小春の涙
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「小春!小春!」
そんな泣きそうな声を出すな。傷に響く。藍斗は手ぬぐいで私の傷口を押さえて何やらしている。
痛いんだから傷口を触るなと言いたいがそんな気力もない。
『役に立つ小僧だ。止血のおかげで傷が治しやすい。まぁ血は止まらんがな』
分かったからさっさとなんとかしろよ。
ハァハァ
苦しいな
目の前の藍斗は、この部屋に散らばる妖魔の残骸を見て不安そうな顔をした。そうだな。色々聞きたいことがあるだろう。でも今は…
「何も言わないで」
頼むから。
お前達を生かして、私もここで妖畏の手がかりを掴みたいんだよ。だから死ぬわけにはいかない。
それに何も…言われたくない。
藍斗は悲しい顔をして私の傷口を押さえ続けた。
左腕を優先して治してくれ。そう心で話せば妖蛭は頷いた。
鳴海を殺すには…左じゃないと無理だ。それに、この手負いの状態でどこまでやれるか。
『5分で動けるようになる』
5分か……遅いな
『俺をなんだと思ってる』
妖魔王様だろ?
『……3分だ』
やればできるじゃないか。
3分な。
「藍斗、少し休憩させてくれ。一度集中を取り戻したい。まだ妖魔の気配があるが…少しの間頼むよ」
そう伝えれば、俺達を信じろと言った。
バカだな。弱いお前達をどう信じたらいいのか教えてくれ。だけど……信じるよ。
震えているけどお前が私に信じろと言うなら信じて目を閉じるよ。
『一気に妖力を使うから、身体は怠くなるけどいいか?』
耐えられないくらい怠いんだ。もうなんでもいいから、早くしてくれ。
ちょうど良いところに妖魔の残骸が転がっているからこれは良い背もたれになる。
『妖魔にもたれかかって眠る女なんて居ないぞ』
ここに居るじゃないか。
私は妖魔の上でも昼寝ができるよ。疲れていればどこでも眠れる。
体が熱を帯び始める。
妖蛭が私の傷を体の内側から塞ごうとしているのがわかる。痛いというよりもヒリヒリしてどちらかと言えば痒い。
『傷を治してるわけじゃないからな』
分かってるよ。何度も説明された。
妖蛭の力で血が出ないようにしているだけ。感覚を鈍らせているだけ。
終わった後私は、ぶっ倒れるだろうな。
でも鳴海は殺さなきゃいけない。そうしなきゃ……
「妖蛭」
『話しかけるな。お前が3分でやれと言ったのだろう』
そうだな。
そうだけど。
冷静になると、少し弱音を吐きたくなる。
『……なんだ。言え』
時々父親面されることが気に食わないが、たまにそれに助けられる時がある。
こいつは妖魔なのに。
きっと誰よりも自分を理解してくれる奴で、妖魔だということを忘れてしまう。
「風太も…椎名も…暁月も…気配がしないんだ」
『……あぁ』
悔しい
「3人とも鳴海に喰われた」
『……そうだな』
私は何のために強くなったんだ。あいつらは強くなろうと必死だった。
それを見て私も少し火がついた。
あいつらはまだ先のある命だった。死んでいいわけないんだよ。
「3人を……死なせてしまった」
悔しくて涙が出る。
私もまだまだ…人だったんだな。
どうしようもない事はわかってる。死んだ人は生き返らないから。私がよく知っている。
でも
誰かを守れる力はあるはずなのに。
私は守れなかった。
『あの数の妖魔は無理だ。今お前が生きている事が不思議なくらいだし、助けに行く暇はなかった』
「もっと強ければ…」
『お前は…人間がなれる強さを超えてるんだよ。相手が悪かった』
違う
どんな敵でも勝てるようにならなきゃ意味がない。
「ごめんなさい…」
身体の中で妖蛭に包まれたような気がした。久しぶりに涙が止まらない。誰かを失う事は何度経験しても慣れるものじゃない。
たった5日間。
だけどずっと5日間生活を共にした。
良い奴らだった。
失うときの辛さを知っているから、大切なものは作りたくない。
なのに私は、人が好きだ。
あいつらの空気感が好きだった。
前向きで努力できるあいつらと……最後まで10日間共に過ごしたかった。
「妖蛭」
『……』
「私に力を貸して。3人の仇は私が討つ」
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