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紫苑の考え

「いやぁ悪いね怖がらせて。思ったより残らなかったな。やりすぎたかな」



紫苑さんはくすくすと笑いながら話し出した。やりすぎたってなに?突然雰囲気が変わり構えていた刀を下ろした。

周りに残ったみんなも何が起こってるんだという顔をしている。



「紫苑さん。これじゃ全員居なくなってしまうこともありましたよ。やりすぎです。はぁ」



斗南さんと紫苑さんが普通に和やかに話している。まさか……茶番!?!?



「ごめんね。でも妖魔がここに居るって分かって背を向けて逃げる人は、アービターではやっていけないんだよ。覚悟がない人は帰ってもらわないとね」



まさか。この大人数から戦う覚悟があるやつだけを残すためにこうしたのか?無茶苦茶すぎるだろ!やり方が間違ってる。



「妖魔は居ないよ。6人か……少ないね。嫌じゃなければ近くに来てくれないかな」



やりすぎたと思っているのか、紫苑さんは苦笑いで俺たちに話しかける。

砂埃も落ち着いて視界も晴れてきた。



「まじかよ。びびった」


「ほんとだね。でもとりあえず話を聞こう」



変な緊張感で逆に冷静だ。

風太と、紫苑さん達に近づけば、残りの4人も前に集まる。


……女が1人に男が5人。

アービターに女の子が入ろうとしているのか。



「改めて、すまなかったね。怖いことを思い出した人もいるだろう。でもあまりにも冷やかしが多くてね。ついでに訓練だけ受けたいだなんて人も多くて困っていたんだ。


妖魔と戦うなんて少し訓練したくらいで出来るものではない。ここで得た知識で、外で無茶されたら死人が増えるだけなんだよ。


厳しく(ふるい)にかけたかった。生半可な気持ちではアービターにはなれないから」



そう理由を教えてくれた。

だけど…こんな事しなくても…



「妖魔の存在にビビるのは普通じゃないですか?逃げ出した人の中にも素質がある人がいるかもしれない」



風太は一歩前に出てそう言う。俺もそれは思うよ。むしろ、怖くて逃げ出せなかった人もいるかもしれないし。

逃げた人の中に、磨けば光る原石がいたかもしれない。


だけど紫苑さんは言い切った。



「素質がある人は逃げないよ。僕は何人もアービターのみんなを妖魔狩りに送り出している。妖魔の存在や呻き声に体が震えるのは普通だ。正団員のなかでも、同じように未だに怖がる人もいる。でもみんな立ち向かおうとするんだ。


弱くて妖魔の殺し方も分からない。だけどそんな人でも、アービターになる人は、立ち向かう事が出来る人だ。


この一歩も踏み出せない人は、どれだけ訓練したとしても、絶対妖魔を殺せない。絶対だ。



これは僕が長年アービターの兵士たちに言っている言葉だ。



退()けば死あるのみ』



逃げることは構わない。自分の力量を把握するのは大切な事だ。だけど、誰かを守るためや何か自分の信念を貫くために戦おうと思っている人は、退けば終わりなんだよ。その瞬間に存在は死ぬんだ。


少しでも躊躇った瞬間に、大事な人は目の前で喰われる。


きっとここにいる君たちは、大切な人を妖魔に殺されているね。そうじゃなきゃ、命懸けで妖魔に立ち向かえないから。


詫びよう。6人の若き戦士達。僕の話を聞いて嫌になったら帰ってもいい。この世界は理不尽だらけだ。

そんな世界でも戦っていこうと思えるのなら……そこの階段を降りて地下においで。君達の10日間の宿に招待するよ」



訓練は泊まり込みだからね。そう紫苑さんは言って、スタスタとこの場から立ち去った。


どうしたらいいのか分からない。訓練は受けるから階段を降りることを悩んでいるのではなくて……


俺の覚悟の問題だ。


どこまで覚悟が必要なんだろう。俺はなにを犠牲にしながら、大切な人を守るんだろう。


いや、何も犠牲にしないために強くなるのか。


一番に動いたのは女の子。

無言で歩いて階段へ向かう。



「やれやれ。女の方が強い時代が来てしまうな」


風太は先行ってるぞと笑って歩いて行った。


退けば死あるのみ。か

そうだな。俺は自分を追い込まなきゃ。守るにはまだ力も覚悟も足りないから。


正直まだ戸惑いが大きいけど、チャンスがあるなら飛び込むしかない。



「びっくりしたなぁ。紫苑さんっていうの?ホンマに妖魔つれてきたら、首斬ったるところやったわ」



俺の隣を通り過ぎる時に、ヘラヘラと笑う男は物騒なことを言った。


おいおい。やばい奴もいるな。

話し方に特徴があるその男は、女の子と風太が降りて行った階段を降り始めた。


俺も行こうかな。



「君、刀持ってるんだね」


「え?あぁ。君たちは…」


「俺、椎名(しいな)って言うんだ。こっちはさっき仲良くなった暁月(あかつき)。よろしくな!」



歳は近そうだ。

椎名は爽やかな雰囲気で、明るく気さく。暁月は人見知りなのかペコリと頭を下げるだけ。



「俺は藍斗!よろしく。行こうよ」



そう言って3人で階段を降りる。

椎名は刀触りたい!と腰に刺している刀を見ている。暁月は静かに後ろをついてくる。


刀か



「そういえば、お前に話しかけたヒョロ長い男居ただろ?あいつも刀持ってたよ」


あぁ、さっきの人か。名前聞いてないや。紫苑さんの首を斬るとか言った人だよな。


「それを言うなら……女の子も……刀を持ってた。二本…腰に刺さってた」



暁月がボソボソと声を漏らす。まじか。見てなかった。二刀流ってこと?女の子で刀を持ってるって…俺と同じで、誰かの形見なのかな。



「アービターに女の子いるんだね。俺女の子好きだから嬉しい」



椎名は緊張感がないのかヘラヘラ笑っている。この状況で笑ってられるのは凄いよ。



「早く俺の家族を殺した妖魔を殺したい」


女の子が好きだと言った時と変わらぬ笑顔のままで、椎名はそう言った。

そうだよな。みんな色々あるよな。怖くて辛いけど、立ち向かっていくんだもんな。


椎名は家族が殺されたことをサラリと言って、特に気にする様子もなく歩いている。



「藍斗はどっちだ?」


「……なにが?」


なにを聞かれるのかと思った。聞かれて困ることもないけど、初めましての人と話す時は多少なりとも警戒はする。




「胸かお尻かどっちかって話に決まってんだろ?」



……は?

俺の構えを返してくれよ。



「関係ないじゃん。びっくりした」


「うっそだ!可愛い女の子いたら、考えちゃわない?」


正直俺にはそんな余裕がなかった。

女の子の顔をジロジロみて可愛いかどうか判断できる椎名は、よっぽと心に余裕があるよ。


俺なんて今のこの状況にもタジタジなのにさ。


そしてようやく長い階段が終わる。



「すご」


俺たちの感想は、椎名の感想そのものだった。


地面の下にこんなところがあるとは。


長い階段を降りた先には、大きな広い空間が広がっていた。

様々な地形や、水辺での戦闘をイメージするためか水場もある。ここで…訓練できるんだ。



「全員きたか。ここからは、鳴海(なるみ)教官にお前達の訓練をつけてもらう。鳴海教官お願いします」



地下に着くや否や、斗南さんは鳴海さんと言う人にバトンタッチをして何処かへ消えて行った。

えっと……



「はい、よろしくね。6人しか残らなかったんだね。まぁこの中から誰も正団員になれないかもしれないし、全員なれるかも分からないし……まぁ10日間楽しもうよ」



そう言いながら俺たちの前に立ったのは、なんともナイスバディな女の人。



「え?まさかお姉さんが教官?」


「そうよ。アービターにも女はいる。知らなかったかしら?珍しく入団希望者に女の子がいるらしいから、私が貴方達の訓練をつける。腕が鳴るわね」



派手な浴衣を着崩して着る鳴海教官は、妖艶な人だった。いやいや、戦えるのか?この人。まず、服が邪魔だろ…

椎名は目を輝かせて鳴海教官をみている。



「まぁ本格的な訓練は明日から。今からそこの建物の中で6人で話しなさい。なんでもいい。自分のことを知ってもらって、明日からの訓練で連携が取れるくらいまでに互いのことを把握しておいて。じゃなきゃ……」



口元に手を当てて、綺麗な顔でとんでもないことを言った。




「貴方達、死ぬわよ」




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