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15:腹ごしらえは基本

時を少し遡ろう。

ファミレスを出た私と鷹峰は、とりあえず話しやすいところを求めて住宅街を徘徊していた。


「…計画性と地の利がない」

「そういうお前こそ、ここに住んで長いのになぜ分からない」

「俺と成海が住んでいる地区とここは結構離れているから地の利がないんです。元々、小学校だって学区が分かれていたような地域なのに…」

「ああ、だから若葉と小学校は違ったんだ」

「そういうこと。足立さんは、この辺だろう?」

「らしいよ」


「そういえば、中学は一緒だったのに、成海氏はともかくなんでお前は若葉の存在を知らないの?」

「一学年五クラス。一度も一緒のクラスにならない子なんて当たり前の様にいたし、それに俺が他人に興味持つわけがないだろう?」

「それもそうだね」


断言するほどに、鷹峰陸という人間が抱いている他人への感情は成海氏以外希薄。

皆無か、警戒の二択。

私は警戒。新菜も警戒。若葉と渉氏は皆無側。


まあ、それはそれでいいのだ。


今回、重要視すべき事象は「こいつが成海氏へ抱く感情って何か」って部分。

友愛は基本。庇護、執着、依存…。

どれも当てはま…ん。

考え事をしていると、エネルギーを沢山消費する。

お腹もどうやら限界値。抗議をするように鳴り響く。


「…お腹空いた」

「食べる前に出てきたからだろう」

「ほんまつら…くんすくんす」

「なんだ急に犬の真似事を始めて。野生化するのか?やめろよ俺がいないところでしろよな」

「違う。香ばしいソースの匂いが鼻孔をくすぐって来たからどこからやってきたか探していたところ…すんすん。すんすん」

「おい、こっち来るな。他人のフリができない」

「陸氏、私、ノーベストフレンド」

「黙れ。適当な英語使いやがって…どこから出てきた」

「これだったらお馬鹿さんでも分かると思って」

「…言うじゃないか。全く、俺を馬鹿扱いし」

「あ、駄菓子屋だ」

「話を聞け」


私が駄菓子屋の方へ駆け出した隙に逃げるかと思いきや、彼は呆れつつもついてくる。

何でついてくるんだろう。逃げたら良いのに。

逃げたら敵前逃亡だと煽ってやろうと思っているのに。


「ごめんください」

「いらっしゃい」

「お婆ちゃん、ここお好み焼き食べられるの?」

「ええ。昔からの名残でね」


メニューを見る限り、お手頃価格。

大きさは分からないけれど…とりあえず、先客に聞いてみようかな。


「ねえねえ、先輩」

「なんだよ、高校生の姉ちゃん…」

「なんで先輩呼びなんだよ」

「駄菓子やの先輩ってことで。お好み焼き、二人で食べてるの?」

「ん。一枚五百円だから。二人で出し合って…分けてるところ」

「結構大きいよ」

「なるほどなるほど。これならお腹も膨れそう。ありがとう先輩。お婆ちゃん、一枚ください」

「はーい。少し待っていてね」


「一人で食べれるのか〜?」

「食べられなかったら残りあげるよ」

「知らない人から食べ物貰ったらダメだってお母さんが言ってた」

「私、吹上美咲。もう知らない人じゃないね」

「おもしれーな、美咲姉ちゃん」

「おまけの兄ちゃんもおもしれーのか?」

「おまけじゃない」

「先輩相手に舐めた口聞いてんな〜?こっちこい。お婆ちゃん、このガキンチョにお好み焼きとカルペスをいっちょ!」

「はいはい。面白いわねぇ、美咲ちゃん。ほら、貴方もこっちにおいで」

「…はい」


流石の鷹峰陸もお婆ちゃん相手に反抗心をむき出しにすることはないらしい。

入口付近で様子を伺っていた彼は、複雑そうな顔で私から離れた席に腰掛けようとしたが…そこは小学生の先輩達に阻止される。


「婆ちゃん、足腰わりぃんだから気遣えよ」

「ほら、俺と姉ちゃんの間が空いてんだ。そこ座れ」

「なんで君達に…」

「らっしゃい」

「…ぐぬぬ」


先輩方に椅子に座るように促された鷹峰陸を、今できる最大限で煽っておく。

やっとおすまし顔を崩すことができた。ぷすす。悔しそう悔しそう。


「兄ちゃん、美咲姉ちゃんの彼氏か〜?」

「常識人だと大変そうだな。美咲姉ちゃん破天荒そうだし」

「冗談じゃないね。全く、もう馴染んでいるのか君は」

「凄いでしょ?自分の才能が恐ろしいね…」

「つまり、姿も知能もガキ同然ってこと」

「…知能が子供?私に文系科目全部点数負けてるくせによく言うね」

「ここで成績マウントかよ、美咲姉ちゃん」

「そこは格好悪いぞ」

「ほら、先輩方もこう言っている。数字で争う醜い人間にはなりたくないね〜」


「ぐぬぬ…先輩方を味方に…待て。先輩方。今ポケットに何を」

「「賄賂」」

「小学生を買収して私に勝とうとするとは…カリスマどころかプライドもないなんて…鷹峰陸、ほんま…残念な生き物。図鑑に載っちゃいなよ…」

「プライドがないのはお互い様だろう?」


「ほぉら、二人とも。言い合いする時間はおしまい。もうすぐ出来上がるわよ」

「わー」

「…」


お婆ちゃんに誘導されて、私達は香ばしいそれに箸を伸ばす。

ふわふわでほわほわ。豚肉の代わりに使われたベーコンはカリッカリ。

空腹を程よく刺激するそれに頬を零れさせつつ、私達は言い合いを止める。


しかし空気はほぐれないまま。

奴は私の様子を伺い続けているし、私も本来の目的を忘れているわけではない。

それでも、今は休戦。


「…食べ始めたら、何も言わなくなったな」

「兄ちゃんもガキっぽい顔しながら食ってる」

「ご飯を前にすると、争い事はなくなるのよ」

「マジかよ婆ちゃん」

「世界平和もご飯で作れる?」

「作れるわよ〜」


ここで私は一つ、教訓を得た。

お婆ちゃんと空腹には、どんな存在でも勝てないものなのだと。

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