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19: 膝の上の新菜さん

成海君の厚意で、彼の膝を枕にした私はゆっくり息を吐く。

渉君に買ってきて貰った冷えた水を首元に当てているおかげか、少しだけ気持ちが良い。

なんなら膝枕だけで無限に回復できそう。

もう一生ここでいい。今日からここを永住地とする。


なんなら今すぐ太ももと太ももの間に挟まりたいし、素肌で頬ずりしたい。

きっとひんやりして気持ちいいだろうなぁ。成海君、体温も低めだから手とかひんやりしている時が多いし。


しかし…私の顔が下腹部の近くにあるのに、成海君無反応だな。

もう少しこう、何かないのだろうか。


「…ところで成海。こう聞くのもなんだが、お前平気なの?」

「ん?平気だが?」

「軽い重いの話じゃなく…その、太ももよりちょい上の」

「…何も聞くな。無心にすることで抑えている」

「お前もちゃんと男だったんだな!?」

「ばっ!?声がデカい!新菜さんが起きたらどうするんだ!」

「そういうお前も大概声デカいぞ!」


そんな心配しなくとも、私は最初から起きていますよ…。

もしかして、眠っていると思われている?

ふむ。これはいいかも。

目をしっかり閉じて、眠っているふりを継続。成海君と渉君の声に耳を傾ける。

もしかしたら成海君の私には見せない何かが見られるかもしれない…。


「今のうちに鞄と膝、入れ替えるか?」

「いや、いいよ」

「でも、無心にし続けられるのか?新菜は動くぞ?」

「…」

「腹部方面に寝返りして、取り返しつくのか?」

「…どちらにせよベンチで寝返りなんてしたら落ちてしまうだろう」

「それもそうだな」


成海君の手が、私の頭に触れる。

ゆっくりと頭部から頬へ。髪を撫でるように動かすさりげない手つき。

眠っていない私に眠気を与えてくる。


「それに、こんなにも穏やかに眠っている。邪魔するのも無粋だろう。我慢する…おい、渉。なにするんだ…頭を撫でないでくれ」

「いや、できた奴だなと思って」

「…?」

「新菜の事、俺たちが想像している以上に好きだったりする?」

「想像している部分がどんなレベルなのか分からないから、なんとも言い様がないんだが…」

「そうだなぁ…じゃあ、できれば毎日キスしたいってぐらい好き?」

「したこともないんだが!?」


渉君から投げかけられた言葉に、成海君だけでなく私も動揺して目を見開いてしまう。

見つからないうちに目を閉じて、聞き耳を立てる。

付き合い始めて数日程度だが、意識をしていなかったと言えば嘘になる。

けれどまだ先になるだろう。そう思っていたのに…こんなタイミングで成海君の気持ちを聞けるだなんて、想像すらしていなかった。


ありがとう、渉君。私は今、成海君の私には見せない本音フルコースと太ももを味わうとっても有意義な時間を過ごせているよ!


「ま、まあ…タイミングはしっかり見計らおうと思っているところだ。どう誘えばいいかもわからないからな…」

「そっか…まだそこには到達してなかったか…すまんな」

「いや、別に。気にすることはない…まあ、したいのは。うん。したいぐらい好き」

「…そ、そうか!」

「なんというか、支えて貰った分、きちんと支えていきたいと思うぐらい好きなんだ」

「へぇ」

「…」


それってつまり…結婚したいってこと!?

成海君ちょっとそれは意識が早すぎるよ。意識してくれるのは非常に嬉しいけれども!

も〜!ここから先の話、どんな顔して聞けば良いの!?

寝たふりで無表情を保ちつつ聞けば良いだけの話か…。辛いな…。


「滅茶苦茶好きなんだな」

「ん。好き」


「その一言で済ませていいレベルじゃないぞ…とりあえず、新菜の為に駆け落ちとかしてくれるなよ?」

「…する予定は今後も一切無いが?」

「でもさ、新菜に求められてとかあるんじゃねえの?交際、認められないとか」

「そんな事態にはならないよ」


「断言するねぇ。その根拠は?」

「もしも誰かと付き合うなら、その人や周囲には礼節をわきまえて、誠実に接しようと決めている。父さんや、彼女の両親に咎められるような事はしないよ、絶対に」

「堅いな」

「身内で色々あってね」

「詳しくは聞いていいやつ?」

「そうだなぁ…じゃあ、渉には少し。教訓がてら」


成海君は小声で何か渉君へ伝える。

残念ながら私には聞き取れない。

渉君は一瞬驚いた後、納得したような声音で成海君の肩を揺らす。


「なるほどな。教訓にしておくよ」

「そうしてくれ。もしもそういう事態になったら…」

「ならんならん。相手がいない俺がそんな事態になるわけないだろ。もしもそうなったら、思いっきり腹パン一発食らわせてくれて良いぞ〜」

「言質、取っておく」

「…マジで?本気?」

「ああ」

「ま、そんな事態にはならんならん。俺には一番遠いっての」


「———何が遠いの?」


「若葉さん。おかえり」

「おかえり、若葉〜。保冷剤持ってきてくれたのな〜。お疲れさん」

「ごめんね、遅くなって。帰ってきたお母さんにお使いとか家の事頼まれて…で、何が遠いの?」

「お前は気にしなくていいよ。こっちの話ってか、関係ない話」

「…そう?」


保冷剤を受け取った渉君は、それをそのまま成海君に手渡し…成海君はそれをハンカチに包んで私の額に乗せてくれる。


ちなみにだが、冗談めかして告げたこの一言をきっかけに、森園渉は楠原成海から全力の腹パンをお見舞いされる事になるのは、そう遠くない未来の話だったりする。

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