14:普通の学生らしい生活
午前中の授業を終えて、昼休み。
いつも通り昼食を食べようと、陸とお弁当を机の上に広げていた。
「…相変わらずしっかりしたお弁当だねぇ」
「余り物を詰め込んだだけだよ」
「…成海は立派な主夫になれるよ。って、何か今日の弁当小さくない?」
「あれ?」
緑の包みから出てきたお弁当は、水色の弁当箱。
男子高校生が使う弁当にしては可愛らしいぐらい小柄。
…僕が使っている紺色の弁当箱じゃない。
「…一海ちゃんと弁当間違えた?」
「…やらかした」
「成海でもやらかすときはやらかすんだねぇ」
「人間だもの」
「それもそうだね〜。じゃあ、一海ちゃんのところに成海の弁当があるわけ?」
「そういうことになるだろうな」
「ところであの人だかり、何だと思う?」
「何も聞くな」
「成海ぃ!私の弁当だと思ったらお父さんの弁当なんだけど!?どれだけ食わせようとしてんの!?」
「うっかりだって、姉さん…え、父さんの弁当?」
人混みを割るようにしながら、一年の教室まで押しかけてきた姉さんの元に駆け、姉さんの弁当を手渡す。
僕が持っていたお弁当は、あるべき人の元へ。
けれど、姉さんが手渡してきたのは銀色の弁当箱。父さんが使っているお弁当箱。
僕のお弁当は見当たらない。
「そう。お父さんのお弁当。全員入れ間違えたんでしょ」
「…じゃあ、父さんのところに」
「成海の弁当箱があると思う」
「あー…」
せめて、自分と姉さんの弁当箱だけが入れ替わっていたら良かったのに。
まさか父さんとも入れ替わっていたとは。
僕と父さんの食事量は全然違う。父さんの弁当では、流石に足りない。
「あんた、その量で足りるの?」
「足りない」
「でしょうね。この量じゃお腹空くでしょ。お金は?」
「ちゃんと持ってきている」
「じゃあちゃんと足りる量買えるわね」
「多分…」
「そうね。今からだと残っているかもどうか怪しいわね」
不安げな顔を覗き込みつつ、姉さんは小さく息を吐く。
ふと、手が頭に伸びそうだったけれど…ここがどこか思い出して、すぐに引っ込めた。
「…じゃ、私は弁当貰っていくから。あんたはあんたでどうにかしなさい。購買、急がないとなくなるわよ」
「ん」
「一応聞いておくけど…疲れているって訳じゃないわよね」
「なんで?」
「いや、あんたにしては珍しいと思ったから…」
「うっかりだよ、休みボケ」
「そういうことにしておく」
三年の教室に戻る姉さんの背を見送り、僕は席に戻る。
鞄の中から財布を取り出し、様子を伺っていた陸に声をかけた。
「…時間、かかるかもだから先食べてていいぞ」
「りょ。健闘を祈る」
「ああ」
陸は買ってきていた惣菜パンを囓りながら、僕を見送ってくれる。
思えば、購買に行くのは初めてだ。
何があるのだろうか。
◇◇
購買に到着する。
昼休みが始まってから時間が少し空いているからか、人混みが出来ている感じではなく、疎らに人が集まっていた。
その中に、彼女を見つけた。
「どうしよう…これじゃ量が多いし…」
「遠野さん?」
「あれ?楠原君?」
一人で唸りながら商品を選んでいた遠野さんに声をかける。
こんなところで会うとは思っていなかったらしく、遠野さんは僕を見て目を丸くしていた。
「どうしたの?いつもお弁当…」
「今日、自分の弁当とは別の弁当を入れてきちゃって。足りないから追加を」
「いっぱい食べるねぇ」
「そういう遠野さんは?」
「私も、今日はコンビニ寄らずに来ちゃって…購買で買おうと思ったんだけど、想像以上に多くって」
「あ〜。確かにこのハンバーグ弁当とかチキン南蛮とか、がっつりしてるもんなぁ…惣菜パンは?」
「…チーズアボカドパンとか、なんかそういう変わり種ばかりで」
棚に陳列されている惣菜パンは、遠野さんの言うとおりあまり聞かないような味がラインナップされていた。
チーズアボガドはともかく、セロリパンなんて誰が食べるのだろうか…。
「本当はパンぐらいでいいんだけど…」
「このラインナップじゃ、パンを選ばず弁当がマシかってなる気がする…」
「でも、弁当を買って残すのもなって…考えちゃってさ。どうしよう…」
「じゃあ、少し貰っていい?」
「いいの?」
「ん。互いに損はない話だと思うけど」
「それでも、足りなかったら…」
「念の為チーズアボガドパン買っていく」
「食べるの!?」
「興味はあるから。弁当はお金半分払うよ。遠野さんが食べたい方を選んで」
「…じゃあ、チキン南蛮。人気ナンバーワンらしいよ」
「それは楽しみだ」
遠野さんにチキン南蛮弁当の半分を手渡し、僕は僕でチーズアボガドパンを購入する。
「遠野さん、どこで食べる予定?」
「教室。楠原君は?」
「同じく教室」
「じゃあ、さ…分けた後も、お昼、一緒しない?」
「遠野さんさえよければいいけど…いいの?」
「だ、大丈夫!多い方が楽しいよ!絶対!若葉と美咲も大丈夫だと思うから!」
「そう?じゃあ、窓辺においでよ。暖かいよ」
「そうさせて貰うね」
帰った後の約束をしつつ、教室に戻る。
一度別れた後、遠野さんは友達二人と一緒に窓辺の席へやってきてくれた。




