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21:目覚めた君のやりたいこと

美咲と鷹峰君の勝負が小学生の歓声と共に空き地で白熱する中、私は危機に瀕していた。


「…お兄ちゃん」

「何?」

「新菜さん、太ももに埋まってない?」

「そうか?僕からじゃよくわからなくて」

「なんか頬ずりとかしてない?」

「ベストポジションを探しているだけじゃないか?」

「…そう?」

「そうだと思うぞ」

「それに、新菜さんは本当に眠っているの?」


美海ちゃんがとんでもないことを言い出す。

バレているのかな!?もしかしなくても、バレているのかな!?

成海君の太ももを堪能していたとか思われているのかな…。


「…美海。お小遣い増やすから、これ以上色々言うのはやめなさい。新菜さん、具合悪いんだから…」

「話が分かるね」

「…こういうことだろうと思ったよ。でも、やるなら僕相手だけ。新菜さんは巻き込むな」

「次からは気をつけるよ」


成海君が財布を取り出し、美海ちゃんに手渡す音がする。

小銭の音じゃない。どうやら、お札を手渡したようだ。


「…成海、あんたも下で苦労してるタイプか」

「ああ。まだ若葉さんの弟君達みたいに思いっきりねだってきてくれた方がいいんだが…」

「なかなか一癖ありそうじゃん…まだ素直で良かったと思うべきかねぇ…」


同じように弟から振り回されている若葉が同調するように声をかける。


「そういえば、弟君達ってどうやって見分けているんだ?紹介されたはいいけれど、どっちがどっちだかわからなくて」

「今聞く?」

「聞くタイミングがなかなか無くて。いいタイミングだし、教えて貰えると」

「あ、確かに。俺も思った。どこで見分けてるんだよ」

「まあ、服とか一緒だし仕方ないか。左目の目元に泣きほくろがある方が葉平。ない方が葉輔」


「そんなところに判別材料が…助かるよ。これで間違わずに済む」

「あんま気負わなくて良いって。間違われて起こるような奴らじゃないし」

「それでも、間違うのは失礼だからさ」

「…面倒見が良いところもあるだろうけど、こういうところが小学生相手にも好感持たれる所以だったりするのかね」


そうだよ若葉。小学生相手でも目線は上からじゃなくて対等なんだよ、私の成海君は。

小学生と関わる機会が多いのもあるけれど、関わった子達へ誠実な対応をし続けた結果、懐かれているんだよ!

何故知っているかって?夏休みいっぱい見たから!


夏休み、硝子工房でやっていたワークショップでね!人数が多すぎて結局成海君も先生役で入っていたんだよね。

教え方凄く上手で、先生役の練習の時も手取り足取り教えて貰ったなぁ…。


「ふへへ…」

「新菜さん、新菜さん」

「んー?」

「…どうした?もぞもぞ動いて。同じ向きで寝ていたし、気持ち悪くて起きちゃったか?」

「…へ?」

「熱は…保冷剤の影響でよくわからないな。具合、大丈夫?」

「…うん。大丈夫だよ」

「もう少し寝ておく?」

「流石に足、疲れたでしょ?そろそろ起きるよ。貸してくれてありがとうね」

「いいよ、これぐらい。無理はしないで」

「ん」


…起きてしまった。

ああ…あの出来事を思い出してしまったから、表情が崩れて起きていることに気付かれてしまった。

幸いにして、今さっき起きていると思われているようだ。

そこだけは、よかったかな…。

でも、膝枕とはもうお別れだ。


成海君は話ながら少しきつそうに腰をさすっていた。座りっぱなしで疲れたのだろう。

それを知っていて尚、欲を優先させるほど…私の性根は腐っていない。


「成海君も、私を膝枕し続けて…結構疲れたでしょう?」

「そんなことないよ」

「でも、腰さすってた。正確にはお尻かな。ベンチ、堅いから疲れたって仕方ないと思うんだ」

「…まあ、正直いえばそうだけど。立っていればいいから」

「今まで世話になった恩人にそんなことさせられないよ〜。私の膝、貸そっか?」

「…そんなことは、流石に。体調不良の君に、これ以上疲れることは」


口調がしどろもどろ。ついつい笑みが零れてしまう。

本当はしてほしい。そんな気持ちがにじみ出ている。

ちらちらこちらに…私の足下に目線を向けて息を呑む。

それで隠せていると思っているらしい。

本当に、わかりやすい。


「今はそういうことにしておくね」

「…今だけじゃなく、そういうことだから」


人前は勿論だけど、私の前でも素直じゃない彼には…ちゃんとお礼をしておかないと。

今はダメでも、いつかならきっと。


「…じゃあ、元気になった後。二人きりの時にね。それならいいでしょう?」

「…じゃあ、それで」

「了解」


そっと耳打ちで今後を提案すると、彼は照れながらも頷いてくれる。

ああ、本当に可愛い。

やりたいことを素直に言えないところも、手を差し伸べたら受け入れるところも。

でも、たまには自分からちゃんと「やりたい」とか、伝えてくれてもいいんだけどな。

いや…まだいいや。

私が知らない一面だけじゃなく、こういう可愛いところも…まだ内緒にしておいて欲しい。

私が引き出さなければ出てこない代物で、今はいい。


「そういえば、ここって駄菓子屋さんなんだよね?」

「うん」

「個人商店の駄菓子屋さんって行ったことなかったんだ。入ってきていい?」

「ついていくよ。まだ、ふらつくだろう?」

「そんなことないよ…あ」

「おっと」


ベンチから立ち上がり、少しだけ立ち上がると…一瞬だけめまいがして、足下がふらつく。

とっさに成海君が支えてくれたので倒れることはなかった。


「…まだ休んでいた方が」

「一瞬だけだよ。大丈夫」

「…」

「それに、どちらかといえは精神的な疲労の方が強いから。嫌な事とまた後で向き合うことになるんだろうけど…今は、そのことを忘れて楽しくやりたいな〜って。付き合ってくれる?」

「それなら…。でも無理だけはしないでくれ。約束」

「ん、約束。それじゃあ、行ってみようか」


昔ながらの扉を開き、店内へ。

少しだけ薄暗いそこには、何があるのだろうか。

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