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些末な事件

これは『西夏国奇譚・韓信編』の外伝です。

短編集として主に漢の軍師・張良に視点を充てています。興味のある方は是非ご覧下さい。

張良(ちょうりょう)(あざな)子房(しぼう)(おくりな)文成(ぶんせい)と言って(かん)の国の人である。


父親や祖父は歴代、韓の国の相国(そうこく)を務めた程の名家であり、その血は張良にも色濃く受け継がれていた。


彼は韓の国が秦の始皇帝に派遣された内史・(とう)率いる秦軍10万の攻撃を受け滅亡した時にはまだ若かった。


けれども彼には若いなりにも勇気と行動力があったので、始皇帝が巡幸の途中で博浪沙(はくろうさ)を通った所を狙って暗殺を試みた。


旅の途上で知り合った倉海君(そうかいくん)という人と意気投合した際に、自分の意思に共鳴したその人物から屈強な力士を借り受けていたので、その男に頼んで重さ120斤(約30kg)という鉄槌(てっつい)を投げつけ、始皇帝が乗った車を潰すつもりだったのだ。


ところが運の悪い事には、鉄槌は始皇帝の乗った車には当たらず、後方の副車に当たってしまって暗殺は失敗に終わり、大騒ぎとなってしまった。


張良たちは慌てて逃亡する外、無かった。


暗殺に失敗した際に顔を見たという人が現れ、その人が言うには李信将軍のお知り合いに顔が似ているという。


それを聞いた始皇帝・嬴政(えいせい)は直ぐにその者を呼びつけた。


それだけ怒り心頭だったのだと言える。


命を狙われたのだから、当たり前だけどね。


その人の名前は、司馬信と言った。


そして偶然にも張良と背格好も似ていて、同い年だった。


此れだけ条件が揃えば、普通なら捕らえられた時点で即時処刑であろう。


ところがそうは成らなかった。


此れが不思議なところなのだが、まずは李信将軍が名付け親として同行して来て、片時も離れない。


そして嬴政の方でも、李信絡みだと判ると、勢いが急速に収まって、追及する気が無くなったかの様に鎮まり、この件を蒸し返した者は罰す…という事になってしまった。


司馬信という人は司馬匠の子供で跡取りである。


李信将軍と司馬匠は義兄弟の契りを結び、互いの子に自分たちの名前をつけ合う仲であった。


李信も自分の子に李匠と名付けている。


そして、これは嬴政と李信しか知らぬ事だが、司馬信は若くして既に西夏国の王であり、北狼大令尹であった。


なぜこんな人物がこの辺りをウロチョロしているかについては、『西夏国奇譚・韓信編』に詳しく書いてあるので、興味のある方は是非ともお読みいただきたい。


嬴政は秦の天下制覇に影の功労者として貢献のある司馬匠や司馬信に対して、恩義を感じていた。


そして名付けの際にその場に同席すらしていたのだから、例え今回の件を追及したくても出来ない事は直ぐに理解したのであった。


恐らくは事件の犯人が司馬信に似ているというのは本当なのだろう。


しかしながら、当人で無い事は既に理解しているし、これを追及し続けると、司馬信が自由に行動出来なくなるので、追及を諦めるほか無かったという訳だった。


但し、再び自分の命を狙うようならば、再び追及するという意思も強くした。


李信は司馬信の嫌疑が晴れると喜んで引き揚げて行った。


まさか張良本人は知る由も無かったが、こうして始皇帝暗殺犯の追及の手は収まったのであった。


司馬信という人が女性の様に美しい顔をしていたのと同様に、張良という人も女人のごとき可憐な顔をしていたらしい。


二人が並んでみたら、さぞかし双子の用に見えたかも知れないが、運命とは不思議なもので、この後に二人は偶然にも出逢う事になるのであるが、またそれは別の話…である。

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