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41:硝子細工を紡ぐ、繊細な君へ

部屋の照明を落とし、リモコンで操作できるサイドランプだけを照らす。

眠れる気は一切しない。


「成海君、どっちで寝る?寒がりだし、部屋側?」

「今日は窓際」

「寒くない?」

「これぐらいは」


何をしでかすかわからないんだ。逃げる導線は作っておいた方がいい。

新菜さんがスマホを置いて、持ってきた枕に飛び込めば準備は完了。


ほのかな明かりが部屋を照らし、雰囲気を構築する。

…もう徹夜するしかないな。

覚悟を決めて、僕も横になる。


「へへ〜」

「どうしたの?」

「なんか、お泊まり会ってこんな感じなのかなって」

「お泊まり会って…そんな、子供みたいな」

「私はそういう間柄になる時はもう引っ越ししていたから、したことないんだよね…」

「あー…」


「成海君はしたことある?余所のお家にお泊まり」

「うん。陸の家に何度か」

「こんな風に、添い寝?」

「いやいや、布団並べて寝るだけだよ。一緒の布団には…」

「じゃ、私が“はじめて”だ」

「…そうだね。はじめてだね。お互いに」


いたずらっ子の様ににんまり笑う様に、今回は抵抗心を燃やしてみる。

でも、こういう普段らしい彼女が戻ってきたし…良かったかもしれない。


しかし!しかしだ!こういうからかいは本当によくない!特に今は!

枕に顔を埋め、嬉しそうにはしゃぐ新菜さんの横で、僕は微笑ましい視線を向けて彼女を見守った。


「ね、成海君」

「んー?」

「なんか楽しいねぇ」

「そう…よかった」


僕は全然楽しくないよ新菜さん君に粗相を見せないように取り繕うので精一杯なんだもうこれ以上刺激しないでくれ。


「成海君は?」

「へ?」

「ずっと険しい顔してるよ?」

「そう?」

「…緊張とか、してる?」

「…まあ」

「色々、気を遣ってくれているもんね。緊張してない訳がないよね。ありがとう」


伸ばされた指先が、髪を掬う。

人とは細いとは言え、こんな触り甲斐のない髪を触って楽しいものなのだろうか…。

くすぐったさを与えてくる仕草。

彼女の手は、止まらない。


「ごめんね、気を遣わせて」

「僕がしたいと思ったことだから、謝らなくていいから…」

「私は、成海君のおかげで、こうしてリラックスした時間を過ごせています。成海君が側にいるからです」

「う、うん。それなら良かったよ」

「成海君にも、同じ時間を過ごしてほしいなって思ったりもしています」

「…今日は、気持ちだけ」

「そっか…」


残念そうに目を細める彼女の手を握り、近距離で向かい合う。

息が触れる。けれどギリギリで顔には触れない距離。

こんな近くに、新菜さんの顔があるのは…久しぶり。

あの時は額に触れただけだった。

…そう、それだけ。


———けれど、今回は?


ああ、だめだ。

頭から雑念を振り払おうと努力する。

何もしないようにと考えていても、この先を期待してしまう。

口元に視線を移した事がバレないよう、視線を移す。


「…やっぱり、緊張している?」

「そう、だね。新菜さんは、普通みたいだけど」

「取り繕ってるだけ。胸、触ってみる?」

「なっ…それは流石に」

「心臓、すっごく早く動いてるからさ…」

「あ、ああ…そういう…」

「そういうことです」


「…そういう誤解を招くようなこと、言わない方がいい」

「善処したいし、私もね、恥ずかしいこと言ったなとは思うんだよ?」


空いた手を頬に持っていき、赤くなった顔の熱を冷ますように目をつぶる。

でも、彼女にはまだ思惑があるらしく…閉じた目をうっすらと開きながら、上目遣いで続きを述べる。


「それでも…ちょっとだけ」

「ちょっとだけ?」

「…女の子の部分を前面に出して、成海君を意識させたい心もありまして」

「…そんなことしなくたって、十分君は魅力的な人だし、ずっと、見ているから」

「そう言ってくれると思った。だから、控えるようにはするね」


…やめてはくれないのか。

今後も心が危険にさらされる気配をひしひしと感じつつ、息を整える。

普段通りに話していると、少しずつ緊張がほぐれている気配がした。


「流れじゃないと聞けないから、聞いて良い?」

「何を、でしょうか」

「そう身構えなくて良いよ。ありきたりなこと…。そろそろ、進みたいなって。思って」


布団の端を握りしめる。

僕は一体何を聞かされるのだろうか。


「…でもやっぱり、進む前にさ。成海君がどう思っているか、確認しておきたくて」

「う、うん。何を…かな」


ここまできたら、腹をくくるしかない。

何が飛んできても、ちゃんと応えなければ。


新菜さんは困ったように口元へ手を当てる。

本当に話して良いのか、そう思案しているような気はしない。

むしろこんなことを聞いて、引かれないだろうか。また、そんなお門違いの不安を目に浮かばせていた。


そんな心を抱え、彼女は進む。

———次の段階を、提示する。


「…成海君は、キスとか、してみたいと思ってる?」

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