Extra18:夜11時。触れ合う、だけでも
月明かりが差し込む部屋の中。
夜の静寂だけが、そこにある。
「…」
こういう一人を感じさせる夜は、かつてを思い出す。
お父さんもお母さんも仕事でいなくって、一人で留守番をして…。
暗闇が怖くって、ぬいぐるみを抱きしめて…布団の中で震えていた。
物音がしたら、押し入れやクローゼットに隠れて震えていたせいか、狭いところと暗いところが苦手になっちゃって…今も苦労している。
「…とりあえず」
横になって眠たくなるのを待つか。
ああ、明日は忙しくなるのに。眠れないだなんて…。
こういうことはよくあること。
だけど実際、眠れなくなるともどかしい。
布団の中でもぞもぞと動きながら、眠気を待った。
静寂に溜息が混ざる。
軽く目を伏せたタイミングで、私の手に異なる熱が重ねられた。
「…眠れないのか、新菜」
「まだ起きていたの?てっきり寝たかと」
「できるだけ…だけど」
「なに?」
「君が寝るまで、寝ないと決めている」
「いつから?」
「同棲初めてから、ずっと」
「うそ。知らなかった」
「寝たふりだってしていたからな」
「わざわざ?」
「わざわざしたいと思えたんだよ」
「どうして?」
「…初めて、新菜がうちに泊まった日を覚えている?」
「うん。高校一年生の冬。忘れられないよ」
「…そう、だな」
思い出すだけで暖かな熱が灯る記憶。
その中でも一番熱を帯びたであろう口元へ指先を当てる。
八年間、ほぼ毎日交わしているキスだって、最初の日が存在している。
それが高校一年生の冬。
電車が泊まって、どうしようもなくなった私を…成海が楠原家に招いてくれた時の事。
自室に招き…初めて一緒に眠った日の事。
忘れるわけがない。
あの出来事があったからこそ、私の気持ちは固まった。
私にはこの人が必要不可欠だと。
絶対に手放すものかと、改めて決められたのだから。
「あの日…君が震えていたのを、知っているから」
「…」
「君が僕の弱みに寄り添ってくれたように、僕も君の弱みに寄り添いたいだけだよ」
「成海…」
「手を握っているだけで、安心できる?」
「安心できるけど、まだまだ全然足りないよ」
「じゃあ、どうしたらいい?」
「…ぎゅって、抱きしめて」
「寝苦しくはない?」
「全然。優しくしてくれるでしょう?」
手を離し、体勢を変える。
手を繋げるほどに離れていては、抱きしめて貰うことは叶わない。
「それは勿論だけど、暑くないかって意味で」
「成海は冷たいから、むしろ心地良いよ」
「僕、そんな冷たい?」
「そうだよ。少し冷たい。寒がりな理由も、わかるぐらい」
「身内以上に触れている新菜がいうなら、そうなんだろうな」
「でも、包まれていると凄く暖かくて、安心する」
「そっか」
要望通り、ぎゅっと抱きしめてくれる。
狭い布団の上でも、広く感じるほどに密着してくれる。
暖かい。このまま溶けてしまいそう。
「…ん」
「これぐらいでいい?」
「これぐらいがいい」
「結構強く、抱きしめている気がするけど」
「密着している方が好きなの。成海は?」
「…同じかな」
「でしょう?」
鼓動の音が聞こえる。
穏やかに、規則的に動くそれに耳を傾けながら、目を閉じる。
その先は真っ暗闇の世界。
例え声がしなくても、音が、熱が、吐息が…私は一人ではないと伝えてくれる。
「おやすみ、新菜。今日も二人で良い夢を」
おやすみなさい、成海。今日も二人で良い夢を。




