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12:通学路の遠野さん

「さっき、一海さんと一緒にいた?」

「なんでわかるの?」

「なんか、色々なところから「楠原さんの隣にいる男は誰だ」みたいな話が聞こえたから…」

「あー…」


駅通学組の方でも噂になっていたらしい。

改めて、自分の姉が学内で有名人だと言うことを痛感させられる。


「楠原って、珍しくはないけれど、滅多に被りがあるような苗字じゃないでしょう?」

「そうだね」

「視線の先にいる一海さんの姿を見るまでは、同姓の別人だと思っていたけど…」

「噂の中心にいたのは姉さんだよ。何か、有名人らしくて…」

「へぇ…でも、あんな噂ばっかりされたら、疲れちゃいそう」

「だろうなぁ…」


「楠原君が一緒に登校していたのは…」

「今日は偶然。明日以降は自発的に姉さんと一緒に出ることになるだろうけど」

「やっぱり、噂から守るため?」

「そんなところ。人の口に戸は立てられないから、噂の声は止められない。でも、一緒にいたら、同じ高校とはいえ知らない人から話しかけられることは少なくなるんじゃないかなって思って…」

「なるよ。きっと」

「そうだといいんだけど」


あの休みの時と同じように、テンポよく話せているだろうか。

正直なところ、自信はない。


ふと、視線を一瞬だけ横に向ける。

パリッとした真新しさを感じさせる、同じ高校の女子制服。

春らしい陽光を受け、腰まであるウェーブのかかった栗色の髪は艶やかに輝く。

歩く度にゆっくり揺れるそれを、つい目で追ってしまいそうになるが…頭から雑念を振り切っておく。

———どうして、彼女を目で追ってしまうのだろうか。

悩んでもその答えは見つからない。


「どうしたの?」

「まだ、少し眠くて…顔を振って意識を…」

「連休明けだもんね。起きるのきつかったねぇ」


「そうだなぁ。僕らは徒歩だから、比較的ゆっくり起きられるけど…遠野さんって何時に起きてるの?」

「朝六時だよ」

「早いね」

「七時の電車に乗らないと、遅刻しちゃうからね。仕方ない仕方ない」


彼女が住んでいるところは月村町。電車でも一時間かかるような場所。

朝の電車が何本か知らないが、田舎町である以上、そこまで多くはないだろう。


「そっか。そんな生活なら、移動中だけでも休めたらいいんだけど…電車では座れたりする?」

「大体座れないかな。満員って感じ。座れたら、少しでも寝られるんだけどね…」

「バスとかは?」

「バスとかなら始発になるから座りやすいと思う。だけど、最寄りから学校までの道のりが遠くって。それでいて電車の方が定期が安い」


「…デメリットが大きいのか」

「そんなところ。正直、徒歩羨ましいな〜って思うよ」

「確かに…色々考えないといけないし、体力は使うしで大変だ」

「だね。でも、ここを選んだのは私。通学の不便も受け入れた上でここにしたから、三年間は受け入れないと」

「…無理しないようにね。これぐらいしか、言えないけれど」

「お気遣いありがとう」


遠野さんと話しつつ、校舎内に入り…靴を上履きに。

普段通りなのだが、普段の生活では意識しなかったことが、今の生活で浮上することだってある。


「……」

「どうしたの?」

「いや、靴箱も隣だったのかと」

「あー」

「どこまでもお隣さんだね、楠原君」

「確かに」


お互いに靴を履き替え、下足を靴箱へ。

ここまで来て、教室まで別々に行くこともないだろう。

そのままの流れで、一緒に。


「そういえば、今日は忘れ物ない?」

「いつもないよ?」

「それなら…ん?」

「……い、いや、このまえ、あったね。うっかりうっかり…ははは」


さりげなく聞いた問いは、さりげなく。

それでいて、なぜか挙動不審になる彼女は少しだけ早足になりながら教室へ向かってしまった。

違和感は少しだけ降り積もる。

答えを知るのは、もう少し後のこと。

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