31:それぞれの行先
木島君の方が落ち着いた後、僕は若葉さんの方に合流する。
「若葉さん、どこまで?」
「高速バスの可能性を潰したところ。…バイパス、通行止めっぽいから運休するって」
「じゃあ、迂回する路線バスかな。市街地だし、駅前まで行けば捕まえられるはずだ」
「でも、交通費結構かさむんだよね…新菜の財布、持つかな」
「手持ちはあるし、貸せるよ」
「気軽に言うけど」
「…有事の時は仕方ないだろう。とりあえず、前の四人のところに行こうか」
「だね」
若葉さんとともに、頭を抱える四人と合流する。
「進捗どう?」
「若葉だ〜。家泊めて〜帰るの怠い〜」
「帰れるなら自分の家に帰りな、美咲」
「でも距離あるしぃ…?」
「それでもだめ。うち狭いんだから」
「若葉いつもそれいうよね?どんだけ狭いの?」
「私、自分の部屋ないし。葉平葉輔も部屋ないし。てか一間に家族全員大集合だから」
「…想像以上に狭かったかも」
「わかったならやめておいて貰えると。てか、そんなことよりも新菜はどんな感じ?高速バス、ダメになったみたいだし…路線バスしかもうないっぽいけど…」
「うちみたいにご両親のどちらかが迎えに来るとかは?」
「…お金は持ち合わせがなくて、両親は今日、二人とも仕事」
「僕は今日、そのまま帰る予定だったから千円…」
「それじゃ足りないね。最短で千五百円はいる」
「困ったな…」
新菜さんの行先がなかなか決まらない。
渉のように誰かの家に泊めることができたら良いのだが…僕の家は、流石に嫌だろうか。
「新菜さん、もういっそのことうちに来る?」
「成海君の?」
「家族全員いるけど、空き部屋はあるし…鍵もちゃんと閉まるし…。暖房はつけ放題!ご飯もおかわりし放題!」
何となく必死感がにじみ出ているような気がするのだが、気のせいだと思いたい。
「…じゃあ、お言葉に甘えて良いかな?」
「是非」
新菜さんがすんなり受け入れてくれて、一安心。
「俺もそっちに…」
「空気読め、渉。お前は俺の家だ」
「渉乙。獄卒ハウスレビューよろしく…私は若葉の家に行くから」
「自分ちに帰れ」
「薄情…私もせませまハウスのレビューをしようと思ったのに」
「我が家は確かに皆と比べたら狭いかもだけど決して見世物小屋じゃないからね?」
それぞれの反応を、新菜さんと顔を見合わせて笑い合う。
けれど、彼女の表情から笑みが消えるのが早かった。
…不安げに窓へ何度も視線を向ける。
「新菜さん」
「…」
「新菜さん、少しいい?」
「え、あ…何かな?」
「雪、苦手だったりする?」
「…なんで、そう思ったの?」
「窓を見て、ずっと不安そうだったから…」
「少し、ね。昔、色々あって」
「…帰りは平気?ほら、少し外に出るからさ」
「大丈夫。それぐらいなら平気だよ。ありがとうね」
「無理はしないでね」
「うん」
そうは呟いても、彼女の愁いは晴れない。
窓を何度も見つめては、俯いての繰り返し。
本当に、大丈夫なのだろうか。
昔、雪が関係する何かが彼女の身にあったことが分かるのだが、今はまだそこに触れることはできない。
けれど、できることは存在する。
「…」
「…成海君?」
「今はこれぐらいしかできないけれど、側にはいるから」
「…ありがとう」
いつも支えてくれていた新菜さんが見せた弱みの部分。
その全てを暴くのは、もう少し後。
今はただ、震える彼女の手を握りしめ…大丈夫だと、一人ではないと伝えることしかできやしないけれど。
今度は僕が、彼女を支えるんだ。
その第一歩として、握りしめた手に力を込めた。




