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受け入れられない事実

ぼろぼろと崩れ落ち灰になる妖魔。



弱点を……突けた。

凛は驚いた顔で俺を見ている。でも俺もびっくりしてるんだよ。手だって震えている。妖魔を灰にできた。


この感動を分かち合いたいところだけど小春が目を覚ましふらりと立ち上がった。


血がかなり出ていたからまだ動いちゃダメだ!


あの小さな身体が赤く染まるのは見慣れていなくて、ついでに本物の血だ。だから余計怖かった。


あんな妖魔の数を相手にして平気でいられるわけがない。



だけど…


血が……止まってる?


立ち上がった小春の身体を見てみればおかしなことが起きている。首の傷の血は止まる訳もないほど深い傷だった。動いたら絶対傷口は開くし、他のところもたくさん血が流れていた。


だけど小春の身体はどうだ?


血が乾いている?


血が止まったの?



「……来る」



そう言って止血用に、首に巻いていた手拭いを小春は解いた?


あり得ない。


小春の首の傷から血が流れていない。

スパッと妖魔の爪で傷つけられたんだろうけど……パックリひらいていていて、中の肉まだ見えていたひどい傷が、今、ギュッと閉じている。


治りかけの傷。

皮膚と皮膚がキュッと縮まり、必死に傷口を塞ごうとするあの感じ。



傷口はそんな風になってるように思う。



あり得ない、だろ…?



そして何かが来ると言う。これ以上何があるって言うんだよ。


一歩一歩こちらへ近づいてくる小春は、また悲しそうでそして困った顔をしていた。




「おい、小春。今度は何や!お前これ終わったら覚えとけよ!」


「何も言わない約束しただろ?」



約束破るのか?と小春は凛に言っている。そうじゃなくて…そんなことが言いたいんじゃなくて…



「広間の方が落ち着いた。2人でそっちに行ってくれ。私は大丈夫だから」



全くもって意味がわからないよ。

いつもの小春らしくない。弱々しくて、そして……



「何で優しい顔して笑うんだよ」



悔しくて思ったことをそのままぶつける。

小春はそんなこと言わないだろ?そんな顔で俺たちに何か頼まないだろ!?

この数日で結構小春のことはわかったつもりだよ?分かりやすいもん。

だから今のは、突き放されたと分かった。



「何がくるの?小春は何を感じてる?」



目の前の小春はまだ柔らかく笑っている。おかしいもん。こんな風に笑うなんて。

右手で刀を持っている小春は、口の端から流れた血を拭った。


まだ身体は…動ける状態じゃないだろ?



「牴牾妖魔がいる。ずっと私たちを見ている。あいつらは頭脳があるから…私たちの会話を聞いているんだよ」


牴牾妖魔の話は説明したから、お前ならわかるよな。と小春に言われた。


ヒトの形をした者。牴牾妖魔が…ここにいるだと?



下等種なんて比べ物にもならないくらい強い牴牾妖魔。周りを見渡しても何処にいるかわからない。


でも小春は俺たちを守るように立っている。



「小春!俺、鳴海教官呼んでくるわ!ほんで…アービターの人らもきっと戦ってるはずやし…連れてくる」



凛が走って行こうとする腕を小春は掴み、2人してバランスを崩している。


「なんやねん。切羽詰まってるんやろ?」


「そう。だけど、もうお出ましだ」



私が隙を作るから、2人は地上を目指して。必ず生き延びろと付け加える。


小春は右手に持っていた刀を左手に持ち替えた。



「なに、してるの?小春?」



異様な空気が怖いよ。

そんな小春と俺たちに近づいてくる人が1人。 


助けに来てくれた。やっと……安心できる。



「ほんと、いいチームね。この数日でここまで連携が取れて、各々動けるなんて、滅多にないわよ」



そう言いながら鳴海教官が俺たちのいる訓練室に入ってくる。

よかった。そう言いたかったのに、小春はザッと前に出て俺たちを庇うように立ち、片脚に重心を乗せ、いつでも動けるように構える。


え? 


ねぇ。どういうこと?

どうして小春は鳴海教官をみて、殺気立ったの?




「鳴海は、牴牾妖魔だ」




小春は……何を言ってるんだ?


そんなことって……助けに来てくれたと思ったのに。小春の治療ができると思ったのに。やっと安心できると思ったのに!


今の鳴海教官は、あの妖艶な見た目に加えて、禍々しいオーラを放っている。


クスクスと笑うその声に、時折ガサガサした低い声が混ざる。


これが……牴牾妖魔。



「……冗談きついって」



凛の表情も見たこともないような戸惑いに変わっている。冗談ならいいのに。

目の前の鳴海教官…いや、妖魔はこっちを見て舌なめずりをした。


全身が恐怖で硬直する。



「はぁ。すごく美味しそう」



やばいと身体中が感じている。なのに動けない。その声を聞いた瞬間身体が縛り付けられるみたいに動かなくなる。


ど、うしよう



「藍斗、凛」



なに?と返事したいけど動けないし口も動かない。普段どうやって身体を動かしていたのか、どうやって喋っていたのかさえ分からなくなってくる。


だけど小春の声はよく聞こえた。




「私が鳴海に斬りかかれば、2人の身体の硬直は解けて動けるようになる。構わず逃げろ。広間の方へ……誰の気配もしないから…風太達を」


頼んだ。

そう言った小春は綺麗な涙を流した。




風太…椎名…暁月…

3人は鳴海教官と訓練の続きをしていたはずだ。

ここに鳴海教官がいるって事は……?


それにどうして小春は泣いてるの?



「やっぱり強い人を食べなきゃ満足度が上がらないの」


「……3人を喰ったのか?」


「貴方、何か隠してるでしょ?もう堪らないのよ。貴方のその気迫が。美味しそうで我慢できなくて」


「3人を喰ったのかと聞いている」



心臓がうるさい。

バクバク心臓が動き、血は身体を巡るのに、脳にだけ血が行き渡っていない。


だって理解できないだろ?



風太?椎名?暁月?




「喰べたか知りたいなら、姿を変えて見せましょうか?」



鳴海がそう笑った瞬間に、カッとなり我を失った。



「藍斗!!」


小春の焦った声が聞こえたけど身体が止まらない。

縛り付けられた感覚を無理矢理解いた。そのせいで身体の筋が切れた気がする。


でも構わない。


こいつは……風太達を喰ったんだ!!!!



「藍斗、貴方はもう少し育ててから喰べたかったけど」



牴牾妖魔なんて関係ない。

憎いものは憎い。どんな姿をしてようが、大切な友達を……殺されたんだ。


迷いもなく斬れる!!!



「藍斗!」


ごめん、小春

今は君の声は届かない




「藍斗、俺を斬らないでくれよ」


「!!!!!」


斬りかかろうと走った。

刀を振り下ろし力を込めるその時


目の前の妖魔は風太の姿になった。


刀はぶれて、足を止めてしまう。でも勢いが止まらなくて、刀は風太の…風太の姿をした妖魔の肩に傷をつける。



「痛い」


「ふ、風太の声で喋るな!!!」


「やめてよ、俺だよ、藍斗!」


違うよ。

違う。これは風太じゃない。分かってるのに。

途端に手が震えて足が震えて、血が出ている風太に不安な気持ちにいっぱいになってしまった。



「だから下がっていろと言ったんだ」



はぁとため息混じりで耳元で声がした。

そのまま小春に服を掴まれて後ろに放り投げられ、俺の身体は凛にぶつかり、その反動で凛を縛っていた何かも、その時解けた。



「私はお前が何に姿を変えようが、大切な人の姿で殺さないでくれと乞おうが……」



どうして小春は左手で刀を持っているんだろう。その前に今片手で小春に放り投げられたけど、そのパワーはどこから?


ねぇ、小春


教えてよ


3人とも…本当に…殺されちゃったのかな。


鳴海教官は、いつから妖魔だったんだろう。

またこれだよ。

俺はいつだって気がつかない。


大切な人を守れない。

妖魔がそこにいたのに気がつかなかった。


くそ……




「私はお前を殺せる。確実にな」



そして1人で立ち向かう小春の手助けもできない。




 

「藍斗、凛」




もう一度俺たちの名前を呼ぶ小春


その声を聞いてなんだかとても悲しくなって


このまま小春ともう…



会えないんじゃないかって



「死ぬなよ」



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