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39:貴方が側にいること

泣き止んだ彼女は、話している間に適温となったミルクティーを一気飲みした後…再び僕のお腹に顔を埋めようとする。

どうやら泣き顔は見せたくないらしい。


しかし…彼女の顔が腹部にあるのもまた気になるもの。

…父さんや美海がひっついていても全くレベルで気にならないのに、彼女相手だとこう…罪悪感が…。


「…新菜さん、その」

「…もう少しだけ」


…そのもう少しが、耐えられそうにないのですが。新菜さん?

しかし、こうも上擦った声で訴えられると…仕方ないかなとも、思ってしまう。

僕もなかなか変な難があるけれど、彼女にもこう…比較するのはおこがましいけれど、似たように生活に支障が出るような難があった。


今まで、遠野新菜という女の子は…何でも持っていて、何でもできて、何も恐れるものがない完璧な女の子だと思っていた。

けれど、それは彼女の努力が作り出した虚像で、本当は…僕とも変わらない、普通の女の子。

弱いところも、怖いところも何でもあって、普通の人と変わらない。

こんな当たり前の事、もっと早く気がついてあげられたらよかったのに。


「ね、成海君」

「なぁに?」

「…幻滅、したでしょう?」

「してないって、さっき言ったよ」


「違う。難点の部分じゃなくて、遠野新菜って存在に…」

「どうして、そう思ったの?」

「…だって、成海君が好きになったのは」

「確かに…こういうことを全部隠していた「新菜さん」だね」

「…我が儘も多くて、できない事も多くて、面倒くさい」

「気遣い上手で、できないなりにできる方法を模索できる人で、面倒をかけても、笑顔で手を引っ張ってくれる新菜さんだね」


「…なんでこう、ポジティブ解釈してくれるの?」

「人間誰しもそういう弱い一面もあるんだろうなと…」

「…嫉妬深くても?」

「…それは」

「皆と仲良くなるのは嬉しいけど、その反面…一緒にいる時間が少ないな。他の女の子と話さないで欲しいなとか。思っちゃう私でも…成海君は受け止めてくれる?」

「…半分。他の女の子と話すなって言うのは無理。姉さんや美海もいるからさ」


新菜さんはそれを聞いた瞬間、僕の身体から顔を離す。

驚いたのか目を丸くして、次第に言葉が彼女の中に溶けて…その顔に笑みが浮かんだ。


「も〜…普通ここでお姉さんと妹さんと話せなくなるから〜って拒否する?」

「…違うの?」

「ここでの女の子って、普通クラスの女子とか、そういうのじゃない?」

「そういうものかなぁ…」

「ま、冗談だよ。そんなこと、お願いしたくないから…」


俯く彼女の表情に、また影が灯る。

僕の事を「わかりやすい」と言うけれど、こうして素を見せた新菜さんもわかりやすい部類にいる気がする。

嫌、なんだろうか。僕が他の女の子と話す姿を見るのは。

確かにその逆は複雑ではあったけど…必要な事だし、受け入れてはいた。


…陸の言うとおり、恋愛は面倒くさいのかもしれない。

互いに何を考えているか分からないし、自分ではいいかと思っても、相手が嫌に思うことだってある。

けれど、それを含めて付き合っていきたい。

互いの気持ちを尊重して、妥協点を探りながら。


「じゃあ、今は冗談だって聞き流すよ」

「…冗談だもん」

「本当に嫌だなって思ったときはちゃんと話して。どうしたらいいか一緒に考えよう」

「…そういうところ、ほんとすき」

「僕も、人間くさくて面倒くさい一面がある新菜さんがもっと好きになった」

「め、面倒くさくてもいいの…!?」

「それが遠野新菜って女の子を構成する要素なら、僕は受け止めたいと思っているよ」

「…もう。甘すぎるよ」


口をとんがらせて、ふてくされる彼女。

でも、笑っている。笑ってくれている。

椅子から立ち上がった彼女を、支えるように腕を伸ばすと…新菜さんの手は、まっすぐと僕の頬に添えられる。

手から、熱が伝わった。温かい。


「でも、そういうところも好き」

「…ありがとう」

「素直にお礼を言えるところとか、好きだなって」

「…!?」

「感情がわかりやすいのも、声も仕草も、成海君が全部好き」

「…なんで、そんな」

「ちゃんと、伝えておこうと思って。こうして二人きりでじっくり話せるの、滅多にないし」

「確かに…そうだけど」

「どんな些細なきっかけも、大事にしたい。もう取りこぼさない」


頬から背へ、伸ばした腕は僕の背後で結ばれる。

一歩、慎重に距離を詰めた彼女と僕の距離感がゼロになったのを見計らい、同じように背中へ腕を回す。

夏場とは異なり、間を遮る壁は分厚い。

それでも、得るものは多く。互いの熱は、きちんと伝わる。


「ね、成海君」

「———これからも、側にいて」


返事をするように、抱きしめる力を強くする。

安心しきったのか、彼女から緊張は抜けていた。

僕に寄りかかりながら安堵した彼女の頭を、背を撫でる。


カーテンの隙間から見える外は、真っ白だった。

吹雪いているのだろう。窓を揺らす音が時々聞こえる。


けれどここはもう、吹雪いていない。


開けた視界の中で、彼女を見つけられた。

彼女が抱えているものも含めて、一緒に進もう。

雪解けは、もう近い。

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