17:誰よりも「ガキ」らしく
互いに勝負道具を買い、駄菓子屋を出て、表の空き地へ。
ちなみに鷹峰は何故か厚紙を購入していた。何故に厚紙?
「なー。美咲姉ちゃん達何すんの?」
「婆ちゃんがメンコって言ってたけど」
「ん。今から喧嘩する代わりにメンコで決闘しようと思ってね」
店を出たので敬語モードも解除。
普通の口調で戦敗達を交え、勝負の準備を進める。
「美咲姉ちゃん達、おもちゃで生死が決まるような世界で生きてんのか?」
「いにしえのホビーアニメの主人公みた〜い」
「おっ、何かいいね。じゃ、私主人公役ね。もうこれで勝ち当確でしょ」
「…美咲姉ちゃん」
「何かな、ヒデちゃん先輩」
「美咲姉ちゃんのメンコ、汎用じゃん。主人公専用みたいなのないと主人公じゃなくね?」
「それは盲点だった…」
確かに私が勝ったのは、どこにでも売ってあるようなメンコ。
私専用のメンコの概念は存在しない。誰もが手に入れられる代物だ!
困った。こういうのは重要視しなければならない。
心がキッズな今は尚更特別に憧れてしまう。
メンコをくるくると回しつつ、どうしたものかと思案する。
ふむ、これ…厚紙なのか。厚紙…厚紙、厚紙っ!?
「ふっ…今頃気付いたのかい、吹上さん」
「…まさか、鷹峰」
「今から作るんだよぉ。俺専用のメンコをさぁ…!」
「ぐぬぬ、負けてたまるか!今から厚紙買ってくる!」
「「いってら〜」」
駄菓子屋に引き返し、厚紙を購入して戻る頃。
鷹峰は一枚完成させていた。
「…陸兄ちゃん、絵下手くそだな」
「頭は良いけど不器用なのな〜」
しかしその完成されたメンコはあの一瞬で何があったか問いただしたいぐらい歪んでいた。
厚紙は性格を反映させるのだっただろうか。それほどまでに歪んでいた。
勿論それだけでは済まない。
メンコのイラストはムンクも叫びを上げ、逃げだしかねない奇抜な代物。
なんだその楕円から足を六本生やした生き物は。お前は何を考えながらそれを書いたんだ。
「…その謎の生き物、何?」
「何って、カブトムシ」
「「「…」」」
「な、なんだその目は。いいだろう別に。俺がちょっと不器用でも、生活には支障がないからね」
「でも、この不器用具合だとちょっと怖いというか…陸兄ちゃん、周囲から包丁持たないように言われてるタイプでしょ」
「なぜそれを…!?」
「「マジで言われてるのか…」」
「家庭科の授業とかどうしてたんだよ。作品作らされたり、料理とか作らされるだろ」
「…全部成海にやってもらった」
「「女か!?」」
「なんだそのおっさん臭い聞き方は!成海は、僕の幼馴染で…」
「冗談だ。成海兄ちゃんだろ?美海の兄ちゃん」
「そういえば君達、六年生か…」
知らない固有名詞が飛び出てくる。
話の流れからして、成海氏の関係者だと思われるけど…。
「美海って?」
「楠原美海。俺たちの同級生。成海兄ちゃんの妹。美咲姉ちゃんはご存じない?」
「ううん。同級生。成海氏とは私も仲良くさせて貰ってる」
「この辺りで成海といえば「楠原硝子の成海君」で通じるからね〜」
「別の女の子だって可能性はないの?」
「あるにはあるけど、陸兄ちゃんって漫画もゲームも全然じゃん」
「そうだね…」
「美咲姉ちゃんが絡んでるけど、女の子の友達って基本的にいなさそうだし〜」
「…」
「そうなると、自然と男の幼馴染になるよな」
「陸兄ちゃんと同世代で成海なんて名前、成海兄ちゃんぐらいしかいないしね〜」
「ご明察…そうだよ」
「成海兄ちゃんの幼馴染なら、俺たちもちょこちょこ話聞いてたよな」
「…成海は、なんて?」
「頼りになる親友。いつも支えてくれるから、少しでも頼って貰えるようになりたいってよく言ってるよね〜」
「…」
鷹峰の頬が緩む。
先輩達以上に子供らしい笑みを浮かべ、口元を緩ませる。
そんな顔も、できるらしい。
しかし。楠原硝子工房…成海氏の家はそこそこ地元で有名らしいね。
「…成海氏って、そこまで有名人なの?」
「朝陽ヶ丘周辺なら大体認知されてるはずだ」
「親父さんの代わりに自治会とか子供会に出てきてるし」
「…あのクソ親父は成海に家の事をよく押しつけているからね」
「押しつけられていないぞ?僕がしたいからやっている」
話に割り込むように、聞き慣れた声がすぐ横から。
私達が腰掛けているベンチの背後から、私達の顔と顔に割り込むように…成海氏が立っていた。
「成海兄ちゃんだ」
「夏休みぶり〜」
「久しぶり、ヒデちゃん。しんちゃん。また後でね」
小学生先輩達に挨拶をした後、成海氏は私と鷹峰の顔を覗き込み、目を細めつつスマホを見せてくる。
「どこにいるか連絡したのに見てないでしょ」
「「あ」」
二人揃ってスマホを確認する。
成海氏が言うとおり、確かに彼から「今どこにいる?」と問いかけるメッセージが送られていた。
「ところで、何作ってるの?」
「成海、その…」
「陸がうちの父さんの事、凄く嫌っていることは知っているから…ま、心の中に留めておいて欲しいぐらいかな。後は、言いたいことがあれば僕の前だけで」
「…ごめん」
「いいって。で、何作ってるの?」
「メンコ」å
「特徴的な形で面白いな。しかしなんでメンコを…あ、陸。それカブトムシだろ」
「流石成海。成海なら分かってくれると思ったよ。でも、皆にはよく分からないって」
「「「なんでわかんだよ」」」
「「わかるだろ…?」」
二人の幼馴染の間には、時間が作り上げた深い関係が構築されている。
一瞬で二人の世界を構築したのを確認した後、私は空き地と駄菓子屋の間にある道へ視線を向ける。
その先には、物寂しそうに二人を見る新菜。
それから息を切らして駄菓子屋にアイスを買いに行ったと思わしき渉氏と、テンションの高い二人の小学生に囲まれて頭を抱える若葉が立っていた。
なんだかんだで、全員集合したらしい。




