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大会の発表

「あっ、レイちゃんだ。おはよう!」

「ん? ……あぁ、おはよう」


 家から出てしばらく歩いたとき、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには中学からの知り合いである水瀬さんの姿があった。肩より少し下まで伸びた綺麗な金髪を揺らしながらこちらに向かってくる。


 彼女は少々困った子で、何も無いところで転んだりすることが多い。今もまた、足元が疎かになっていたためこけそうになっている。


「っと……」

「うわっ! ごめんね、ありがとう……」


 僕は彼女の手を取り、支える。彼女は頬を赤く染めながら僕に礼を言う。そしてそのまま、僕に抱きついて来た。彼女の胸が当たっているせいか、とても柔らかい。


「胸、当たってるけど」

「いいの。だって、当たると嬉しいらしいし。…………って、それで嬉しいのは男子だけじゃん」


 自分の発言にツッコミを入れ、慌てて僕から離れる水瀬さん。その顔はまだ赤いままだった。……彼女はこのように、僕にダル絡みをすることが多い。彼女と毎日話すわけでもないし、僕と彼女は友達と言っていいのか微妙な関係性。それなのに、どうしてこうも絡んで来るのだろうか……。


「まあいいや。切り替えよう。レイちゃんのお話聞かせて?」

「僕の?」

「うん。私ね、最近気付いたんだけど、意外とレイちゃんの事知らないなって思って。普段何をしてるのとか、どんなゲームをしてるのとか全然分からないんだよねー」


 水瀬さんはそう言い、腕を組んで考える仕草をする。


 ……聞かれたからには答えるしかない。僕はVRゲームのDWOにはまっていることを、じっくりと彼女に告げる。途中で早口になってしまったような気がしなくもないが、なんとか説明出来たはずだ。


「……へ、へぇ~、そういうのが好きなんだ。レイちゃん、思っていたよりもおしゃべりなんだねぇ」

「別に、そんなことない」


 水瀬さんは苦笑いをしながら僕に言う。……正直に答えたのに、何故そんな顔をされるのかよく分からない。


「私って、レイちゃんのこと何も知らなかった。友達なのに……」

「え、友達?」


 突然の言葉に、思わず聞き返してしまう。……僕達は、友達と言えるほど仲が良かったのだろうか。


「もうっ、どうして疑問形なの。私たちは、立派な友達だよ? ……これが、その証拠」


 水瀬さんはカバンからキーホルダーを取り出し、僕に見せつける。…………それは、狐のキーホルダーだった。僕が持っているのと、同じ奴。


「同じ狐のキーホルダーを持っている。これこそ、私たちが友達であるという証!」

「……それ、どこで手に入れてきたの?」


 そのキーホルダは修学旅行のお土産として購入したものだ。つまり、これは京都にあるお店で売っていて、そう簡単に買えない物ということになる。


「レイちゃんがカバンに着けてるのを見て、私も欲しいなって思ったの。だから京都まで行って買ってきちゃった」


 そう言って、照れくさそうに笑う水瀬さん。この子は、本当に変わってる。わざわざ遠いところまで、お店に行って買いに行くなんて普通しない。……でも、それが彼女なのだと思う。


「そういえばね、この前弓掛ちゃんがこれと似た狸のキーホルダーをつけてるのを見たんだ。偶然って、凄いよね」

「……偶然じゃ、ない。修学旅行の時、僕と楓が対となるキーホルダーを買った。僕が狐で、楓が狸」

「えっ!? レイちゃんと弓掛ちゃんって、親友だったの!?」

「そう」


 僕が即答すると、水瀬さんは口を開けて固まっていた。その様子はまるで信じられないものでも見たかのように驚いているように見える。……やっぱり、知らなかったみたいだ。それからしばらく沈黙が続き、水瀬さんがやっと喋り始める。


「でも、二人とも学校で全然しゃべってないじゃん。それに、お互いに仲が悪いって噂もあったよ? あれ、本当なの?」


 彼女は心配そうな表情を浮かべて聞いてくる。……僕は、彼女の質問に対して首を横に振る。そして、楓と仲が良かった小学生の時の事を伝える。……それを話しているうちに、自然と笑顔になっている自分がいた。



 やがて、僕たちは校門にたどり着く。そこでは、生徒達が元気良く挨拶をしていた。僕も、それにつられて軽く頭を下げる。校庭では部活動の新入部員勧誘のチラシを持った先輩たちが必死に呼び込みをしている姿が見える。……朝から元気だなぁ。


「ねえ、弓道場に行ってみない? 弓掛ちゃんに会えるかもしれないし。色々と聞いてみようよ」


 水瀬さんは目を輝かせながら僕を見つめる。……どうしようか迷ったけど、結局僕は彼女の提案を受け入れた。断るのもめんどくさいし、それに…………



 弓道場に入ってみたところ、多くの新入生らしき人たちがいた。みんな緊張した面持ちで、弓を構えている先輩たちを見つめている。弓道部員たちは、新入生を獲得するために必死に頑張っているようだ。……その中に、一際目立っている人が一人。綺麗な黒髪と整った顔立ちが特徴の少女―――彼女は凛とした雰囲気を纏いながら、弓を構えている。


「あの目立ってる子、弓掛ちゃんだよね。凄いこと、しようとしているよ」


 隣にいる水瀬さんが小声で話しかけてきたので、僕は無言のまま小さくうなずく。弓を構える楓の正面にはお馴染みの的はなく、代わりにみかんが置かれている。……まさか、あれを打ち抜くつもり? 30メートルくらい距離があるんだけれど。


 楓は一度深呼吸をして、ゆっくりと弦を引き絞る。その姿は、まるで絵画のように美しかった。……そして、放たれた矢は大きな弧を描きながらみかんに向かって飛んでいく。……それは見事に命中した。みかんは破裂し、用意されていたコップに果汁が集まりみかんジュースが出来上がる。


 周囲はざわつき始め、新入生たちも驚きの声を上げていた。……僕は、ただ黙ってその光景に見惚れることしか出来なかった。楓の周りには、いつしか人が集まっており皆感嘆のため息をつく。……ああいうことが出来るのが、才能というものなんだろう。


「……水瀬さん、そろそろ行こう」


 僕は水瀬さんの手を引っ張り、その場を離れる。……これ以上ここにいても、多くの人に囲まれている楓とは話せないだろう。そう思い、水瀬さんの手を引いて歩く。


「いいの? せっかく会いに来たのに、行っちゃって」

「うん。楓の姿も見れたし、もう大丈夫」


 僕の言葉を聞いた水瀬さんは不思議そうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。……僕達はそのまま弓道場を出て、下駄箱へと向かう。


 外に出ると、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。そろそろ朝礼の時間なので、みんな教室へと向かったのだろう。風もなく、暖かな陽射しが降り注いでいる。とても心地よい空間の中歩いていると、水瀬さんが後ろから声をかけてきた。


「……ねぇ、どうしてレイちゃんは弓掛ちゃんとあまり話さないの? 小学生の頃は親友だったんでしょ?」


 やっぱり、聞かれてしまった。正直、話したくないんだけれど。水瀬さんは振り向き、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。……仕方がない。覚悟を決め、僕は彼女に話すことに決めた。



 帰宅部の僕とは違い、弓道部である楓は朝練や放課後の練習がある。小学生の頃はいつも一緒に登校して、一緒に下校していたけれど、それはもう出来なくなった。……楓と同じ中学に通う事になって、これからも一緒に居られると思ってた。……でも、そうはならなかったのだ。僕達はいつの間にか関わりを持たなくなっていった。


 今まで近くにいると思っていた楓が、どこか遠い人のように思えた。……それから、話す機会が少なくなっていった。それは一時的なものですぐに元通りになると思っていたが、そうならなかった。むしろ、悪化してくことになる。


 DWOに楓を誘った。ゲームの中でなら、また仲良くできると思ったから。DWOには弓を扱う職業があるので、楓でも楽しめるはず。そう思っていたのだが……結果は散々なものになってしまった。


 ただ断られるだけならよかった。でも、楓は僕の誘いを断ると同時に、不機嫌そうな表情を見せてきた。……まるで、『私とあなたはもう関係ない人間です。ですので、もうこれ以上関わらないで下さい』と言われているような気がした。


 その日から、楓は僕と一緒に居たくないのかもしれないと考え始めた。だから、僕はなるべく彼女と関わらないようにする事を意識するようになった。



 僕が話を終えると、水瀬さんは複雑そうな表情を浮かべていた。何かを言いたいけど、それが言えない。そんな感じに見える。何も言わぬまましばらく歩き続けると、昇降口が見えてきた。










 学校が終わり、僕は帰宅した。そして、DWOにログインする。ゲームの新情報はエントランスのテレビから確認することが出来るため、そこで待機することにした。……そうだ、どうせなら僕が新情報を見る配信をしよう。そっちの方がお金が稼げるし、楽しみをみんなと分かち合うことが出来る。僕は、早速生放送を始めることにした。




コメント

・初見です!

・どんな情報が出るんだろうな

・わくわく

・とりあえず、チャンネル登録しました



 突然の生放送であるのにも関わらず、視聴者数はどんどん増えていき、現在500人を超えている。僕が配信開始ボタンを押してから1分も経っていないというのに、凄い数だ。


「おはよ。今日は、DWOの情報の日。新しい情報が公開されるので見ていく」


 僕が挨拶すると、視聴者たちが一斉におはよーとコメントしてくれる。……なんだか、嬉しいな。


「そろそろ始まるみたい。……あ、誰か来た」


 画面に映っているのは、真っ白なローブを着た男。彼は、手に持っているマイクに向かって喋り始める。



コメント

・おっ、誰だ?

・声が低い

・この声、聞いたことあるぞ

・あっ、まさか


「……こんにちは、皆さん。私は、【DWO】のGM、ルクスと言います。今回は、新しく実装される機能について説明したいと思います」

「DWOの、偉い人だ」


 僕は小さく呟いた後、画面をじっと見つめる。……まさか、いきなり出てくるとは思わなかった。彼は早速情報を話す。


「……まず、一つ目。これは、以前から要望があったものですね。新たな街が追加される予定となっています」

「街かぁ。対戦に関係なさそう」


 ルクスの言葉を、軽く流す。……本編での町の追加なんて、PVPが主体の僕にはあまり関係ないに違いない。



コメント

・【悲報】レイちゃん、落胆してしまう

・↑剣姫様は戦闘狂だからな。戦いに関係ない事には興味なさそう

・レイちゃんががっかりしてるwwww

・普通のDWOプレイヤーなら、泣いて喜ぶ情報なのに



「町の追加に従って、様々なファッションが増えます。NPCの店も追加されますので、是非利用してみてください。今回は特別に、新衣装である『クラシック・ドレス』をお見せしたいと……」

「……僕には、関係なさそう」


 思わず、声に出してしまった。ファッションとかどうでもいい。


コメント

・レイちゃんが不貞腐れてる!?

・可愛い

・まあまあ、落ち着いてください剣姫様

・でも、確かに服に興味なさそうだもんね。

・『クラシック・ドレス』レイちゃんに着てほしいな




「僕が欲しい情報は、PVPの新機能と大会の情報。それ以外は、あまり興味がない」


 僕はそう言いながら、画面を見つめ続ける。……望んでる情報、あるといいけれど。



コメント


・やっぱり、それか

・それでこそ、レイちゃん

・剣姫様、ブレない

・大会に出場なされるレイ様
















「では、最後に大会の情報になります」

「……きた」


 僕は、期待を込めた視線を画面に向ける。ルクスは咳払いした後、語り始めた。


「バーチャル世界へのフルダイブ技術が確立された今、様々な企業がその技術に期待を寄せています。わが社もその内の一つです。そこで、我々DWO企画部は教育現場と協力する事となりました」

「えっ?」


 僕は予想外の言葉を聞き、呆然とする。……教育現場に、DWO?


「この度、我が社はVR技術を利用した育成プログラムを開発し、それを導入する事にしました。その一環として、中学生限定のDWO大会を行う事が決定しました。学校を代表するゲーム部同士が、熱い戦いを繰り広げることになります。詳細につきましては、ホームページを確認ください」

「……」


 僕は無言のまま、画面を眺め続ける。……育成プログラム? 何だろう、それは。そんなものは知らない。



コメント

・えぇ……

・マジか

・やべー気配がする


「以上、発表を終了させていただきます。皆様、ありがとうございました」

「もう終わり? もう少し詳しく聞きたかったけど、……え? 中学生限定? 学校を代表するゲーム部?」


 とんでもないことを聞いてしまった。僕の通っている中学校って、確かそこまでゲーム部のレベルが高くなかったはず。そんな学校で、大会優勝できるの? ……思ってたよりも、ハードモードになりそう。



コメント

・【悲報】レイちゃん、大会優勝が絶望的

・そもそも大会に出場できるかどうか

・レイちゃんって、中学生?

・たしか、今中学2年生だったような

・じゃあ出れるな

・でも、いくら剣姫様が強くても部が弱ければ優勝は難しいんじゃ?

・↑そもそも、レイちゃんの学校にゲーム部があってそこがDWOに取り組んでなければ出場すらできない

・絶望的だな



 僕は急いで配信を切ると、そのままベッドに倒れ込む。……どうしよう。条件が厳しくて、大会で勝てる気がしない。

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