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22:ビー玉の中に、君がいる。

店の中は、思ったよりも広かった。

年代を重ねた木々の香り。 棚にはお菓子だけではなくておもちゃや文房具、それに何故か近隣小学校の名札まで取り扱っていた。


「…なんで名札?」

「ここで販売しているんだ。他にも指定上履きとかも売っている」

「駄菓子屋っていうより」

「個人商店だよ。駄菓子屋の色が強いだけで」

「そうよ〜」


店主のお婆ちゃんがさりげなく会話の中へ。

にこやかに微笑む彼女は、成海君の姿を見て「あら」と呟いた。


「なるちゃん」

「お久しぶりです。ミツエさん」

「久しぶりねぇ…って程じゃないわよ。去年だって美海ちゃんに財布代わりで連れてこられていたし…」

「それでも一年前ですよ」

「ふふふ。歳を取ると、一年が早く感じてしまうものなのよ」


長い時代、この地域の子供と付き合ってきた女性。

どうやら成海君も知り合いらしい。

しかし、なるちゃんか…。なるぼうより可愛い呼び名が増えるのはズルいぞ…。まだ可愛くなる気なのかな、成海君。


「子供の成長って早いわねぇ。鷹峰さんのところのお坊ちゃんは変わらないように見えたけれど、なるちゃんは随分大きくなった」

「そうですかね?」

「ええ。随分色男になったわ。うちのお父さんの若い頃には叶わないけど!」

「相変わらずお熱いですねぇ。何年経っても仲良しで…」

「夫婦円満の秘訣をし続けた結果よ〜」

「そうですか〜」


「…なるちゃんは興味ないのかしら?」

「…なぜ、そんなことを?」

「あらあら。ね、彼女さん。酷いと思わない?こんなボケをするだなんて」

「ひぇっ!?」


店内をぼんやり見ていた私は、ミツエさんに急に話を振られて驚いてしまう。

彼女は笑みを崩さないまま、私と成海君を交互に見つめ続けていた。


「あら、彼女さんじゃなかった?」

「い、いえ…」

「あら、そうなの?なるちゃん。ちゃんと紹介して!」

「私にも紹介して欲しい」

「み、美海ちゃんまで…」


お好み焼きをぼんやり食べていた美海ちゃんは振り向き、成海君への追撃をこなす。


「…私、何も聞いてない」

「マジかよ美海。お前、兄ちゃんと姉ちゃんとめっちゃ仲良しって話なのに、こんなことも教えて貰ってなかったのか。薄情だな」

「仲良しなのは事実。でも、隠し事をするような薄情過ぎる兄に成長していたらしいんだよね、葉輔…。つらつら…」

「美海、そっち葉平〜。俺が葉輔〜」

「「…」」


気まずそうに目を逸らす成海君を、覗き込む。

ミツエさんは仕方ないというか当然だけど、美海ちゃんにも付き合った事を言ってなかったのか。

まあ、家族に交際報告とか恥ずかしいだろうし、仕方ないか。

私もお父さんとお母さんに彼氏ができたなんて言っていないし。


「…」

「あらあら、からかい過ぎちゃったわね。ごめんなさいね、なるちゃん。ほら、椅子に座って.彼女さんも」

「…」

「座ろ、成海君」


空いている席に成海君を腰掛けさせ、私はさりげなく隣に。

反対側の隣に座る美海ちゃんは不服そうに成海君の足を蹴っていた。

…後で怒られないといいけれど。


「こういう時は、いつもは鷹峰さんのところのお坊ちゃんが助け船を出してくれるところね」

「そう、ですね…」

「そうだったんですか?」

「ええ。なるちゃんは昔、凄く明るかったけど…お母さんの事があってから、引っ込み思案になっちゃって。大体、あの子がなるちゃんの考えていることを代弁していたわ」

「…いつも、助けられてばかりでしたよ」


…鷹峰君からしたら、成海君は目が離せない存在なのだろう。

何があってそうなったかは分からない。

けれど彼にとって、成海君は庇護対象なのだろう。

危険な事から、厄介なことから…彼が苦しむことから遠ざける装置。それが鷹峰陸の存在なのかもしれない。

だからといってその対象の彼女まで遠ざけようとするのはどうかと思うけど。


「そうねぇ。でも、今はそうも言っていられないでしょう?」


ミツエさんは私達の前に、二本の瓶を置く。

少しだけ青みがかかった瓶に入ったラムネ。

見たことはあるけれど、一度も呑んだことは無い。

けれど、見ているだけでなんだか…懐かしさというか。見覚えがあるような。不思議な感覚を覚える。


「からかいすぎたお詫び。彼女さんの分も」

「…ありがとう、ございます」

「ありがとうございます。成海君、これどうやって開けるの?」

「ああ…これを、こうして。吹き出るから気をつけて。僕が開けようか?」

「ありがと。でも、自分でやりたい」


教えて貰った通りに、飲み口の蓋を押し込んで…瓶の口を開ける。

シュワッと吹き出たそれを手で受け止め、ハンカチで拭い…それから一口。

炭酸特有の爽やかなシュワシュワが口の中に広がる。

味も結構甘め。でもラムネ菓子とはほど遠い。


「美味しいねぇ」

「よかったわ」

「ミツエさん」

「どうしたの、なるちゃん」

「…こちらは、遠野新菜さん。新菜さん。こちらは清代ミツエさん」

「紹介してくれてありがとう。ミツエさんも、よろしくお願いします」

「ええ」

「…新菜さんとは先月末から、交際させていただいております」

「「頂いている」のではなく、お互いに「そうしよう」って決めたから付き合っているんですがね」

「…して、おります」

「よろしい」


満足感を得た後、ラムネを飲み干す。

残ったビー玉が、カランと存在を主張した。

それを取り出せないかと、瓶を目線に合わせて覗き込む。

硝子瓶の中に閉じ込められた周囲の世界を覗き込むうちに、その中で唯一色が重なる部分を見つけた。


「…あ」

「どうした、新菜さん」

「ラムネ瓶の色、どこかで見覚えがあるなって思ったら、成海君の目の色と一緒だ」

「…すぐそういうこと言う」

「事実だからね。ね、ビー玉って取り出せる?」

「後で取り出すよ。コツがあるんだ」


成海君は自分のラムネ瓶を殻にした後、ビー玉を取り出す様子を見せてくれる。

難なく取り出せたそれの真似をしても、私はなかなか上手くいかず…最終的には成海君が取りだしてくれた。

取りだしたビー玉は、二つとも私の手の上に載せられる。


「二つもいいの?」

「ん」

「じゃあ、ありがたく」


コロコロと手のひらで転がるそれは、最終的には寄り添って動かなくなる。

私は大事に手のひらで握りしめ、離さないでいた。

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