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キャラ設定

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『小春…』


「分かってる!言われなくても…分かってる。向いていない」



トイレの水で顔を濡らす。

あの程度じゃ汗ひとつも出ないけど、凛と藍斗を見ていると少し熱くなってしまった。


だけど本当にもう、私は偽るのが苦手だ。


『向いてないな』


「怪しまれてると思うか?」


『まぁ…な。いくら右手の刀の扱いが不慣れだからって、身体はいつも通り動くんだ。途中キレッキレだったぞ』


妖蛭(ようてつ)はケラケラと笑っている。

くそ。うまくいかない。

でも私がうまく偽われなくなった原因はあるんだ。



「だいたいさっきのが下等種だって?あの鳴海って女、ふざけている。下等種はもっと弱いはずだ」


『あぁ、そうだな。あれは人に成りすませるくらいの力がある妖魔のレベルだな』


「下等種じゃないから、右手だと心許く感じてしまって反射で身体がうごいてしまった」


『必死に2人を守りながら立ち回ってたな。情が移るのが早くないか?』


「違う。仮想だとしても、目に前で妖魔にやられそうな奴がいたら助ける。それは…普通のことだから」



その普通が今回普通じゃないんだけど。

怖がるふりをしなきゃいけなかった。だけど、いやいや、これ下等種じゃないだろと思ったら、鳴海に対しての不信感しかなくて……



あと、2人の動きが面白かった。

必死に思考しながら動いていると分かった。



45度回せと言ったが、ズレもなく凛は刀を回して振り下ろした。動き回る妖魔に対しての、繊細なコントロールは上出来だ。


それに藍斗。


よく分からないけど、最後に指示はしてないのに刀を放り投げた。

刀は綺麗な軌道のまま、最高の角度で妖魔の首に刺さるところだった。


まぁ力加減やスピードが足りなくて、上手くはいかなかったが。


あれは…センスなのか?



「それに、あの施設もそうだけど、地下に降りてからの景色はしっかりと見たな?」


『……あぁ』



不釣り合いすぎる。いくら技術が発展して、最先端のものを導入できるようになったとしても、それでも、ここはやり過ぎだ。


あんなものがこの世界にあるわけが無い。それに、仮想戦闘も…この技術があるなら、アービターなんて要らないだろう。



この施設は全て、妖魔に対抗する物で溢れかえっている。


まるで……




『「 まるで妖魔を倒すため、御膳立てされてるみたい 」』




……気持ち悪い。真似するなよ。

睨む相手は自分の身体の中にいる。


妖蛭と声がハモる。でもそうなんだ。


違和感なんだ。


別に妖魔を倒そうとする組織なんだから普通なのかもしれない。妖魔に慣れるための仮想戦闘なんて素晴らしすぎるくらいだ。


ただ何と言うか…



『おかしな事ではない。お前たち人間が妖魔に対抗する為にアービターは出来たんだ。そのアービターが対妖魔の訓練をしているのなんて、普通だろ』


「そんなことは分かってる。もっとこう……それさえも操られている気がする」


『……それさえも?』



分からない。漠然とした違和感があるんだ。



「技術は……こことは別の場所から伝わったものの可能性がある」


『…そうだな。この国で、あれだけの技術を要する施設を作れる訳がないな』



初めて見る機械たち。

みんな違和感を感じないのか?こんなものあるわけが無いとは思わないのか?

正直この高度な技術はよく分からないが、一つわかることがある。



「仮想妖魔……誰があそこまで妖魔の動きを事細かく再現できると思う?技術だと言われたら仕方がない気もするけど……


妖魔が腕を振り上げる時の細かい動きに、斬られた時ピクリと動くその筋肉。すべてがリアルに表現されていた。


まるで妖魔を知り尽くした誰かが作ったみたい」



自分でそう言って恐ろしくなった。

これだけ妖魔を斬った私でさえ、妖魔のこと細かい挙動を再現しろと言われても難しい。


ましてやアービターにそこまで強い戦士もいないのに、妖魔の動きをコピーして取り込めるだなんて。


紫苑や斗南があの施設の制作に携わったと言うなら、分からなくもないが……

あまりにもリアルすぎる。今を必死に生きている私達にとって、こんな細かい動きまで再現する物を作るのは不可能だ。


勝てもしない人が殆どなのに。あそこまで細かく真似て作るなんて、あり得ないんだよ。



『お前は相変わらずいい読みするなぁ』


「……最低でも、この世界に住む人が作った物じゃない」


こんな根拠のない話を好き好んでするつもりもないが……私にとって、この最新の技術に囲まれたこの空間は、妖魔よりも不気味だ。



『この世界じゃない場所ってなんだ?』


「それは知らない。そんなもの無いと思いたいが」



右腕をマッサージしながら妖蛭と話す。

きっと……コイツは何か知っている。妖蛭が妖魔王だった時代は長い。コイツは妖魔としてこの世界に長く滞在している。何か知っているはずなんだ。だけど絶対教えてはくれない。


私の思考が妖蛭にも伝わるのなら、妖蛭の思考も私が知れたらいいのに。



『とにかくお前は、ここでの訓練を乗り切ることを考えろ。今のままじゃ浮きまくって終わるぞ』


なぜ妖蛭にも諭されなきゃいけないんだ。

でも言われてることは分かる。


「キャラ設定を間違えたか」


ぽつりと呟いた。か弱いふりをしていた方が都合がいいと思ったが…難しいな。あまり目立ちたくないのに、ついつい興奮して動いてしまった。



『戦いが好きな狂った女設定にしておけ。お前の性格上、か弱いなんて死んでも無理だ』



妖蛭がそう言って答えようとした時、トイレのドアが開いた。


えっと…



「ご、ごめん!でも小春遅かったから。倒れてたりしたら怖いなって思って」


突然現れた藍斗は、トイレのドアを開けたことに対しての謝罪だろうか。あたふたしながら視線をそらす。

そのあと何も言わない私をみて、大丈夫?と不安そうな顔をしている。


そうか。結構時間が経ったのか。



「小春?何処か怪我した?」


「…いや、大丈夫」


「そう?じゃあ行こうよ。俺たち1回ずつ試合の映像見たんだよ」



小春、カッコよかったな。

何の疑いもなく純粋な視線が向けられて少し心が痛む。かっこよく映るのか。お前達の目には……バケモノに映らないのか?


「…ねぇ」


「ん?どうかした?」



自分が妖魔なのかもしれないと悩んだことがあると言った藍斗。


大丈夫だよ。妖魔はもう、そんなことさえ思わないんだ。自分が妖魔なのか、悩むことさえなくなるんだ。



「私は、藍斗の目にどう映る?」



そんな風に悩んだ藍斗は、私のことは妖魔だと…疑わないのだろうか。何も気にならないのだろうか。



『小春』



妖蛭の声でハッとして口を閉じる。

危ない。つい、変なことを口走りそうになった。

妖蛭の声は私にしか聞こえない。勿論藍斗には聞こえない。



妖魔が身体の中にいる私は 

バケモノなのだろうか。


そんな深い問いだと思わなかったのか、藍斗は答えた。


「可愛い女の子」


「………は?」


「は?って酷いな。小春が聞いたんだろ?俺の目にどう映るって」


何を言っているんだ。

そんな話をしている訳じゃないのに。

いや、勝手に色々考えていたのは私か。



「でも強くてかっこいいなって思った」


「かっこいい?私がか?」


「ねぇ、話し方は諦めたの?」



藍斗はクスクス笑っている。

諦めたよ。もう無理だとわかった。



「女の方が強いと、男は嫌がると思って」


「うそ、そんな理由?」



大丈夫、安心して。みんな小春に色々教えて欲しいって騒いでるくらいだから。

藍斗はまた笑っている。


よく笑うな



「でもさ、小春は、辛くない?」


「……何が」



歩いていた藍斗は立ち止まって、背の低い私の顔を下から覗き込んだ。


藍斗の名の通りの藍色の髪がフワリと揺れる。



「強い人は、それだけ沢山辛い経験をしてるから」



辛いことがあったら相談してね。頼りないけど。藍斗はそう言って再び歩き出した。


間抜けな顔をしている。もちろん私がだ。

今私は…どんな顔をしている?



強い人は、それだけ辛い経験をしている、か。そんなことを言う奴がいるとは思わなかった。


でも、私が本気で戦う姿をみたら、きっと藍斗は恐怖に染まるだろう。



こんなことを言ってくれる奴の前で、そんな姿は見せたくないなと少し思った。



「小春!おそいで!腹でもこわしたんか?」


「いや……まぁ、うん。少し疲れた」


凛は邪魔になったのか、深緑の髪を束ねている。その方がいい。あの長髪は、妖魔に引きちぎられる。


「あら、今回の優秀者のお出ましね?モニタールームにいらっしゃい。映像みるわよ」


鳴海か。

胡散臭いのに変わりはないが。



「先に……聞く。あれは下等種のレベルではなかったと思うが。その説明は皆んなにしたのか?」


「……力を見るには、強い敵と戦う方がいいでしょ?」



ウチに秘めた力を引き摺り出すには、()()()相手じゃダメなのよ。


そう言った。

鳴海は…私をジッと見ている。


疑われるのは面倒だな。

まだ大したことはしていないが。目立つ行動は避けなければ。



「ええから、お前もいっぺん見てみ?自分の姿とか見たことないやろ?すごいで!」


凛に急かされてモニタールームとやらにつく。

同じように白い画面があり、そこにはさっきの映像が映し出された。



「小春以外、もう振り返りは済んだのよ」



あなたの意見を聞かせてちょうだい。鳴海はそう私の顔を見た。

意見か。



「よく出来ていて驚いた」


「みんなが?」


「…仮想妖魔だ」


それだけだと言えば、戦いの話をしろと言われた。

凛と藍斗は、期待している顔を向けてくる。なんなんだ。



「この2人から、あなたから指示があったと聞いたわ。終盤3人とも動きが変わったでしょ。あなたは……何者?」



なるほど。

2人から聞いたところで私の何かが分かるわけでもないか。か弱いキャラ設定は面倒だから、それなりに戦える設定に切り替えよう。



刀光(とうこう)の見習いをしていた。いつも後ろから戦闘を見ていたから、戦いの全体を見ることが出来る。藍斗と凛なら出来そうだから、少し助言してみただけ」


刀光(とうこう)とは、いわば非公認アービターみたいなものだ。そんなにいいものでもないが。


アービターは人数が足りていない。都から離れすぎた場所には誰も助けは来ない。


襲われる中でも生き抜いてきた、しぶとい輩たちが集まる集団。それが刀光だ。


「刀光って…」


まぁいいイメージは無いな。

奴らは善人ではない。

妖魔が襲ってくるから殺しているだけ。誰か守りたいものが居る訳でも無い。


だから刀光と名前のついた集団でも、関係はドライなものだ。

戦いの時だけ、全員楽しそうにする、イカれた集団だよ。



『死ぬ時は、自分が弱かった時』



刀光の頭がそう言っていた。

奴らは戦いで死ぬことに何の恐怖もない。むしろ本望だと思っている。



「私を見て、戦い慣れてると思ったのならきっと、刀光に居たからだろう。後ろでその姿を見てきた。動き方が分かる。それだけだ」



刀光に居る時は、夜虎と一緒に、程よく妖魔の相手をしていた。バカが多く、自ら妖魔の巣に飛び込む頭のおかしな奴もいた。


数年刀光に留まった。我ながら長居をしたと思う。

刀光に長居をした理由は、刀光の奴らが妖魔の情報を沢山持っているからだ。

あともう一つ……1番大事なのは、奴らは他人に興味がない。妖魔を狩ることだけに興味を持っている。


何処の生まれで、誰から剣技を教わったか、夜虎との関係はどうなのか、誰1人聞いてこなかった。


あくまで他人。

戦いの場を共にするイカれた仲間。


とても楽で、そして妖魔の情報も早かった。


ほんと好都合の集団だったよ。



「俺、一回だけ刀光と妖魔倒したことあるわ」


「そうか。私も居たかもしれないな」


「かもな。何となく小春は野生って感じしたし、ちょっと納得いったわ」



ところで、話し方変わってない?どないしてん!と凛にも笑われた。

もうこれでいいんだ。楽だ。か弱い女は向いていなかったよ。



「なるほどね。刀光か…また珍しいところにいたのね。強さの秘密、洞察力には納得できたわ」


鳴海の目はどうも私を探っているように見える。

程よく戦えるくらいにしておきたいから、これ以上何かできるところは見せたくない。


とくに、この女の前では。



「俺、刀光に…助けてもらったことある」


1番静かな暁月が喋り出した。

まぁ、助けてもらった、は少し違うかもしれないけど。妖魔を斬ってくれることは斬ってくれるよ。


嫌な顔をされると思ったが、刀光の話をしてもみんな普通の反応だった。


その後も、繰り返し映像を見ながら各々の改善点を鳴海が話していた。

さすがアービターとでも言っておこうか。


よく見えてる。


この1戦でそれぞれの動きの弱点、強みを言い当てて改善点まであげている。この女も強いんだろうな。



「小春は…」


私の番か。




「利き手はそっちで合ってる?」



ドキッとした。

おかしな仕草を取ったか?


「小春ちゃん、左手怪我してるから使えないよ」


椎名がそう言ったが、火傷の痕は嘘だ。

包帯が巻かれた左腕には、噛み跡がある。



妖蛭と契約を交わした時に噛まれた傷が消えない。



「そう。なんだか違和感があってね。動きと刀がチグハグなのよ。左で刀でも握れば上手くいくのかしらって思っただけよ」


「……そう。左は右よりうまく使えない。火傷の痕が擦れて痛いんだ」


「わかった。あなたは動きとしてはかなり優秀よ。刀光の中で、あまり実戦はせずに、ずっとみんなの動きを研究していたのかもしれないわね」


そんな感じということにしておこう。

でも10日もあったら、それなりに右手も使えるようになりそうだな。

両手が使えるに越したことはないからいい機会だ。





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