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10:初めてのメッセージ

楠原君のスマホは、買ったばかりと変わりがないものだった。

電話やメールは使っているだろう。

けれどアプリは初期にダウンロードされているものばかり。

私や周囲が使っていそうなSNSのアプリはあるけれど、触ってはいないだろう。

なんせ…楠原君のスマホ操作は———。


「ええっと、確か、メニューを出す時は…」

「…真ん中にある四つの四角が集まっているところ。そこで今入っているアプリの一覧が見られるよ」

「なるほど」


完全に初めてスマホを持たされたお爺ちゃん…なんだよね。

一つの操作にも四苦八苦しつつも、投げ出さず、ちゃんと私の説明に耳を傾けて、操作を進めてくれる。


「あ、これ?この緑の吹きだし?」

「そうそう。それがメッセージアプリ」

「これから、アカウントを登録したらいいんだね」

「そうそう。電話番号を打って、アカウントの名前を入れて」

「ええっと…く、す、は」


「フリック入力苦手?」

「ふり?」

「キーボード入力はできる?」

「うん」

「じゃあ、そっちに設定変えた方がいいよ。ここで設定変えられるよ」

「なるほど…遠野さんは物知りだな」

「これぐらい普通だよ」


楠原君がゆっくりとした手つきで、操作を続けてくれる。

アカウントを作り終え、チュートリアルを読み終えた後…ホーム画面を見せてくれつつ、彼は問う。


「これでいい?」

「バッチリだよ」

「これから、どうしたらいい?」

「少し待っていて」


私は自分のスマホを鞄から取りだし、同じくメッセージアプリを起動させる。


「いい、友達の追加はね。ここの、人のマークとプラスが描かれているアイコンがあるでしょう?」

「うん」

「で、ここに、IDの入力ってあって…これに、私のIDを入力して」

「少し待っていて…」


私のスマホと自分のスマホを交互に見つつ、IDを入力し終え、検索をかけてくれる。

ちゃんと正確にIDを打てていたらしく、楠原君のスマホには私のアカウントが表示された。


「遠野さんのアカウント、これでいい?」

「うん。で、アイコンをタップしたら私のプロフィールが出るでしょ?」

「出た」

「で、下の方に友達に追加するってあるでしょ?それを押せばおしまい」

「…こうも簡単に友達になれると、あっけないな」


確かに、人付き合いが苦手な楠原君からしたら…タップ一つで友達が増えると思うと、変な感じなのかもしれない。


私の方にも、遅れて通知が来る。

———「楠原成海さんが貴方を友達に追加しました」と。

もう友達だけど、改めて“友達”である実感が湧いてくる。

文字になって、目に見える形になったからだろうか。


「これで、メッセージでも友達だね」

「そうだね。あ、メッセージ送ってみてもいい?」

「勿論。練習って大事だもんね」

「とりあえず…」


ぴこん!と、軽快な通知音が響く。

メッセージアプリを確認してみると、楠原君とのトーク画面にメッセージが送られていた。


『使い方を教えてくれてありがとう』


たった一言。短い文章。

ふと、横を見ると…。


「ありがとう、遠野さん」


そう、一海さんと美海ちゃんがいる時の様に微笑んでいる楠原君がいた。


「どういたしまして。これからこっちでもお話ししようね」

「…返信遅いと思うけど」

「気にしなくていいよ。それも、慣れたらいいんだから。練習だよ」

「なるほど。じゃあ、これからも練習、付き合って貰えると」

「勿論」


練習。

体がよくて、ずるい言葉だと思う。

彼が操作に慣れていないことをいいことに、言葉で丸め込む。

なんだか、悪いことをしているみたい。


どうしてだろうか。

どうして「お姉さんやお父さんと練習するのが一番じゃないかな」って、言葉が出てこないんだろう。

自分の心が、分からない。


「そうだ。お礼、しないとだよね」

「いいよこれぐらい」

「親しき仲にも礼儀ありだろ?」

「うぬっ…」


自分で告げた言葉が返ってくる。

こう言われてしまえば、反論すること何て出来やしない。


「これ。僕の作品ではないけれど…気に入ってくれていたから」

「これ、さっきのバレッタ!」


楠原君が差し出してくれた手のひらの上に乗せられていたのは、お店で見ていたバレッタ。

色合いもちょうど良く、気に入ったから買おうと思っていたのだが…なんだかんだでタイミングを逃していたものだ。


「なんでここに…」

「僕のランプ以外だと、これが一番気になっていたみたいだし…気に入ってくれた人の手元にあればいいなって思ったから…今日のお礼として渡そうかと」

「そうなんだ…ありがとう、楠原君。大事に使うね」

「そうしてくれると嬉しい」


硝子のバレッタ。

色とりどりの欠片は光を反射させ、虹を浮かばせる。


幸先はいい。気になっていた人と、友達になれた。


でも、何故だろうか。心には雲が広がる。

その先を照らす明かりは、灯ったまま。


友達になれたけど、自分の心は訳の分からないことばかり。

どうして私は、入学当時から彼から目を離せないのだろう。

目で追ってしまうのだろう。

答えは今も、休憩を終えて駅に向かい…彼と別れた後も分からないまま。


そして今日を終えても、休みを終えても…わからないままだった。


いつか、この不思議な気持ちに答えが出るのだろうか。

出ると、いいのだが…。

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