過去の思い出
「修学旅行の思い出として、これを買いましょう?」
「狐と狸のキーホルダー……」
店内の棚に飾られているお土産を指差して、一人の少女が僕に声をかけてきた。長い髪形を後ろで結んでいて、少しだけ大人びた顔をしている。……僕の、大切な人。
「対になっていて、私たちにぴったりですから」
「……うん、そうだね」
彼女の言葉に僕は同意する。なんだか懐かしい感じがした。幼い時特有の、あの感じ。
「私は弓の道、あなたはゲームの道。それぞれ進む場所が違っても、私達はいつも一緒。このキーホルダーはその証」
彼女はそう言って微笑んだ。そして、僕に狐のキーホルダーを手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、楓」
僕はそれを受け取る。……なんだか、嬉しい気持ちになった。無くしてしまったものを、見つけることが出来たような感じ。
「……あれ?」
突然周りの景色が変わり、先ほどの少女も一瞬にして消えた。辺り一面白黒の世界になる。先程貰ったキーホルダーを見てみると、それは黒く染まってしまっていた。……寂しい。心の底からそんな感情が溢れてくる。
「……はっ」
目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。時計を見ると、もうすぐ朝の5時になろうとしているところだった。……懐かしい夢を見た気がする。
不安になってカバンにつけてる狐のキーホルダーを確認してみるが、ちゃんとそれはついていた。良かった……。とりあえず、夢の事は忘れて別の事を考えよう。
今日は夜の6時にDWOの新情報が発表される日だ。凄く気になる。……僕の予想では、PVP大会の情報が出ると睨んでいる。何故なら、昨日のニュースに『新イベントの発表』という記事があったからだ。それに、運営が言っていた『力を試す機会』という言葉。恐らく、この二つは繋がっているだろう。
DWOの大会が出るのを、僕はずっと待っていた。大会で優勝して、自分の強さを証明したい。それが今の僕の一番の目的になっている。……さて、そろそろ朝の運動を始めようかな。強くなるためにも欠かすことが出来ない。
まずはランニング。いつものコースを走って身体を温めていく。……やっぱり、走るのって気持ちいいなぁ。それに、体が出来ていくのを感じることが出来て達成感がある。
次に筋トレを始める。腹筋・背筋・腕立て伏せをそれぞれ200回ずつ、これを10セット。毎朝やっている事なので慣れている。昔はよく、筋肉痛になってたけれど。
……でも、ちょっと汗かいてきた。今はもう4月の後半、春の陽気がやって来て暖かくなってきている。まだ朝早い時間だからそこまで暑くはないけど、それでも運動後にじんわりと汗が出てくるくらいには暑い。汗の生暖かい感覚。今僕が着ている白い無地のTシャツは、汗によって肌に密着してきている。所々に滲み出ている汗によって、透けてしまっている部分もある。……早くお風呂に入ろう。
疲れて汗を流した後の湯船は気持ちいい。特に、朝にゆっくりと湯船に浸かるという行為自体が良いと思う。……ふぅ、落ち着く。運動の後には、休憩が欠かせない。ここで、しっかりと体を休めないと。
体を休めたあと、僕は朝食を食べてから着替えて学校へ向かう。




