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10:始業式の後で

退屈な始業式を終えたら、今日はおしまい。

今日は午前中まで。これが終われば、もう帰れるのだ。


「夏休みの宿題って、授業の時に回収だったよね」

「うん。そういえば、朝は色々あって、結局宿題…」

「実は終わっていないところ持ってきたんだ。成海君、これから時間ある?」

「勿論」


でも、私の都合で流石に成海君の家にお邪魔するのは申し訳ないなって。

喫茶店、いや…せっかくだし図書館とか行ってみようか。

一度やってみたかったんだよね。自学スペースで勉強するのって。

…予約しなくても使える物なのかは、わからないけどね。

それに、他にも気になることはある。

それを解消しておかないと。


「あ、でもお昼の当番とかあるよね」

「そこは姉さんに連絡したら良いし、昨日の残りも朝の味噌汁も残っているから、どうにかするさ」

「…用意周到?」

「実は、昨日は作る量が多めになっちゃって…」

「珍しいね、成海君。いつもは残らないように作るのに」

「残りの量的に、使ってしまいたいなと」

「あ〜。あるあるだ〜」


荷物を持って教室を出ようとすると、出入り口のところで美咲が立ち塞がる。


「新菜、成海氏」

「どうしたの、美咲」

「どうした、美咲さん」

「話は聞かせて貰った」


ぴょんっと、飛び上がった彼女は空中で器用に足を折り曲げ、床の上へ着地する。


「…頼むぅ、宿題の残りを一緒に見てくれぇ…」

「み、美咲…とりあえず立と?凄く目立ってる…」

「宿題は、陸が見てくれていたんじゃ…」


確かに、メッセージを見る限り、美咲は鷹峰君に宿題の進捗を監視されていたはず。

あの男が逃がすか?美咲を逃がさないように色々と手を打っていたようだし…。

用意周到に包囲網を敷いている鷹峰陸が美咲を簡単に逃がすとは思えないのだが…。


「…最後の方は、獄卒から逃走を図っていた。あいつは用意周到だけど、虚を突かれると割とボロが出る。長期的な作戦だと尚更」

「「えぇ…」」

「まあ、逃げるのに必死で終わっていないのが少しある」

「こういうのも何だが、逃げる努力より宿題を完成させるべきでは…」

「そう言われても仕方ない。しかし私はあの悪鬼に四六時中ゴミを見るような目で監視されつつ、二人きりの密室で過ごす地獄にはもう耐えきれない」

「そんな生活を…」


「成海氏と新菜、渉氏と若葉が青春をしている間、私は修羅を得た。少しは私に青春をくれたって…いいと思うんだ…。むしろください」


私と成海君は顔を見合わせて、どう反応を返すか互いに伺う。

無言でも、考えていることは同じ。


「今からでも遅くないから、一緒に宿題終わらせよう?ね?」

「僕らで良ければいくらでも手伝うから…!」

「ありがとう、新菜。成海氏。私とっても嬉しい」

「そ、そう言ってくれるのは嬉しいから…」

「僕のズボンに額をこすりつけて汚れを拭うのはやめてくれ…ハンカチぐらい貸すから…」

「ありがとー。あれ。新菜がくれるの?拭いてもくれるの?」

「…なんとなくね」


美咲を立たせて、自分のハンカチで彼女の額を拭う。

成海君がさりげなく差し出していたハンカチの出番はない。


「で、今日はどこで宿題するの?」

「冷房が消えるし、教室には残れないから…外に行こうとは思っていたけれど」

「せっかくだから、図書館に行ってみない?自習室とか使ってみたいなって思うんだけど…予約とか必要なのかな?」

「そう、だなぁ…僕も言ったことがないから」


「受付に聞いて、空きがあれば案内して貰えるよ」

「陸」

「ひっ!鬼人!」

「さっきっから名称がコロコロ変わっているね、美咲…」

「人の名前も遂に呼べなくなったのかい?」

「まあまあ、陸。で、陸は図書館の自習室を使ったことあるのか?」

「勿論。ただ、教え合うとなると、四人以上で使えるグループ学習室がいいんじゃないかな」


「でも、私達これから三人で…」

「俺も行くよ。そいつには用があるからね…?」

「あう。お前は本気でお呼びでない。ほら、向こうで木島がお前と遊びたそうにしている。遊んでこい」

「おい吹上!そいつから逃げるために俺を売るな!全く、なんであのグループは変人ばっかりなんだ!…遠野さんも男見る目ねぇし。あいつが行けるなら…俺だって…」


何かをぶつくさ言っている木島君は放置しておこう。どうせたいした事ではないだろうし。

そうだ。この四人が集まったし、せっかくだし…。


「若葉、渉君。二人もどうかな?」

「ん〜?何が〜?」

「宿題完遂の為、図書館で勉強会」

「え、マジで?俺も行く。元々成海に終わってないところ教えて貰う気で持ってきていたからさ」

「皆成海君の事頼り過ぎかも…」

「頼りになるからな。若葉は?」

「一応終わったけど、ま、この流れで行かないわけないよね。参加で」

「宿題持って来てんのか?」

「…今日提出日だと思って、全部持ってきてる」

「用意がいいのか、うっかりというか…」

「うるさい。でもまずご飯にしようよ。お腹空いた」


若葉と渉君の参加も決まり、ここからはいつもの六人で。

夏休みはそれぞれの予定があったから全然だったから、こうして過ごすのは久しぶりだ。


「わかってる。ご飯はどこ行こっか?」

「歩きながら決めよ」

「全員好きな物食べられて、安価となるとファミレスか?」

「陸、いい加減美咲さんの頭から手を離してくれ…不安になる」

「こうでもしないと逃げると思って…」

「逃げる気力さえもう起きない…でもお前の教えは絶対に請わない…私は地獄から自力で脱却してみせる…!」


いつもの六人。二学期になっても変わらずに。

九月の始まりも、いつも通りに過ごす事になりそうだ。

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