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28:繕うのは間柄

席替え後も、授業は普通に行われる。


「…楠原君」

「どうした、藤枝さん」

「黒板の文字、下の方見えなくて…なんて書いてある?」

「ああ…あの先生、下の方までびっしり書くから…。少し待っていて。そこまでノート取るから」

「ごめんね、迷惑かけて」

「いいって。そこ、見にくいの?」

「前の方、男子が集まってるでしょ?その関係で…」

「ああ…なるほどね。はい、ノート」

「ありがとう」


確かに、今回の席替えは前みたいに疎らではない。

前列に男子が密集している。ここからでは新菜さんや美咲さんの後ろ姿さえ埋もれかけている。

「視力が悪い」以外の移動はなかった。小柄な藤枝さんでは、立っても黒板が見えにくい事態が起きるだろう。

ちゃんとフォローできたらいいのだが。


「…彼女以外にもいい顔すんのな〜」

「困っているなら手を貸すのが当然だろう」

「…ふん」


…僕のやる事なす事気に食わないのだろうか。

些細なこともぼそっと小言を告げてくる木島君。


「…気にする必要ないよ」

「…うん」


これ、いつまで続くんだろうか…。胃が痛くなってきた。

藤枝さんは気にすることないと言ってくれるが、何故かという部分は疑問に残ったまま。

本当に何なんだろう…。


◇◇


順調に授業を終え、昼休みに。

前に四人がいるし、前に集まろうと若葉さんと話し…僕らはいつも通り、六人で固まって昼食を摂る。


「はい、新菜さん。卵焼き」

「あ〜ん」

「…お弁当の蓋に置かせてくれない?」

「口に運んでくれていいのに…」

「人目があるからダメです」

「残念」


お弁当の蓋に卵焼きを置き、その代わり新菜さんの卵焼きが僕の弁当の蓋に置かれる。

ここ最近、毎日やっている交換。

五月から始めた料理教室も成果が出てきたのか、新菜さんの料理の腕もかなり上がっている。

冬場で朝起きるのがきついだろうに、いつもより一時間早く起きて、自分でお弁当を作っているそうだ。


「毎日美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

「事実美味しいよ」

「ありがとう。新菜さんも、上手に…んぐ?」


口の中に違和感が走る。

ふわふわの卵からは到底出てくるはずのない固めの食感。

これは…。


「…成海君、今、しゃりって口から」

「んー…卵の殻が入っていたみたい」

「うそっ。ごめんね。気付かなくて」

「いいって。小さい欠片だったし、気付かないのも仕方ないよ」

「それでもだよ。ごめんね」

「気にしない気にしない。こんな時もあるって」

「ところで、成海君」

「何?」

「後ろ、大丈夫?」

「今のところは何もないよ」

「そう…」


新菜さん達に要らぬ心配をさせたくないので、とりあえずはぐらかしておく。

小言が飛んでくるだけで、実害はない。相談する必要もないだろう。


「前の席は、どう?」

「すっごい圧だよ。先生も近いし」

「あの環境で寝られる吹上さんがおかしいね…」

「私寝てないよ?」

「いや、寝てただろ。先生も気付いてたぞ…」

「流石美咲。ブレないわ」


いつも通り、他愛ない話をする中…気まずそうに男子生徒の集団が僕たちの元へやってくる。


「な、なあ…楠原」

「どうした?」

「裁縫道道具持ってないか?」

「あるけど…何かあったのか?」

「ああ、さっき廊下で遊んでいたら…制服のボタンがな」

「しかも複数人…」

「俺、ワイシャツ破けた」

「何やってんだよ…ほら、ボタンと服、セットで持ってこい。繕うから」


「でも、昼飯…」

「もうすぐ食べ終わるから。準備できたら声かけてくれ」

「流石に自分で縫うぞ?」

「時間もないだろう?すぐ終わらせるから」

「じゃあ、お言葉に甘えて。助かるよ」


弁当の残りを掻き込み、片付けを終えた後…持ってきてくれた順にボタンをつけなおし、破れている分は応急処置を施す。

…なんでこんな真冬にワイシャツの袖部分が分離する事故が起きるんだ?まあいいか。


「…成海君、お裁縫までできるの?」

「君、成海の何を見てきたの?手先は凄く器用だよ。裁縫工作美術なんでもござれなんだよ、僕の幼馴染は」

「古参アピールお疲れ様。私は今から知っていけば良いからね」

「「…ぐぬぬ」」


…新菜さんと陸は何を話しているんだろうか。

まあ、悪い話ではないから放置しておこうか。


「ワイシャツは応急処置だ。帰ったら処分してくれよ」

「助かる楠原〜!」

「これぐらいは」

「文化祭の時も思ったけど、滅茶苦茶器用だよな」

「そうか?」

「普通の男子高校生はここまで綺麗にボタンつけられないから」

「応急処置ぐらいは覚えておいた方がいいぞ」

「じゃ、時間がある際、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「川口、授業の実践か〜?」

「こんな使い方してなかったろ。うろ覚えか、島田。じゃ、助かったわ楠原」

「ああ」


川口君と島田君を含めた五人が去る姿を見送り、後ろを振り返る。


「…成海君って、男子と話す時は口調粗めだよね?」

「成海の普段はこっちだからね」

「古参幼馴染は黙ってて?」

「まあ、陸のいう話は正解だよ」

「前は、私とも普段らしい話し方で〜って話したような気がするけど、気がつけばいつも通りだよね?」

「そうだなぁ…やっぱり、粗めだから。怖くない方がいいだろうし」

「…」


新菜さんは若干不服そうにしつつ、僕をジッと見つめてくる。

粗めの方が、良かったりするのだろうか…。

よく、わからないな。

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