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企画参加作品(ホラー抜き)

約束

作者: keikato
掲載日:2024/01/14

 見知らぬ風景、その人ごみのなか。

「あっ!」

 夫によく似た姿を見つけて、ケイコは顔を隠すように下を向いた。

 だが、いち早く気づかれてしまった。

「ケイコ、待ってたんだ」

 夫が小走りでやってくる。

 夫とは十年ほど前に別れ、以来ケイコは独りで暮らしてきた。

「やっと会えたな、ずっとここで待ってたんだ」

 夫が満面笑みになる。

――待っていてくれなくても……。

 ケイコはありのままの気持ちを伝えることにした。

「わたし、今までどおり一人で暮らしたいの」

「それはないだろ。オレたち、ずっと離れ離れだったけど夫婦なんだぞ」

「でも……」

「約束したじゃないか。こうして再会できたら、いっしょに暮らすって」

「ごめんなさい、約束を守れなくて……」

「おまえ、まさかほかに男が!」

「ううん、そんなんじゃないのよ」

「なら何でだ?」

「わたし、気が変わったのよ。ただそれだけなの」

「そんな!」

「よく考えてみて。七十を超えてるのよ、あなたも私も」

「えっ、もうそんな歳に……」

 こちらでは歳を取るという自覚がなかったのか、夫はガックリと肩を落とした。

 ここで情にほだされ、これからの人生を縛られるわけにはいかない。

 自由に生きるのだ。

「謝るわ。だからもう、私を探さないでね」

 ケイコはきっぱりと言って、それから呆然と立ち尽くす夫を残して、渡し船に乗った。

 約束が何だというのだ。

 ウンザリである。

 長い間いっしょに暮らしていた夫と、再び生活をともにするのは。

 あの世に来てまで……。


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― 新着の感想 ―
待っていた、という事は先立っていたのか。 それで70の自覚がないって事は早死にしてるのかなあ? それなのにウンザリされちゃったって、旦那さん、生前に何をしてきたんだろう?
[一言] 拝読いたしました。 アハハ〜思わず笑いがもれました。 なんてまあ、執着心のあるご主人。 よほど、いい奥さんだったのでしょうね。 だけど、奥さんにしたら、もういいかげんにして!でしょう。 どち…
[良い点] 今年も流石のキレ、ですね! 長年連れ添った夫婦を海の向うではソウルメイトなんて言ってますけど、魂になってまで寄り添う絆の深さってあるのでしょうか? keikatoさんの描くシビアな関係の…
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