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24:寵愛昂じて

空き地に辿り着いた後、鷹峰君は真っ先に土下座をさせられていた。

美咲との間にどんなやりとりがあったかはわからないけれど、彼は悔しそうな顔で地べたに突っ伏す。


「このたびは、まことにもうしわけございませんでした…」

「何に対して申し訳なく思ってんの?」

「…厄介扱いしたこと」


「と、とりあえず立ち上がってくれるかな」

「…ありがたく」


ズボンについた砂汚れを払い、一息吐いた彼は…叩いた後の手を美咲の制服にこすりつけるフリをする。

しかし、背面が見えない美咲からすると…その行動はフリではなく…。


「何すんの」

「いや、手を拭くのがなかったから」

「なるみし〜!鷹峰がちくしょ〜!」


自分のブラウスで汚れを拭かれたと思った美咲は半泣き状態で成海君の名前を叫び、彼が待っている駄菓子屋の外のベンチに駆けていた。

…私の成海君なのに。


「ほら、その顔」

「…?」

「君、結構無自覚みたいだね」

「…何が言いたいの?」

「付き合う前から、成海に他の誰かが関わると…表情が失せるの気がついてる?」

「そんなことはないと思うけど」


頬に触れながら、作り笑いを浮かべつつ…躱そうとするが、逃げられない。

彼は絶対に、逃がしてくれない。


「じゃあ、今さっき彼女が成海へ駆け寄った時…どう思ったか教えてよ」

「そりゃあ、美咲可愛いな〜ってぐらいしか」

「嘘」

「…っ」

「可愛いなって思うフリをするなら、表情まで作りなよ」

「…困ったな」

「僕も困ったよ」


「だから、厄介?」

「そうだね。だから厄介。こんな独占欲を見せてくる女が成海の彼女だなんて…」

「貴方も大概だと思うけど」

「———お互い様だから、気付くんだよ」


「…そうだね。貴方も同じように成海君を囲ってる。そこまでする理由は?」

「君と似たようなものだよ。俺は小学一年の時にこの土地に来てね。友達も誰もいない中、成海だけが手を差し伸べてくれた。友達になってくれたんだ」

「…でも、鷹峰君って成海君以外の友達も」

「いないよ」


学校内でも話す人間はいる。

関わる人間もいる。

けれど彼は、成海君以外を友達だとは思っていないのだろう。

それは、私達も同じ扱い。


「朝陽ヶ丘って君が思っている以上に田舎。噂は広まりやすいし、家族構成とか勤務先とかすぐに近隣へ伝わる。小学生の時の僕は「鷹峰のお坊ちゃん」と周囲に呼ばれていたよ」

「…ミツエさんも、そう呼んでた」

「だろうね。あまりひけらかすつもりはないけれど、家が運送業を経営していてね。その関係でお坊ちゃんさ」


「…そう。でも、なんでこんなところに?普通の商業高校なんかにいていいの?」

「成海の進路に合わせた。成海の成績から進学校を狙うと思っていたけれど…まさか近所を選ぶとは思っていなくて」


「…成海君に合わせて進路変えられたんだ」

「まあね。両親が、理解を示してくれたから」

「…それほどまでに、成海君が大事なの?」

「ああ。大事だよ。だから彼が大丈夫だと思える日まで、俺が成海から危険を遠ざける。あの日、自分で誓ったんだ」


その意志は崩れることなく、今日に至る。

成海君に降りかかった面倒事を鷹峰陸によって遠ざけられ…彼が内密に処理をしていた。

木島の一件も、そういうことなのだろう。

妙に情報が出そろっていたということは、以前から警戒をしていた。

内々に調査を進め、その結果をぶつけたに過ぎない。

成海君の為なら、どこまでする気なんだこいつは。


「…だから、俺は君を厄介だと感じるんだよ。遠野新菜」

「私が成海君の彼女だから?」

「君の存在には求心力がある。これまで人付き合いがよろしかったようで…知っている?一学期末に行われた一年男子の間で「付き合いたい女子ランキング」なんてものがあったんだ。君は一位を堂々と獲得していたね」

「そ、そんなのしてたの…?」

「みたい。そんな君が誰かと付き合った。それが学年でもぱっとしない成海だと知られたら、面倒事が増えるじゃないか。俺の仕事を増やさないでくれる?」


「…木島みたいな奴が増えるかもってことでしょう?」

「そういうこと。成海にバレないように処理するのも大変なんだから、気を遣ってくれなきゃ」

「…しなくていいことを」

「しなかったら、成海が何らかの形で傷つく。他者の言葉で自信を失い、塞ぎ込んでも君はいいって言うんだ」


「それは…よくない、けど」

「内心「いい」と思っているだろう?」

「そんな」

「自信を失った彼に甘い言葉で傷口を埋めて、自分だけに依存するよう仕向ければ、君には都合がいいからね」

「そんなこと、するわけが…」

「事実なりかけているんだよ。君は無自覚に成海を自分で覆おうとしている。成海を自分だけのものにしようとしている。だから厄介なんだ。成海が君を好きである以上、迂闊に手を出せない…引き離せないからね」

「…」


「成海が君と交際する限り、俺自身は深く干渉しない。けれど君の存在が成海をダメにするのであれば…俺は容赦をしない。君を必ず成海から引き離す。それだけは、覚えておいてくれ」


本音を明かすと同時に、忠告を終えた鷹峰君はいつもの表情のまま、成海君の元へ歩いて行く。

置いて行かれた私は、呆然と立ち尽くす。

そして同時に考える。

このままでは、いけないと。


このままでは、厄介な男から成海君を奪われると。


でも、やめられない。

側にいたい。自分だけの隣にいて欲しい。特別でいたい。

そんな欲を抑えながら立ち回れるほど私は器用ではない。


私は…そんな忠告を受けても尚、初めての恋に自制心を抱けるほど、理性的な人間でもないのだ。


けれどきっと、鷹峰陸の言葉は「ストッパー」となるのだろう。

成海君と引き離されないように立ち回る為に、あの男の言葉を心に反響させるのは大変不服ではあるのだが…。


…そこだけは、素直に感謝をしておこう。

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