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牴牾妖魔

--------------


みんな妖魔との戦闘でそれなりに疲弊しているようで、鳴海はこのあとは自由時間だと言った。明日は6人で3体の仮想妖魔と戦うらしい。


「小春に怒られたから、妖魔のレベルは下げておくわね。その代わり、3体よ」



……練習にはなるだろうが、勝てない相手に挑み続けることは、強くなる秘訣ではないからな。 

胡散臭い鳴海は手を振ってその場を去った。



まずは斬ることの快感を覚えなきゃ…

誰も強くはなれない。


その面で言えば、凛はその快感を知っている。藍斗は、頭の中にイメージでもあるのか、斬る快感に貪欲だと思う。


他は、明日同じ場で妖魔と向き合うなら、見ることができる。



誰かの心配をしている訳ではない。

ここから数人、同じように正団員になりたいだけだ。仲間意識なんかじゃない。


入団したら3人1チームを組まなければいけない。使えそうな2人をそばに置くことも大事。好奇心旺盛で頭がキレて……妖魔と人間ではなくもっと大きな規模で考えられる2人が欲しい。


せっかく10日間もあるんだ。

普通ならそれなりに絆は芽生えるよ。


普通ならな。



「よっしゃ!小春、後で俺たちの動きも見てくれよ!ここの施設のものなら何使ってもいいらしいからさ!」


風太か。

柄にもなくみんなの名を覚えた。



「俺も〜!俺たち出血死組をなんとかして〜」


椎名は暁月を引っ張って歩いている。

まぁ確かに……出血死組だな。



ふふ、ダサいな。

ひとまずは休憩をすることになった。

ご飯の時間だ。

憂鬱だと思ったが、なんとなく同じように食べたい気持ちがでてきたから、少しずつ食べた。



「小食やのに、よう動けるな」


「貧しい生活をしていたから慣れてる」


「小春ちゃん、素はそっち?」


「……そうだ」


なるほどね!と椎名は何故か嬉しそうな顔をしている。逆だろう。こんな男みたいな話し方をされたら嫌だろうに。



「女の子は素が1番可愛いよ!」


「………はあ」


何その反応!と椎名は笑っている。他にどう反応すればいい?

こうやって話すこともないから、どうやって話したら良いのかも分からない。



「小春、フルーツいる?」


「え、あぁ。いただくよ」


両隣の藍斗と凛がフルーツをくれる。その代わりに他の飯をあげる。餌付けされている気分だが、まぁこうやって誰かと食べるのなら…少しくらいなら食べれる。



みんな各々鍛えているんだな。

食事をしながら全員の身体を見る。実戦してきた凛の身体が1番出来上がってるが、他も負けずとも劣らず。



『お前、こいつらを鍛えてやるつもりか?』


うるさいな。

お前の声に反応したら、私の声はみんなに聞こえるんだから、不審に思われるだろう。話しかけないで欲しい。


『あの小僧の時みたいに、一から剣技を教えてやるつもりかと聞いている』


夜虎のことか。

今みんなのいる状況で答えられないくせに質問をするなよ。


という私の悪態もコイツには伝わるんだ。


だから、声を出さずともそれなりに伝わる。



『放っておけば良い。入団して残り2人を見つければいいだろう』



うるさいな



『まぁお前は人のことは見捨てられないからな。何処にいてもどんな状況でも、お前は必ず人を助けようとする』


……そんなこともない。

人間と妖魔。勿論妖魔が憎い。だけど、人間側に立って妖魔をどうにかしたい訳じゃ無い。


ただあの妖魔を…妖畏だけは、自分の手で殺したいだけだ。


でも…



「誰かが目の前で死ぬのはごめんだよ」


それが例え誰だとしても…きっと助ける。でも誰でも助けられるわけじゃ無い。この刃が届く範囲の人しか守れない。


だからみんな、各々強くなるべきなんだよ。アービターとかそんなもの無くして、全員が戦う気持ちになれば…変わるだろうに。



「小春?どうかした?」


「なに?」


「いや、今…誰かが死ぬのはごめんだって」


……なるほど。妖蛭め。話しかけてくるなよ。言葉になってしまっていたのに気が付かなかった。

食事も終わり、食卓に座るのは藍斗だけ。



「小春は……やっぱりいい」


名を呼んで話しかけたと言うのに、やっぱりいいという、もやもやが残る言葉を藍斗は呟いた。気になるだろう。



「何?気になる」


「いや、気分が悪くなることを聞きそうになった」


「……ちょっとやそっとじゃ気分なんて悪くならないよ」



目の前に妖魔の死骸が転がってようが、どれだけ悪臭が漂おうが、私はその中で大好きなフルーツを食べる事ができる。

私の気持ち悪いと思うレベルは相当なものだ。



「言って」


私じゃなくて気分が悪いのはお前だろと言いたい。藍斗の顔はなんだか辛そうだ。

辛いなら話さなければいいのに。



「あのさ、小春は…ヒトの形をした妖魔を……斬ったことはある?」



……そうか。藍斗は確か、母親に扮した妖魔に出会っているのか。


ヒトの形をした妖魔ね。



牴牾妖魔(ていごようま)のことだな」


「ていご?ヒトの形をした妖魔のことを、そう呼ぶのか?」


「本当の名称かは知らないけど。牴牾(ていご)は、食い違うとか、相容れぬことを指す言葉だ。だからそう呼んでいる」



あまりそう呼ぶ人はいないが、ヒトの形をした者よりも、短くていい。



「で、なんだ?斬ったことがあるか、か。あるよ。牴牾妖魔を斬るよ、私は」


「………そうなんだ」



下を向いてしまった。

恐ろしいのかもしれないな。はたから見れば、ただの殺人鬼に見えるから。牴牾妖魔の姿は人間だから。

妖魔と同じように急所を突けば、灰になる。だけど、ただ斬るだけじゃ、周りの奴らからは、人が斬られたように見える。



何故そんなことを聞いたのかよく分からないけど、そろそろ私は一旦自室に戻るか。


また後で。そう声をかけて席を立てば、腕を引かれてバランスを崩す。

なんなんだ




「俺、強くなるよ!」


「……ん?」


「だから、どうって事ないって顔するの辞めろよ。小春も人間だ。辛くなったり疲れた時は、誰かを頼るんだよ」


脈絡のない男だな。

突然何でそんな話になるのか。


私も人間、か。




「強い妖魔も多いはずなのに、俺はその一回しか、その…何だっけ?あ、牴牾妖魔に会ったことが無いんだよ」


「会わない方がいい。強いから」


「それは、そうだけど……こんなに少ないものなのかな」


「何が言いたいのか分からないけど、一つ分かってることがある。牴牾妖魔は少ないんじゃ無い」


そう。

人になりすます事ができる妖魔は、かなりの数がいる。だけどそこまで出会わないのには訳がある。



「妖魔と急所の話は知ってるか?」



「うん。急所を綺麗に突けば、強い妖魔も一瞬で灰になるって」


「そう。妖魔の急所は妖魔それぞれで変わってくるし、サイズ感もちがう。その急所を突くのは難しい。

だけど人間はどうだ?急所なんてこの心臓だけだろう」


藍斗の左胸を叩く

人は弱い


そこを狙われればすぐ死んでしまう。この心臓を守る硬い筋肉皮膚も何も無い。



「牴牾妖魔が人に成りすましている間、急所は人の身体の左胸、心臓が急所になる。妖魔からしたら怖いんだよ。急所を突いてくれと言わんばかりの人間の身体は。


だからずっと人間のフリをしていられない。もしアービターの奴が、人の姿をしている牴牾妖魔だと気づいたら?鼻の効くやつもいるから。


そしたら、胸を一刺しすれば、そこで終わる。


どれだけ身体が強化されようが、急所の場所がバレているんだ。奴らは耐えがたい緊張感の中にいる。


そんな事が理由で、牴牾妖魔は少なく感じる。人の姿になれるが、人の姿を維持し続けることが恐ろしいから、みんな妖魔の姿のまま過ごしている。


藍斗が牴牾妖魔が少なく感じるのはそういうことだよ」



詳しく説明した。

好き好んで人の姿になる妖魔は本当に少ない。人として過ごすが、やはり恐怖や不安から妖魔の姿に戻ることが多いと聞く。


まぁ聞いたのは、妖蛭からだが。



自ら人間になりすまして、何事もないように生きよとするのは、この私の中にいる、頭のおかしな妖魔くらいだろう。


「まぁ、牴牾妖魔は、アービターがなんとかするよ。私たちは下等種を確実に斬れるようになればいい」


風呂に入ると告げて藍斗のそばを離れる。



はぁ


『あの小僧、気になるか?』


「さぁな。好奇心が身を滅ぼさなきゃいいけど。凛の言う通り藍斗は……私も同じ匂いがすると思う」



獲物を狩りたいと言う衝動が、きっと抑えられないタイプだ。


野生派3人でチームもおもしろいが、暴走を止めれる奴がいなくなるな。


さっと湯を浴びて着替える。



「いっそクーデターを起こせるくらい、誰かを育成するのもアリかもしれないな」



内部から情報を探るよりも早いかもしれないな。一般人が傷ついたら困るから迂闊にアービターを攻撃はできないけど。


夜虎と私だけではどうも足りない。


妖畏は妖魔の軍をつくっているから。

二人で叶うわけがない。


となると…やはり、誰かを育成するのが手っ取り早いな。



『お前に教わる奴が可哀想だよ』


「何故?」




お前は言葉が足りないからだよ。



そう妖蛭に言われて、何を言っているんだと鼻で笑ったあと、みんなところへ行って訓練を再開してみれば……




「だから、そうじゃない。こうだ」



「「「だから、わからないって!!」」」


文句を受けている。

なんなんだ、こいつらは。教えてくれと言うから教えてるのに文句を言われる。


これ以上どう説明するって言うんだ。


「まぁ、俺はなんとなく分かるかも。筋肉の場所によって、刀の入刀角度を覚えろってことやろ?」



「だからそう言ってるじゃないか」



「いや、小春は感覚で言ってるからこいつら分からへんねん。筋肉がキュッてなったらベストな角度や!なんて、誰もわからへんで」



……なるほど。

刀の入刀角度を覚えろと言えばいいのか。言葉は難しいな。

そしてさっきからみんなには聞こえていないが、妖蛭がゲラゲラと教え方が下手だと笑っていて不愉快だ。



「俺と藍斗は今日一緒に小春と仮想妖魔を倒してなんとなくコツは掴んでる。角度次第で、全然深く入らへんかった刀も、スッと入るのが分かったから」


凛と藍斗はなんとなく分かるよと言った。


夜虎のときは簡単だったのにな。教えるの。

あの時は実際妖魔と戦いながら教えたからかな。


分かるように教えろと言われて仕方がなく練習に付き合う。私だって右手の練習がしたいんだが。

右手で振るうと、人に角度をどうこうしろと言っているのに、私自身できないからやりたくない。



夜に一人で練習でもするか。



何時間も練習に付き合い、みんな疲れ切って風呂と飯の前に眠っていた。


やれやれ



『御人好しだな』


教えを乞うこの5人

少しくらい優しくしてもいいと思うんだ。


「お母様が言っていたから。助けてやれって。困ってる人がいたら助けられるような子になれと言っていたから」



忘れる日はない。

ずっと覚えてる。



「父親は知らない。だけど、お母様はとても優しくて綺麗で、聡明な人だった。だからお母様の言葉は今でも守ろうと思う」


私が話し出すと、ずっと喋っていた妖蛭が静かになる。 


妖蛭は、私と出会ったあの村の話をするのを嫌がる。私が復讐を決めたのは、村のみんなを…お母様を妖畏が痛ぶり殺したからだ。



「お前はなぜ妖畏を殺したいんだ?」



『……さぁな』



もう何年もはぐらかされている。

私と妖蛭は、妖畏を殺すと言う目的が重なった。互いの依存関係がないと生き延びることはできなかった。


気持ち悪い言い方をすれば、私たちは今、運命共同体なのだ。


だけど妖蛭は、妖畏を殺したい理由を教えてくれない。もう……8年間聞き続けているのに。



『半殺しにされたから仕返しだよ』


「バカな。お前が自身を殺されたくらいで復讐なんて考える訳がない。それに半殺しじゃない。お前は9割死んでた」


『それを言うなら小春もだ。私がお前の肉体を繋ぎ止めてやったんだ』


「それを言うならお前は私の身体が無ければあのまま灰になっていた」


ため息が出るよ。

私たちのこの言い合いほど無意味なものはない。


私は妖蛭が居ないと生きていられないし、妖蛭も私がいないと生きていられない。


ほんと、厄介な契約をしたもんだ。



「妖畏を殺すその時までに、お前が妖畏に何をされて復讐という選択肢を選んだのか、教えろよ」


『……時期が来たら話す。今のお前じゃ…まだ足りない』


「強さが、か?」


『いや。強さは充分だよ。お前に足りないのは()()()()()()()()|を受け止める心だよ』



また訳の分からないことを。

妖蛭はこう言う話をすると、途端に遠回しに話し出すから嫌いだ。


妖畏という同じ妖魔を殺したいと強く願っているのに。妖蛭は妖畏をそこまで殺したいと思う理由を教えてくれない。


変な話だよな。


同じ妖魔なのに。


まぁ人間が人間を恨むのと同じか。そう考えればおかしな事ではない。現に妖蛭は、妖魔王の座を妖畏に奪われたのだから。



どうして妖蛭は



私の村にいたんだろうな。

あの頃は私はお母様に守られる日々だったから、そんな危機感もなく、のうのうと生きていた。 

今なら守れるのに。



「お前と話していると辛気臭い」


『人のせいにするな。お前が昔話をする時、辛気臭いだけだろう』


「……付き合え。左手が鈍っても困る」


話していても無駄だから身体を動かしたい。他の奴らに合わせていたからまだ身体を動かし足りないんだよ。

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