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Extra14:夜7時。最後の帰宅

成海に頼まれて、私は久しぶりに若葉と美咲へメッセージを送っていた。


『久しぶり、元気にしてる?』


そんな会話から始まるなんて、高校時代は思いもしなかった。

昔は「ねえねえ」とか「あのさ」とか、会話の切り替えで会話の始まりができていたのに。

けれど、今の私達の縁は切れかかっていて、こういう会話で始めるしかないのだ。


『おひさだね、新菜。どうしたの?』

『二人とも元気にしてるかなって思って』

『確かに、この前連絡した時はお正月だったし、なんだかんだで半年ぶりぐらい?』


『そうなるね。美咲は今何をしていたの?』

『仕事帰り。久々に残業しちゃった。しょんぼり』

『お疲れ様』


『新菜は?仕事帰り?』

『実は三月末で退職して』

『専業主婦ってやつだね。遂に成海に養われちゃうのか…羨ましい』

『羨ましいって…』

『私にはそんな相手いないからね…定期的にやりとりしている異性という生き物は陸しかいない』

『…陸君とは連絡取り合っているんだ』

『両親と弟から見張ってろって言われたらしくて…なんなんだろうね。うちの両親も弟も陸も私の事なんだと思っているんだか…一人暮らしぐらいできるし』


『一人暮らしで何も起きなかった?』

『定期的に陸が遊びに来るぐらいで異常はない。それが異常とも言えるけど』


…確かに、二人は同じ都内で就職・進学をしたコンビだ。遊びに行こうと思えば遊びに行けるのだろう。

ご両親や弟さんの心配も分かる。私は一人暮らしをして…トラブルに巻き込まれた口だから。

…あの時、成海がいなかったら本当にどうなっていたのやら。


『その異常が、美咲を守ってくれているんだと思うよ』

『だろうね。陸が来るようになったおかげで、うちをじろじろ見てくる男とかいなくなったし』

『よかった…でも、気をつけてね。何があるか分からないんだから…』

『わかってる。あ、今度のお盆に帰省できるかもなんだよね。その時に会わない?近況報告もしたいし、今の皆がどんな顔をしているか気になってさ。特に若葉と渉の子供』

『二人じゃなくて、二人の子供の顔に興味があるんだ…』

『疲れきった大人の顔より、可愛い子供を見たいのが摂理だよ』

『それは言えてるかも…』


『新菜と成海にも会いたいしね。難しいかもだけど、お盆のどこかで予定を空けておいて欲しいな』

『勿論だよ。楽しみにしているね』

『そう言ってくれると嬉しい』


そこで連絡は途切れる。

かなり忙しい生活を送っているようだし、今まで見たいにだらだら寝るまで連絡をしあうのは難しいようだ。

けれど、約束は出来た。


「成海、美咲とは連絡取れたよ。お盆に帰ってくる予定だって。その時に会わないかって」

「へぇ…じゃあ、正確な日付が決まり次第、予定空けないと」

「だね」


切れそうになっていた縁は再び結ばれる。

美咲以外の三人からの連絡はない。美咲が偶然だっただけで、三人だって多忙な生活を送っている。

気長に、待ってみよう。


スマホの電源を落とし、窓の外を見つめる。

見慣れた景色、家の近くにある景色。

こうして眺めるのも最後だから、しっかりと目に焼き付けた。


◇◇


鍵を開け、家の中へ。


荷物を置いて、落ち着いたら…約束通り軽くお説教。

こんな多いな買い物をする時に独断専行しないでね。相談してね。

十万円以上のサプライズも禁止ねと、軽く言い聞かせられた程度だけど。


それから残っていた荷物を箱に素早く入れ込んで、準備を今度こそ完了させる。


「成海、着替えちゃんと別の鞄に入れた?」

「入れてるよ」

「じゃあ、衣服の段ボールも封をしておくね」

「お願い」


ガムテープが伸び、切られる音はこれで最後。


「これでおしまい!」

「お疲れ様」

「お疲れ〜。この後はどうする?」

「そう、だなぁ…お風呂に入って、寝るのも有だけど…」

「すちゃっ…」

「もうお風呂セットと着替え二人分を用意している新菜には申し訳ないけれど、散歩に出かけようかな…と」


「…こんな夜中に?」

「うん。高陽奈で過ごすのも今日で最後だし、最後だから…なんとなく」

「何かをやるのに体がいいよね。最後って」

「そうだな」

「…留守番は嫌だからね?」

「わかってるよ」


うちの新菜は、一人が苦手。

僕がいなければ、電気を消して眠れない。

ぬいぐるみを抱きしめて、孤独を見ないよう…顔を埋めて朝を待つ。

誰かとの関係が希薄になり続けた過去は、彼女が孤独を恐れるきっかけと化した。

一人になりたくない。忘れられたくない。置いて行かれたくない。

その気持ちで彼女は構成されている。


常に二人で一緒という間柄は、窮屈に思えるときだってある。

端からだと、面倒くさいと言われかねない彼女の性質。

それを含めた、新菜の全てが、僕は愛おしい。


「一緒に行こう、新菜」

「勿論だよ。どこまでも、一緒に!」

「ちなみに、僕を家に引き留める選択肢は?」

「ないかな」

「それはどうして?」

「成海となら、夜の散歩も楽しいだろうからね」

「そう言ってくれるのは、素直に嬉しい」

「おっ、珍しく素直な成海さんだ」

「僕はいつも素直だ」

「今日はエイプリルフールじゃないよ〜?」


再び外出の準備をして、外に出る。

普段はやらない夜の散歩へ、僕らは繰り出した。

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