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18:「厄介」な感情

私達が危惧していた事情はまだ起こっていなかった。

無事に見つかったこと、何も起きていなかったこと。

それに一安心したはいいけれど、なんだろうか。この、もやっとした感じは。


楽しそうに笑う鷹峰君と成海君。

その姿を見ているだけで、複雑というか…モヤモヤするというか…やめて欲しいと思ってしまう。

どうしてだろう。あれが、当たり前の筈なのに。


「これで俺たちの仕事がおしまいだな!」

「姉ちゃんよろしく〜」

「はいはい。金渡すから、これで好きにしなさい」

「「ひゃっほう!」」


若葉の弟君達が仕事を終えて、若葉からお金を貰った後…駄菓子屋へ駆け込んでいく。

若葉はそれに一息ついて、木陰で私達の様子を伺おうとすると…。


「ほい、若葉」

「ひゃっ!?」

「すまんすまん。そこまでビビられるとは思わなかった」


駄菓子屋の中から、アイスを一袋買ってきた渉君が戻ってきたと同時に、若葉の首元へそれを押しつける。

か細い悲鳴を上げた若葉は目を見開いた後、恥ずかしそうに渉君を睨みつけた。


「…急に首元に冷たいものおしつけんな」

「すまんて。ほれ」

「…なんでペピコ」

「いやー。暑いしアイス食いたいな〜って思って、買ってきたわけ」

「普通のアイス買えばいいじゃん」

「ペピコの気分だったんです〜」


「じゃあ、一人で二本食べたら?」

「お腹壊したら、大変だろ…」

「そこまで柔じゃないでしょ」

「ああもう。分けるために買ったんだよ!言わせんな!」

「…ありがと」


「礼なんていいって…俺の事情で付き合わせてんだ。嫌いなら、弟君たちにやってきて良いぞ」

「一本じゃ絶対に揉めるから。やるわけないじゃん」

「そ、そっか…」

「それに、好きだし」

「むっ…!?」

「何その反応。ペピコに決まってんじゃん」

「わ、わーってるよ…」


夏休みの間、ほとんど一緒だったらしい二人には「二人だけにしておきたい」空気が流れている。

あの間に、入り込むことは…流石に気まずい。

流石に空気を読みたくなる。

…私達も、あんな空気が出ているのだろうか。

出ていたから、気を遣って貰えてたんだよね。

そう、だったよね…?


「新菜さん」

「…成海君」


二人の様子を伺い終わった成海君が戻ってくる。

聞いてもいないのに、彼は二人の様子を伝えてくれた。

今、知りたいのはそんな事じゃなくて…。


「何を楽しそうに話していたのか」なのは、何故なのだろう。

「美咲さんと陸、今から勝負をするらしくて、その準備中なんだって」

「成海君さ」

「何?」

「さっき、凄く…鷹峰君と楽しそうに話してたけど、何かあったの?」

「ああ…今、陸と美咲さん、勝負に使うメンコを作っているらしくて。イラストも自分で描いているそうなんだ」

「うん」


「陸、昔から絵が特徴的でさ。僕以外に陸が何を書いたか当てられる人がいなくって」

「…そう」

「…新菜さん?」


無意識に、彼のワイシャツの裾を掴んでしまう。

きっちりズボンに収められたそれを出して、だらしなくしてしまったらどうしよう。

そんなことを考える余裕は、私の中にはない。

熱に、頭がやられたと思いたい。

けれど、そんな甘い現象で、この思考には至れない。


「…鷹峰君の前では、あんな無邪気に笑えるんだね」

「そう?」


…私の前では見せてくれない。

「私も見たいな」

「…それは、その」


特別なのかな。幼馴染にしか見せられないのかな。

「子供っぽく笑う顔も、好きだけどな〜」


そういう特別は、私だけにしてほしい。

私だけに、誰も知らない一面を見せる貴方でいて欲しい。

「私も、欲しいな。成海君の特別」

「い、今ここでする話じゃないだろう…。また今度。二人きりの時に。ちゃんと時間、取るから」

「…仕方ないなぁ。絶対時間確保してね?」

「勿論」


差し出してくれた手を取り、二人で若葉と渉君がいる駄菓子屋の屋根の下へ。

手は繋がっている。気持ちだって繋がっている。

好きだということも、分かっている。


けれど、それだけじゃ足りない。


全部独り占めしたくなる。成海君には、自分だけを見ていて欲しい。

靄の先には泥があり、後は沈むだけ。

恋は綺麗に終わらない。

私はどこまで深みにはまり、抜け出せなくなるのだろうか。


「お二人さんも様子見終了?」

「そんなところ。新菜さんも、暑さできついみたいだし…」

「坂道きつかったもんな〜。ベンチ空いてるぞ。座っとけ、新菜」

「ありがとう、渉君…」


空いていたベンチに腰掛け、三人から見下ろされる形で様子を伺われる。

…体調、悪く見えるのかな。

自分の感情の汚さに自己嫌悪しているだけなんだけど…。


「僕も喉が渇いたな。新菜さんも水分補給をした方がいい。少し待っていて」

「あ…」

「俺が買ってくるから、成海は側にいてやれ」

「しんどい時は誰かに側いてほしいものなんだってば。渉、私、家から保冷剤持ってくるから。飲み物頼んでいい?」

「勿論。家は近いのか?」

「この裏の道入ってすぐ」

「じゃ、そっちは任せるよ」

「もち」


二人はそれぞれ行動に移す。

私は腰掛けたまま、目を閉じる。

この感情を抑え込み、少しでも平常心で過ごせるように。

綺麗な遠野新菜で、いる為に。

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