仮想妖魔
「はーい。あんたら全滅!次!」
凛を先頭に部屋の中心へ。
中心にきてわかる。何かブーンと機械音がずっと聞こえている。
仮想妖魔…か。俺は妖魔と向かい合うのは初めてだから。腰が引けないようにしないと。
「小春、大丈夫?」
「うん。大体動きは見てたから」
さっきの風太達の戦闘の話かな。
そして目の前に、半透明の仮想妖魔が現れた。
妖魔の正面に回り妖魔の視線を引きつけるように威嚇をする。
痛くないと言ってもちゃんと怖いじゃん!足がすくみそうになったが、心強い凛が居た。
「ええ感じやでー!何発もらっても立って引きつけといてや」
「無茶を言う!」
妖魔の動きは速い。
だけど俺は運動神経だけはいいんだよ。瞬発力も自慢じゃないがかなり長けている。
妖魔の動きをよく見ろ…
腕の振り下ろすタイミング。踏み込んでくるタイミング。全てを見て判断しろ。
変な汗が止まらない。
一振り目を避け、チャンスだと思い振り下ろされた腕を斬る。
うわ…
斬った感触がある。
皮膚を先固い筋肉で刀がとまったのを感じた。
これに驚いてしまい反応が遅れ、腕をばたつかせた妖魔に弾き飛ばされる。
いってぇ。妖魔の手が当たったところは傷としては痛くないけど、普通に吹っ飛ばされて転んでるから痛い!
でもすぐに立ち上がる。
小春が妖魔と睨み合っていたから。トラウマにならないか?最初怖がっていたから。
だけど心配無用なのか…
ヒラリと身をかわし、動き終わった妖魔に刀を下ろす。
一瞬その動作に魅入ったが……
素振りの時同様、なんとも刀の軌道がおかしくて、小春自身もあれ?と言った顔をしている。
動きはすごいのに…
腕だけ素人だ。なんだ、この違和感は。
「小春ナイスや!」
切り替わるように凛が妖魔の腰に刀を刺す。
しかし深く刺さりすぎたのか、凛の刀は妖魔の身体から抜けない。
妖魔が暴れ出し、凛と近くにいた小春も吹き飛ばす。
妖魔には凛の刀だけが突き刺さった状態。
「いってー!普通に頭打った!」
凛は転んだ時に頭を打ったのか痛いと怒っている。凛も俺も、スーツの赤い部分が増えてきてしまった。
小春だけ…
綺麗だ
「……腰に刺した?それとも…太ももの付け根?」
暴れ出す妖魔を見ながら小春は凛に尋ねた。刀の刺さってる位置?
「うーん。太ももの付け根やな」
全然抜けへんかった!と武器も無くした凛はアタフタしている。そりゃそうだ。武器もなしで素手で妖魔とやり合おうなんて…無理だもんな。
「動きは藍斗と私で引きつける。凛は刀を45度回して、真下へ押し込んで」
「え?」
「なんて?刀回す?」
小春の二重人格、しっかりした小春がでてきた。そのあと何故か「で、できればでいいの」と弱々しく訂正。
へんなの。
まぁいいや。
万策尽きてるんだ。小春の言う通りにやろう。凛もそう思ったのかよし!と気合を入れてる。
「なんで45度なん?」
「……凛の刀の刺さる角度が悪いと思ったから。でもいい位置に刺さってると思う。だから45度回せばそんなに力を入れずに真下まで下ろせる……と思うの。うん」
小春はズバッと言い切った後に曖昧に濁しているが…あれか。人に強く言えないタイプなのかな?
そんなことを思っていると、小春は真剣な名指して俺たちに言った。
「刀が抜けないなら、下に振り下ろして妖魔の足を絶てばいい。刀が抜けないなら、上に振り上げて妖魔の頭を両断すればいい」
角度さえつければ、簡単だよ。
本で読んだ。
そう取ってつけたように言うんだ。
いやいや、そんなの絶対
実戦慣れしてるやつの発想だろ?
「藍斗、また最初みたいに引きつけてくれる?私も頑張るよ。血の量すごいから避けてね」
そのまま小春はダッと前に走り込み妖魔の気を逸らし始めた。
「なんやあいつ。ワクワクするようなこと言いやがって。なんやおもろいやん!藍斗!やんで!」
凛の声で走り込む。
不思議な感覚だ。
凛だからできると思った。
小春の発言は凛が言うようにワクワクした。ただ斬りつけて、ジリ貧の戦いしか、俺たちのイメージの中になかった。
だけど戦略なのか、戦闘のコツなのか…
妖魔に対抗できそうな発想を小春がしてくれた。
楽しい
妖魔の雄叫び
怯むはずなのに今はこの目の前の妖魔を倒したくて仕方がない。
斬るこの感覚を忘れたくない。
凛が刀に近づく。
今だ!
あの時のイメージ
あの兎の面の…あの人の刀の軌道をイメージしろ。妖魔の首はどんな角度で切り落とされていた?
あんなに綺麗に切れる角度は?
あれを思い出せ
凛に注意が向く前に刀を放り投げた。妖魔の頭に向かって。
初めてやるのに軌道は我ながら綺麗だった。だけど妖魔の首を切り落とすパワーとスピードがなく、妖魔の首に傷をつけるだけで終わった。
でも完全に俺をロックオンした妖魔。凛から視線を外すことに成功したけど……
避けれない……
「「藍斗、よくやった」」
凛は刀を小春に言われた通り回転させた。
小春は俺に振り下ろされる妖魔の腕を、走り込んで来て刀で受け止めてくれた。
妖魔の気が完全に俺に向いている。
すげぇ気持ちいい。
「終わりや!」
凛は刀を下に押し込むように力を入れた。
小春の言う通り、妖魔の脚を裂き、妖魔は膝をついた。
立ってられなくなって筋肉が緩んだのか、凛は刀を引き抜き、倒れ込んだ妖魔の頭に、すかさず刀を振り下ろす。
きっと赤黒い血飛沫があがるだろうな。
仮想だから見れないど。
妖魔の頭に刺さる刀
倒したと思ったのに、妖魔の呻き声は止まらない。
凛も苦しそうな顔で力を入れているが、これ以上無理だと思ったのか、刀を再び放して離れようとする。
だけど俺には小春の姿が見えていた。
凛の苦しそうな顔
倒れ込み暴れる妖魔の上にヒョイっと飛び乗る小春。
凛が刀から離れるその前に
小春が妖魔の頭に突き刺さる凛の刀の背を、クイッと足で踏んで押し込んだ。
見ていてもわかるくらいグッと力が入り、凛の刀は妖魔の頭を一刀両断した。
ブーーーンという機械音と共に、目の前の仮想妖魔が姿を消した。
ま、じかよ
「た、倒したんか?」
「藍斗は瀕死だけどね」
涼しい顔をした小春はそう笑った。
ドキッとした。
小春のスーツは赤くなっているが致命傷じゃないんだろうな。赤く斑点になっているだけ。
容赦のない小春の行動にワクワクさせられた。
「お前、やるやん!あんなビビってたのに!二重人格か?それとも戦闘だけスイッチ入るんか?」
凛は小春を、たかいたかいでもするかの様に、脇に手を突っ込んでクルクルと一緒に回っている。
小春はポーカーフェイスなのに少し表情が崩れて、離して!と凛の顔を蹴ろうとしている。
いやいや、怪我するぞ?せっかく倒せたのに。でもすごい。何だこの感覚は…
「あんた達倒しちゃうとはね。びっくりしたわ」
鳴海教官は歩いてきてお疲れ様と声をかけてくれた。体がヘトヘトだ。常に気を張って動いていた。もしこれで、痛みも伴うのなら、俺は序盤で戦力外通告されてただろうな。
わいわい盛り上がる中、小春はスーツを脱いでトイレだといい少し席を外した。
俺たちはこの2戦闘の映像を振り返れるらしい。
すごいよな。どんな動きだったか見れるんだぞ?かっこ悪かったら嫌だな。
「藍斗!お前ら最高やわ!」
「わぁ。凛が果敢に挑んでくれたおかげだよ」
「あとは小春!あいつ多分やけど知識なんか、実際自分もできるんか知らんけど、技術やばいわ!」
興奮冷めやらぬ凛に肩をバシバシと叩かれている。
たしかに…
動きは目を奪われるほどしなやか。
なのに刀を振るうと、その辺の一般の人よりも不恰好になる小春。
小春自身も納得のいかないような顔をしているけど、最後、妖魔の手から俺を守ってくれた時、小春は
とても綺麗な構えをしていた。
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