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Extra19:深夜0時。目を閉じる。夢を見る

新菜の呼吸が一定になる。

眠っていることを確認し、僕も目を閉じた。


…石鹸の香りが鼻孔をくすぐる。

ふわふわで、優しくて…暖かい…。


意識が深層へ落ち、眠りの世界へ。

夢の、世界へと落ちていく。


◇◇


ふと、周囲が明るくなる。


これは夢だろう。

ここは青い屋根の家。今日から暮らし始める家。

そんな場所の、日差しが差し込むリビングが見えた。


そこに置かれているソファは、この前新しく新調したソファと同じ。

だけど何故か古びていて、色が褪せていた。


床には色々と物が散らかっている。

硝子、ではない。僕のデザイン画でもない。

衣服でも、ゴミでもない。

この立体物は…。


『お母さん!お母さん!』


新菜を小さくしたような女の子が、床に散らばった積み木を片手に、ソファに腰掛けるセミロングの女性の元へと駆け寄った。


ソファに腰掛けていた栗色の髪を持つ女性はお腹が大きかった。

大きな絵本に隠れていたが、その影には薄墨色の髪を持つ男の子が腰掛けている。


『積み木で遊ぼ!』

『いいよ〜。でも、まずは絵本を読む約束から果たして良いかな?』

『絵本〜?』

『…ぼくのおねがい。おかさん、もうすぐびょういんだから…』

『…私だってお母さんといっぱい遊びたいもん…なんで病院行くの?お家にいようよ…』


『そうだね。私も沢山遊びたいな。出来れば一緒にお家にいて、二人と遊んでいたいな』

『『!』』

『でも、この子もね…「早く愛菜お姉ちゃんと晶吾お兄ちゃんに会いたいな。一緒に遊びたいな」って思っているんだよ』

『…私達と』

『あそびたい?』

『うん。病院に行くのはね、病院の先生や看護師さんに助けて貰いながら、この子と無事に会う為なの。愛菜と晶吾の時もそうだったよ』

『…うん』

『だからね、二人にはお母さんとこの子…明莉がこのお家に帰ってくるのを、お父さんと待っていて欲しいな』


愛菜と呼ばれた女の子と、晶吾と呼ばれた男の子は顔を見合わせて、小さく溜息を吐く。

呆れというか、諦めというか。そんな顔を浮かばせていた。


『お父さん今、硝子にちゅっちゅしてるからなぁ…』

『…吹きガラスの工程をちゅっちゅとは言わないよ?それにガラスに直接ちゅっちゅしてる訳じゃないし…』


『おかさんじゃなくて、ガラスとちゅっちゅ…!?』

『お仕事だからね』

『…びじねす?』

『どこで覚えてきたの…?出処はお義兄さ…浩樹おじちゃん?』


『おとさん…おかさんよりがらす、すきなの?』

『お父さんは硝子よりお母さんと子供達が大好きだからそんなことしないよ?今日もちゅーしたし!』

『この話題になるといつもこれだよね〜』

『ちゅっちゅ、いいものなの?ねちゃ』

『さあ?でも、お父さんとお母さんにとっては…』


『ただいま〜』

『噂をしたら、だ』

『お父さん!おかえり!お昼休憩!?』

『おとしゃー!』


少しだけ低いけど、聞き覚えのある声が遠くから聞こえた。

聞き覚えがあるのは当然だ。なんせそれは毎日聞いている声だから。

自分で、発している声だから。


◇◇


「…っ!?」


事実に気付いた瞬間、僕の意識は現実に引き戻される。

時刻は四時。起きるのにも早すぎる時間帯。

まだ二度寝は可能。だけど今の気分では、二度寝の気分にはならない。


「…あれって」


夢の中にいた、二人の小さな子供。

記憶が鮮明なうちに、二人の容姿を改めて振り返る。


愛菜と呼ばれていた女の子は、ウェーブがかかった栗色の髪に水色の瞳。


晶吾と呼ばれた男の子は薄墨色の髪に、緑色の瞳。


思えば僕と新菜の要素を半々で受け継いだ子供だった。

そしてセミロングの妊婦は…。


「すぅ…」



腕の中で穏やかに寝息を立てている、栗色の長髪を持つ愛しい彼女。

そんな彼女の髪に触れ、胸元当たりにある髪に…手を当てた。

手入れを欠かしたくないほど艶やかな髪を、これぐらいに切った姿だった。


「…なるみ?」

「ごめん。起こした?」

「…そんなところ〜?成海はどうしたの?息、切らして…」

「少し、変わった夢を見て」

「あ〜。奇遇だね。私も〜」


「…どんな、夢だった?」

「私の夢はね、一軒家で女の子と男の子と一緒に過ごす夢。お腹にもう一人いたね。多分女の子」

「…」

『お腹がきゅって痛くなったと思ったら…目が覚めちゃったんだ。成海は?」

「僕も、同じような夢…』

「そっか。同じ夢、見ていたんだね」


覚醒しきっていない頭を僕の胸にこすりつけ、新菜は小さく息を吐く。

密着しているから、顔は見えない。


「…ね、成海」

「なに?」

「新生活が始まる前に、新居で暮らしている夢ってさ…縁起がいいのかな、幸先がいいのかな。それとも…それが現実になるよって、お告げなのかな」

「…」

「三人って、絶対大変だろうけど…頑張ってみちゃう?」

「…よ、様子を見ながら」

「そうだね。それがいいかも」


寝間着が引き延ばされる感覚を覚える。

やはり新菜の顔は見えない。

彼女が今、どんな表情をしているのか…伺うことさえできない。

だけど…悪い物じゃないことだけは確かだろう。


普段は起きない時間に目覚めた結果、再び眠気が夢へと誘う。

再び眠りにつく頃には、さっき見た夢の記憶は薄れてしまい、新しい何の変哲も無い夢に上書きされる。


…不思議な夢の続きは、七年後にて。

それは確かに現実で繰り広げられる、二人の理想ゆめの話だ。

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