はじまり
『 俺を殺してみろ。復讐に燃えろ。憎いだろ? 一人ずつお前の前で殺してやった。さぁ……生きて…俺を殺せるほど強い人間になれ!! 俺を楽しませてくれ!! 』
そう言って村から邪悪な妖魔の気配は消えた。
村で生き残ったのは一人の幼い少女。
生き残ったのではない。
わざと、一人だけ生かされたのだ。
でもその小さな命も
今、消え行こうとしている。
何でもいい。あの妖魔を葬れる力が欲しい。
大切な人たちを奪っていったあいつを望み通り殺してやる。
そんな少女の心とは裏腹に、血がたくさん流れ少女の身体は限界が近づいていた。
悔しい
悔しい
憎い……
意識を手放しそうなそのとき、何処からか声がした。
生温い空気が少女を包む。
『力が欲しいか?小娘』
欲しい
『生きたいか?』
生きたい
『それなら俺を受け入れろ。俺も生憎、まだ死ぬつもりはなくてな』
受け入れる?
何を?
声のする方。
ギラギラと滾る目をした、血だらけの妖魔が隣に倒れていた。身体は分断され見るに耐えない姿。
『 俺はあいつを殺したいんだよ 』
「 私は…あいつを殺したい 」
人間と妖魔の復讐の相手が重なり、二人の利害が一致した。
「 身体ならくれてやる。だから…お前の力を寄越せ 」
自らの身体を対価に、妖魔と契約をする。
妖魔に左腕を噛ませて
辛うじて動いた首を傾けて
地面に広がる妖魔の血を飲む
死にゆく間際…
二人の依存関係と復讐が始まった。
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空を見上げれば星が光る
視界の端で、流れる星
遥か彼方の山に吸い込まれるのは
風が通る音
虫が鳴く音
チリンチリンと鳴る鈴の音
そして
刀を引きずる音
刀を引きずる《《ヒトの形をした者》》は呟いた。
キラキラ光る夜空と
キラキラ光る赤い地面
血なまぐさい臭いが辺りに立ち込める。深く息を吸えばむせ返るほどの臭いは、普通なら耐え難いものだった。
そんな中、ヒトの形をした者はその血の海を躊躇いもなく歩く。
歩くたびに血が跳ね、脚を汚す。
『こんな下等種ばかりでは、先が思いやられるぞ』
「黙ってろ。派手には出来ない。そろそろ人が来る。早く吸え」
そう言うと持っていた刀を血の海に突き刺す。
赤黒い血は刀に吸い込まれるように消えていく。
『まずいったらありゃしねえ』
「お前のより幾分かマシだよ」
この血なまぐさい臭いを消し去るような強い風が吹いた。
そして遠くから異なる足音が二つ。
ヒトの形をした者は、足音と逆の方へ進む。
その様子は、空の星しか知らない
……
…