表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/213

44:遠野家の晩

新菜から、麻紀さん宛にメッセージが送られた。


「今日雪で電車止まったから、成海君ちにお泊まりするね!」


たった一文。それだけ。

それだけなのだ。


「新菜大丈夫かしら…」

「大丈夫なわけあるか!おおおおおおおおおお男の家にだなんて!今すぐ迎えに行く!」

「電車もバイパスも止まっているのよ。朝陽ヶ丘に行くには、山道を走ることになるみたいだから…とっても危ないわ」

「新菜の為だ!僕に恐れることはなぁい!」

「晴れている日ならともかく、こんな大吹雪の日に出かけようとしないで。明日。明日にしなさい。私も明日ついていくから。成海君とそのご家族にはお世話になっているし、ちゃんとご挨拶したいのよ」

「麻紀さんのお願いなら仕方無いな!」


「チョロくて助かるわ、和久」

「誰がチョロいか!?ああ…新菜。不甲斐ないお父さんでごめんなぁ…」

「無力だから仕方無いわよ。安全第一でいきましょう」

「そうだけどぉ…」


大雪の日。こんな日だ。新菜が怖がっているに違いない。

余所様の家にお世話になれたのは幸いとも言えよう。ちゃんとお礼の品は用意していかなければ。

しかし!男の家となると話は別だ!


楠原成海…新菜が料理を教えて貰っている同級生(男)だったな…!

明日いつもお世話になっているお礼もしないとな!

新菜に料理を教えてくれるおかげで、僕と麻紀さんは娘の手料理を食べられている。感謝以外の言葉が見当たらない!


何が好きかな!新菜ぐらいの年代の子が欲しがるものは分からないから、ストギフカード(金券)でも贈っておけば問題ないだろう。多分!

…わかんないから他にも色々持って行けばいいか。三角のカードだったり、JCBギフト券だったりとか。図書カードも確か…。


「ねえ、和久」

「なんだい麻紀さん。久しぶりに夫婦水入らずの時間だけど、僕は楠原成海という存在に会う準備をしなければいけないんだ。父親だからと舐められてはいけないからね!威圧的にいかないと!」

「家中の金券を抱えていう台詞じゃないわよ。テレホンカードはもう使い物にならないんだから置いて行きなさい。というか金券を何に使う気なの」

「日頃のお礼に…」

「絶対にやめなさい!新菜の父親らしい振る舞いをしなさい!成海君絶対に引くわよ!?」

「で、でも…新菜ぐらいの年代の男の子が何を好きなのかわからないし…」

「…それは、そうね」

「変なものを贈るぐらいなら、もう金券が妥当ではないかなと…好きなもの買ってね、的な…なんなら現金が」

「絶対ダメよ。新菜の為にも恥を晒すのはやめなさい」

「だよねぇ…贈り物って難しいや。頭空っぽにビール贈りたい。それかタオルセットか洗剤」

「ビールはともかく、後者は何となく喜びそうなのは気のせいかしら…」


しょんぼりとした僕の顔を覗き込んだ麻紀さんは頭を抱える。

一緒に思案した先。麻紀さんは名案を閃いたらしく、閉じていた目をうっすらと開いてくれた。


「ううっ…それなら、貴方の勤め先が発行している商品券ぐらいにしておきなさいよ。うちも安さに自信があるんだ。是非おいでよ的な感じで…」

「それだ!流石麻紀さん天才!」

「でも、唯一の難点は…朝陽ヶ丘周辺にカオンがない事なのよね…」

「月村に大型ショッピングモールを出店したもんね〜。僕がここに来たのも、その関係だし」

「カオンにいくついでに、我が家に遊びに来てくれるきっかけになるかしら」

「それは…」


我が家に新菜の同級生が遊びに来る…?そんなの完全におうちデートではないか。

娘に彼氏は早い。早すぎる。

そんな存在がいるとなったら、僕はどうしたら…。


「そういえば、成海君って硝子職人見習いらしいわよ。新菜の部屋にあるあのランプ、作ったのは成海君らしいし…」

「あ、あれを…」

「何を警戒しているかわからないけれど、手先は凄く器用みたいよ。話、合うんじゃない?」

「…」

「最近は仕事が忙しくて作れていないけれど…新菜が産まれる前から言っていたじゃない。将来、息子ができたらあれを一緒に作りたいとか、息子じゃなくても、ボトルシップの話ができる人と会いたいって…」

「…ん」

「今がその時かもよ。引き込むのもハードル高いんだから…新菜が繋いだ縁を、貴方も大事にしたら?」

「…そうしてみる」


僕と麻紀さんは棚一面に飾られたそれを眺める。

僕の趣味。唯一と言ってもいい代物。

何度引っ越しても、あれを綺麗に飾るのだけはやめられない。

硝子のボトルに収められた船の帆が、膨らんだ気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ