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「なんやて!?小春がアービターの救護室から脱走した!?」



色々あった。みんな後処理に追われて、俺たちも小春の救護室に付き添っていた。


だけどその時に、凛と2人で少し厄介なことに巻き込まれてしまって少しの間外に出ていた。この話はまた後でするとして……


やっと小春の元に戻れるとホッとしていたら救護室が慌ただしくなっていた。また妖魔が来たのかと思ったら、まさかの小春の脱走。



「あんな死にかけで脱走とかできる?誰かに拉致られたとか…その方が可能性として高くない?」



本当にどうなっているのか。

頭の整理はつかない。だけど、何か大きなことが起こってて、小春はそれに巻き込まれている。

それか小春もその中心にいるのか。


あの訓練室から出てきて、紫苑さんと話した小春を見ていて……凛も俺も口を開けて小春を見つめることしかできなかった。




遡ること数時間前



------




「ううっ……鳴海教官が…私達を守って…うわーーーん」



泣き叫ぶ小春


いやいや、話を合わせろと言ったけど、これは流石に驚きが勝ってしまうよ。どういう風にするか先に教えてくれたらよかったのに。


凛なんて…これでもかってくらい口が開いてるよ?



「君は、訓練生の女の子だね。傷がひどい…まずは手当が先だ」


「ううっ…先に話を聞いてください」



俺たちにはすぐ分かる。

これが小春の本性ではないと。演技を…している。かなりわざとらしいがこの空気感でこの違和感に気づけるのはずっと一緒にいた俺たちくらいだろう。



「鳴海教官が妖魔を倒してくれました。だけど…見たこともない人が現れて…その人も何故か妖魔で……相討ちになって、妖魔の方は灰になって消えたんですが…うう…鳴海教官が……死んでしまった…」



うわーーーんと大きな声を出して小春が涙を流した。


いや、鳴海教官が妖魔だった。

だけど小春は俺たちに話を合わせろと言った。

小春はこの山積みになる妖魔を倒したのが、鳴海教官だって事にしたいんだな?


自分がやったんじゃなくて……

あくまで、鳴海教官がアービターとして妖魔を斬り、後から現れた牴牾妖魔と相討ちになって死んだ。という……シナリオにするんだな?


本当に泣いてる。小春の演技に驚かされていたが、話を合わせるならこんな間抜けな顔をしていちゃダメだ。



「…わからんけど、小春の考えがある。合わせるで」


小声で凛がそう言った。


俺たちを救い、この数の妖魔を殺し、牴牾妖魔であった鳴海教官を倒してくれたのも小春だ。


だけどどうやら隠したいらしい。


言う通りにするよ。俺たちは小春に守られたから。それに……これ以上大事な仲間を失いたくない。



「わかった。兎に角君はまず、治療を受けなさい」


「……はい」


紫苑さんは少し納得していない顔をしていたが、生き残った小春がそう言うんだ。信じるしかないよな。


俺たちも聞かれたらそう話さなきゃいけない。



「あの、俺たちも小春について行って良いですか?」


「勿論だ。君たちも…辛い目に合わせてしまったね。施設内に部屋を用意するからそこで休みなさい。後の処理は大人がする。君たちは……もう安心して良い」



初めてそう言われて気が抜けた。

急に色々ありすぎて、何も理解できていないのに事が進む。ようやく…ようやく何があったか考える時間ができるんだね。



「最後にいいかな」


「……なんですか?」


目を閉じかけた小春に紫苑さんが声をかける。その声は俺たちでさえも、なんだか圧を感じる声だった。



「君はどうしてあの部屋のカメラを壊したんだ?」



カメラ?



「カメラ?なんです?それ。私何もしてませんけど」


「……部屋の四隅に黒い機械があっただろ?」


「あぁ、それなら壊しました。何か問題でも?」



妖魔が現れる前に、突然小春が壊し始めた黒い機械。それの事を言ってるんだよな?



「あれはね、その部屋を監視するための物なんだ。あれが壊れていなければ、そこで何があったのか全部見れるはずだったんだ」


「そうなんですね、そうとは知らずすみません。妖魔の気配を感じた時にブーーって音がなったんで。あまりにも煩くて、その黒い機械が悪いのかと壊しちゃいました」



笑顔でそう言う小春

こわいな、この2人の空気が。


紫苑さんは傷が痛むのにすまないと言って、奥の部屋に歩いて行った。



「「小春!」」


凛がゆっくり小春を持ち上げる。傷だらけの小春はようやく一息つけると思ったのか、さっきまでの表情とはかわり眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしている。



「救護室へ急ぐで」


「あまり揺らさないでくれ」


ハァと大きなため息をついているが、大丈夫そうなのかな。顔色は変わらず悪いけど。



「胡散臭い奴め。たぶん後で色々話を聞かれると思うが、頼んだ…ぞ」



疲れたから寝る。そう言って突然プツリと糸が切れたかのように、眠り出した。



「ほんま、小春は何を知ってるんや」


「……うん。とにかく小春を運ぼう」



アービターの人に案内されて、救護室へ運び終わる。すぐさま治療が始まった。

小春…がんばれよ。



「なんでアービターのやつ助けにこーへんねんって思ったけど、外もえらい事なってたな」



そうだ。てっきり、地下に何故か妖魔が溢れたのかと思ったけど、都も悲惨な状態になっていた。


紫苑さんが言うに、妖魔達が統率して、一気にこの日攻めてきたのだ。

都でも牴牾妖魔が下等種を率いて攻めてきて、地下への対応が遅れたといった。


あと、小春が壊したあの黒い機械。あれは何か起こった時にすぐ上層部が気付くための、監視用だったらしい。


紫苑さんが言うに、この地下全ての機械が壊されていたと。あの部屋は小春が壊したけど、他のはきっと…鳴海教官が壊したに違いない。


小春を救護室へ運んだ後紫苑さんと少し話した。

妖魔が大勢攻めてきて、鳴海教官が戦ってくれたとちゃんと言った。正直嘘でも言いたくなかった。


だってあいつは……風太達を殺したから。だけど……小春は俺たちに話を合わせてくれと言った。

小春なりの考えがあるんだ。

知られたら何か都合の悪いことがあるんだ。


目覚めたらきっと話してくれるから……だから、俺も吐き気がするけどそう言うよ。鳴海教官が…命をかけて守ってくれたと。



そこで紫苑さんは疑問が残るとボヤいていた。



『他に誰か助けてくれなかったか?この数の妖魔プラス牴牾妖魔。鳴海教官に1人で全て倒せるほどの実力があったとは思えない』



そう言ってた。

きっと、アービターの人が5人居ようが、倒せたかわからないと思う。だけど俺たちは、鳴海教官が戦ってくれたと言い切った。


だからこそ、小春が心配だ。

あれを倒したのは小春だけど、無茶をしたから出来るってもんでもない。でも今は、ただ無事を祈るしかない。



「あれかな。なんか……覚醒でもしたんかな」


もう分からへんわ。

と言っている凛。覚醒だなんて言葉で片付けられたら楽だけどね。


紫苑さんから解放されて、救護室の外の椅子に座って空を眺めながら凛と話す。



「結局何が起こったんや?鳴海が…妖魔引き連れてきたってことでええんかな。それに気づいた小春が、俺たち守って戦ったって事?」


「……多分。紫苑さんも斗南さんも、あの感じだと、鳴海教官が妖魔だって知らなかったって事だよね」


「まぁ、そうなるわな。知ってるなら大問題やけど、知らんかっても大問題ちゃう?」


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