対峙
3分経った
身体の傷が閉じた感じがする。
長期戦は傷が開くから最初から本気でやろう。
もうほとんどの妖魔の気配が無くなってるけど嫌な気配はそのままずっと漂っている。数時間前の和気藹々とした空気が嘘のようだ。
『鳴海の気配が近づいてきた』
よし
2人を隙を見つけて逃す。そして私は本気で戦う。
『俺を信じろ』
「私を信じろ」
人の姿で現れるのなら、同じ条件だな。この心臓を賭けて命を削り合おう。
鳴海の姿を見て戸惑う2人。先に伝えてやれたら良かったが、こっちも瀕死だったからそれどころではなかったんだよ。
藍斗は取り乱すと思ったよ。
誰よりも、周りの人を大切にする人だから。
でもとにかくお前たちとはまた生きて会いたいよ。この訓練過程はなくなるだろうけど、生きてればまた会えるから。
鳴海は2人を狙う素振りをする。風太の見た目のままやろうというのか。
妖魔とはとことん浅ましい奴だ。
でも私は躊躇いなどしない。
弔い合戦は始まってる!!
「あら、やっぱり左利きなんじゃない。おかしいと思ったのよね。いいのかしら?藍斗と凛にはバレたくないんじゃないの?」
「下等種なのに、お喋りが上手だな」
バケモノの姿じゃなけりゃ、表情に出るから分かりやすい。イライラしている。
本当に人間みたいな顔をする。
「この私が下等種ですって?」
額に青筋が浮かぶ。
「私の実力もわからずに1人で突っ込んでくるんだ。下等種か、頭の悪い牴牾妖魔か……どちらかだろう?」
躊躇わず斬る。左手がどうとかそんな暇はない。正直やらなきゃやられる。
完全に元気とかならまだしも私もかなりの手負いの状態で身体自体あまり感覚もない。
「凛!藍斗を引きずってでもこの部屋から出せ!そして……3人の身体が少しでも残ってるなら…」
跡形もないことは…無いと思うんだ。
刀を持つ手が震えそうになる。
「故郷にかえしたい。あいつらの骨を…探してくれ」
こんな事をこの2人に頼むのは酷なのはわかってる。だけどこの後また妖魔が来たら…私は身体がもたない。
食い散らかされる前に、骨だけでも拾いたい。
「部屋を出たらこの部屋と広間につながる扉を閉めろ。赤か緑か…光ってるボタンを押せば開閉できた」
「そんなんしたら、お前……2人きりになるやん」
凛は藍斗の首根っこを掴んだまま立ち上がらせて、私の心配もしてくれている。
凛のこんな不安な顔は初めて見たかもしれない。
後で怒られるのも嫌だからな。
「勝つよ。だから、そこで放心状態の藍斗のことも守ってくれ。そしてさっさと行ってくれ」
鳴海は風太の姿から鳴海の姿に戻り、刀で斬りかかってくる。ムカつくよ
「妖魔のくせに刀を振り回すなんて、身の程を弁えろよ。奇声上げて腕でも振ってろ」
「逃がすか」
地面を蹴る音がする。
わかるよ、お前の行動が手に取るようにわかる。
2人の背中を狙う剣先。
でもそれは2人には届かない。
私がいるから。
ブーーーと音が鳴ると、部屋の扉が音を立てて閉まる。
最後まで藍斗が叫んでいたが、扉が閉まれば一つも声は聞こえなかった。
ものすごい防音だな。
これで心置きなく話せる。
「妖蛭」
「なんなの?前妖魔王の名をなぜ今言うのかしら」
鳴海も色々気になることがあるのか刀をおろしてこちらを睨みつけたまま話す。
そうだな…
教えてやるよ
「なに。私の中にいる妖蛭と話しているだけだ。除け者にして悪かったな」
クスクスと中で笑ってる妖蛭。緊張感がないのは私も同じか。それに比例して鳴海の顔色は悪くなる。
「あんたの中に妖蛭がいる?何をふざけた事を」
「信じなくても良い。ただ私の目的は一つだけ」
はぁ。身体が痛い。正直勝てるか怪しい。絶対そんな素振りは見せないが、妖蛭だって私が負傷すれば弱くなるんだ。
攻撃をもらってはいけない。
「お前から妖畏の臭いがする。妖畏はどこにいる?」
そう尋ねればピクリと反応した。
やっぱり牴牾妖魔は最高だ。わかりやすい反応をしてくれる。人間とは…本当に愚かだ。
「さて。今回は妖畏の手引きか?そうだな〜妖畏はアービター内と繋がっていたりするのか?」
「……妖畏様の名を口にしないでくれる?」
なるほど。忠実なる僕というところか。
好都合だな。人間みたいに人質という概念がないのが残念だよ。
『腕を落とせ』
焦るな
『足も落とせ』
四肢をもいでも意味がないのはわかっているだろう。
『人間の姿をしているからこそ、手足を削げばいい。少しでも人として過ごしていたのなら、屈辱だろうから』
「お前は私よりも残酷だよ。さすが妖魔王ってところか」
「だから1人で何を喋ってる!!!」
イライラしている鳴海の怒鳴り声。汚いな。妖魔と人が混ざり声の質も変わっている。
「妖蛭と話してる。信じてないならそれで良い。たったいま、妖蛭からお前の四肢を切り落とせと言われた。どうする?」
鳴海は呻き声を上げながら突っ込んでくる。
片手で刀を掴み、空いた方の手は、妖魔らしい爪を出し襲いかかってくる。
これ程までに完璧に臭いを消して人間の中に紛れることが出来るくせに、あまり強くない気もするな。
気配消しに特化していたのか。
「妖畏様が言った通りだ。お前たちは危険だ」
「認知されているのか?有難いね。ついでに教えておいてやる」
妖蛭の宿る刀をスーッと指でなぞる。
滾っているなぁ。
早く血が飲みたくてウズウズしているのが伝わってくる。
「私は身体に妖蛭を取り込んでいる。妖畏を殺すことのできるたった1人の存在だと思ってくれれば良い」
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