愛い」


窓越しに見ていた時はうっすらとしていたから、彼の輪郭を掴むことはできなかった。

けれど、今…こうして直視できるようになって、分かることも増えた。

一海さんは周囲の噂を統合する限り、文化祭で行われたミス浜商なるコンテストで優勝をしているらしい。


それに、どこかのファッション誌で読者モデルもしているそうだ。

確かに、一海さんは綺麗な人だと思った。モデルが出来るのも納得だと思う。

美海ちゃんも可愛らしい子だったし…そんな二人に挟まれた楠原君も、同様に。

本人は、自覚していないみたいだけど。

周囲は鷹峰君がかっこいいと言うけれど、楠原君も負けていないと思う。

寝顔だって、凄く愛らしい。


どんな夢を見ているのだろうか。目は閉じられているが、その表情は楽しげに。

窓の外を見ている時と、同じ顔。

そろそろ板書の為に背を向けていた先生がこちらへ振り返る頃だろう。

起こさなければ、彼が怒られてしまう。


「…楠原君、楠原君」


彼の腕に手を伸ばし、優しく叩く。

しばらくすると、ぼんやりとした水色の瞳が開かれる。


「…とーのさん?」

「授業中だよ。起きて」

「…ん。ありがとう」

「どういたしまして」


少しだけ言葉を交わし終えた後、楠原君の意識はゆっくり覚醒へ向かう。

先生が正面を向く頃には、彼もちゃんと起きていた。

これでよし。心配ごとは解消された。

そう心を納得させた瞬間…ふと、自分の行動が脳裏によぎる。

さりげなく、起こすためだけに…彼の腕に触れている。

硝子細工をやっていると言うだけあって、ブレザーに包まれた腕はほんの少し叩いただけでも、がっしりしている事がわかってしまう程だった。


「……」


なんだか、大胆なことをしてしまった気がする。

眠気を飛ばすフリをしながら、両手で顔を覆い…顔の熱を取る。

楠原君と出会ってから、色々と様子がおかしい。

それだけは、自覚症状を得始めた。

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