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32:雪降る街

授業が終わり、そのまま放課後へ。


広瀬先生から今日は部活も何もかも中止で、そのまま帰宅するように。それから明日の休講を伝えられた。


既に交通機関がいくつか止まっている。そういう点から明日の休校も決まったようだ。


放課後になってしばらく。

僕らは陸のお母さんが迎えに来てくれるのを校舎の中で待つ。

猛吹雪は止まない。

一寸先すら見えない吹雪の中、既に帰宅した美咲さんは問題なく歩けているだろうか。

一応、全員家に到着したら連絡し合おうとは話しているが…。


「成海〜」

「姉さん。どうした?」

「よかった、まだ残ってた。この吹雪の中、徒歩で帰るとは思っていなかったけど」

「へいへい…それで、どうしたんだ?わざわざ一年の教室まで」

「あーいや。お父さんから「タクシー代は出すから、今日は成海とタクシーで帰っておいで。ついでに美海も拾ってきて」って連絡来てるから」

「僕には来てないぞ…」

「一人だけでいいって思ったんでしょ。てか、この寒さだから私が来るまで動かないってお父さんからも思われていたんじゃない?」

「…左様で」


姉さんは証拠というようにメッセージを僕に見せてくれる。

確かに、姉さんが言ったとおり、父さんからのメッセージが来ている。


「で、あんた。まだ残るの?」

「あ…いや。元々、陸のお母さんの厚意で、家まで送って貰える話になっていたからさ」

「そう…」

「それから、今日電車が動いていなくって。新菜さん、うちに泊めたいんだけど」

「いいわよ。大事な彼女だものねぇ」

「…ああ、そうだよ」


「でも、私達に言えないような真似はしないのよ」

「…こんなところでする話でもないだろう」

「あら、忠告は早めの方がいいじゃない。それとも計画でも立てていたかしら?」

「そんなことないよ…僕は父さん達と同じ轍を踏むつもりはない」

「そうね。そうして頂戴」

「ん…」


姉さんからの小言を受け流し、新菜さんの元へ。

この流れだ。流石に陸のお母さんにお世話になることはないだろう。


「陸」

「んー?」

「父さんからタクシーで美海を拾って帰ってこいとのお達しが姉さんの元に」

「あー。そっちもあるのか。成海は一海ちゃんに合流して帰るの?」

「そうしようかと」

「その方がいいよ。母さんには俺から伝えておく」

「手間をかけるな」

「気にしないで」


陸に声をかけ、新菜さんに目配せをする。

行先が同じである彼女もまた、同じだ。


「鷹峰君、ありがとうね」

「いいからいいから。ほら、今吹雪止んでいるみたいだし、無事に帰れるといいね」

「そっちも」

「俺たちの方ももうすぐだって連絡来てるから」

「帰ったら連絡、忘れるなよ。成海」

「新菜も、成海がしてくれるからって忘れないでよ?」

「忘れないよ〜?」


防寒対策を施す中、互いに交わした約束を念入りに言い聞かせ…行動を別つ。


僕と新菜さんは姉さんと合流して、陸達は陸のお母さんを待ち続ける時間を続ける。

幸いにして吹雪はちょうど止んでいる。

家に到着するまで、温情を見せてくれたら良いのだが…。


「…新菜ちゃん、大丈夫?」

「新菜さん、きつかったらいつでも…」

「うん。頼らせて貰うね…」


姉さんにも分かるぐらい、新菜さんの顔が青ざめている。

降り積もる雪の様に、彼女の不調もどんどん表層に。

ふらつく彼女をしっかり支えながら、僕らは階段を降りて玄関先へと向かった。


◇◇


姉さんが呼んでくれたタクシーに乗り、まずは小学校。

待っていた美海を広い、それから帰路へ向かうことになる。


「へぇ。新菜さん今日お泊まりなんだ」

「うん。お邪魔させて貰うね」

「着替えとか大丈夫?ああ、お姉ちゃんの新しいのとか使えばいいか」

「一日だけだし、そのまま…」

「道中コンビニとか寄っておく?着替えもだけど、自分に合った石鹸とかもあるだろうし…手持ちないなら出すわよ?」

「いえ…」

「すみません。道中のコンビニ、どこでもいいので止まっていただけますか?目的地は変更無しで」

「はーい」


新菜さんの遠慮をガン無視して、姉さんは運転手さんに指示を出す。

快く返事してくれた運転手さんは適当なコンビニに向かってくれた。

「買い物をしたら戻る」と声をかけて、コンビニに走った姉さんは大袋を抱えて戻ってきた。


「お待たせしました」

「もう大丈夫ですか?」

「ええ。では、目的地に」

「はい。いやぁ、お姉さん優しいですね」

「弟の大事な人ですから。当然ですよ」

「真ん中の子、ご姉妹じゃなく」

「弟の彼女です。今日、公共交通機関、色々と止まってしまっているでしょう?この天気ですから、我が家に泊まってはどうかと」


「よかったですね、彼女さん」

「そうですね。凄く助かりました」

「この流れだし、全部渡しておくわね。サイズは目測だけど、合っているはず」

「こんなに…ありがとうございます、一海さん」

「お礼を言われることはしていないわ。泊まるなら必要最低限よ。お金のことは気にしないで」

「でも…」

「クリスマスプレゼントでも押しつけられたと思えば良いわ」

「…早すぎますよ」


袋の中には、コンビニで買える肌着一式と、それからお菓子と軽くつまめる軽食。無添加の基礎化粧品にトラベルシャンプーセットが入っていたらしい。

新菜さんはそれを抱きしめながら、改めて姉さんにお礼を告げていた。

姉さんは飄々としながらも…ミラー越しに映った表情が、とても嬉しそうに笑っていた。

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