ちびどらごんはかあいい
「クロエー!そっちに行ったー!捕獲頼む!」
「はぁ……なんでこうなったのやら…」
クロエは現在勇者パーティにて初めての依頼をこなしていた。
なんでも家から逃走して逃げ出したペットを捕獲して欲しいらしい。
まあ別にそこまではいい。よくあることだ。
しかし
「逃げ出したペットがドラゴンて……」
そう。逃げ出したペットとはなんとドラゴンのことだったのだ。
ドラゴンとは言ってもまだ未成熟でクロエの身長の半分ほどしかないが、それでも一般人はドラゴンをペットにしたりなんかはしない。
優斗は召喚されてまだ2年しかこの世界で過ごしてないからか、ドラゴンを飼うということの異常性を分かっていないらしい。
それもそうだろう。優斗はドラゴン討伐も何度か達成している。それも単独で。いや頭おかしい。勇者って皆そうなの?
「きゅー!」
「よ〜ちよ〜ち怖くないでちゅよ〜」
ドラゴンが怯えていたので、安心させるために腰を低くして猫撫で声でドラゴンを落ち着かせようとする。
ーーーかわいい。
普通に可愛い。いやこれが何十メートルもある巨体に成長すると考えるとちょっとアレだけど、可愛い。
「クロエってあんな声出せるのね……」
「クロエちゃんも可愛いところがあるんだね〜」
「なんだあの情けない姿は……それでも私のライバルか…?」
各々に好き放題に言われるクロエだったが、ドラゴンを宥めるのに夢中で気付いていない。
しばらくするとクロエ達のいるところに遅れて優斗とカカエがやってきた。
「悪い。ちょっとおくれた」
「ボクとしてはもう少しユウトと一緒でもよかったんだけどね?」
冗談っぽくカカエが言うが、本音である。
ちなみに優斗と二人きりの時に優斗に「疲労回復のポーションだよ」と言って媚薬入りのポーションを飲ませようとしていたが、たまたま合流したエレナに「そのポーション、ちょっと借ります!」と言われて強奪されてしまったのだ。
エレナが何故ポーションを取ったかと言うと、傷ついている動物を見つけ、なんとかして助けてあげたかったかららしい。ちなみにポーションを飲んだ動物はすぐに元気になった。体力とともに性欲も湧いて来たようだったが、エレナにはそんなことはわかるまい。
また、エレナ以外は全員合流できたが、エレナはペットのドラゴンが見つかったことに気づいていないため、未だに他の場所を探している。
「クロエもそんな顔できるんだな…よかった」
優斗がクロエのことを気にかけている様子を見て女性陣のクロエのことを見る目が暖かいものから冷たいものへと変化していくが、当の本人はドラゴンに夢中で視線には気づかない。それどころか「もふもふもいいけどこの冷たい鱗の感触もサイコー!」と呑気にブツブツ呟いている。
「まぁとりあえず目的のドラゴンは保護できたわけだし、ボク達も王都に帰ろうか」
「そうですわね」
「承知した……私のライバルの様子もおかしいようだし……早めに帰らねば……」
「了解でーす。ドラゴンはクロエちゃんに任せる感じでいいかな?」
「そうだな」
「もう帰るの?わかった。ドラゴンは私に任せて」
各々が撤退する準備を進めていく。
クロエもドラゴンと戯れるのはやめて支度に取り掛かり始めた。
「あれ?でも誰か忘れてるようn「そういえば依頼主って誰なの?ドラゴン飼うってよっぽどよ」
アンジェが何か言おうとしていたが、セリカの台詞によって遮られる。
結局アンジェは何を言おうとしたのか忘れてしまったが、忘れてしまうくらいのことだ。大したことではないのだろう。
「あぁ…依頼主なんだが……ユリウスのことなんだ」
「あー。納得したわ。相変わらず優斗と同じでぶっ飛んでるわね…」
「ドラゴンをペットに……かっこいい……ふふっ……私もいつか……」
ユリウスとは優斗と同じ勇者で、金髪碧眼の青年だ。
そう、勇者は複数いる。
最初は優斗達が現在いる極東の国、ムレーハ王国で勇者召喚が行われ、優斗が召喚されたわけだが、他の国でもムレーハ王国に倣って勇者召喚が行われたのだ。
それぞれ北の国イームサ、西の国トスェウ、南の国イーツアで行われた。
東西南北で行われているので、これ以降勇者はそれぞれ東の勇者、西の勇者、北の勇者、南の勇者といった風に呼ばれるようになった。
ちなみにユリウスは南の勇者だ。
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優斗一行は依頼人である南の勇者ユリウスの元へ赴いていた。ユリウスは依頼の関係でちょうど王都に来ており、偶々出会ったのだ。
「ありがとう優斗君。チータを見つけてくれて」
「俺は何もしてないさ。クロエが保護してくれたんだ」
「クロエ?新しいパーティメンバーだっけ。挨拶がまだだったね。僕はユリウス・アルジャーノン。南の国イーツアで勇者をやらせてもらっている。これからよろしくね」
「あ、どうも。クロエです」
クロエから見たユリウスの第一印象は優しい好青年という感じだ。物腰柔らかだし、威張る様子もない。実はクロエは他の勇者には既に会っている。西の勇者はクロエにしつこく付き纏ってきたしつこい男だったし、北の勇者とはたまに臨時でパーティを組んでりしたことがあったのでそれなりに面識がある。ただ、結構曲者だったので、南の勇者もてっきり曲者なのかと思っていたが。
(めっちゃまともそうな人だな……)
「そうだ。せっかくだし僕のパーティ仲間も紹介するよ。皆! ちょっと来てくれ!」
ユリウスがそう言うと奥から女性が二人、男性が一人出てきた。
「おっ、優斗じゃねーか。元気してたか〜!」
「あ、ガリウスさん、お久しぶりです。あ、紹介します。昨日俺達のパーティに入ったクロエです」
「ほぉ! このちっこいのか。俺はガリウス。よろしくな!」
「あ、私も! 私も! 私はキーナ! よろしくねクロエちゃん!」
「私はケーナ。よろしくね」
ガリウスは筋肉が逞しい屈強な男。
キーナとケーナはオレンジ色の髪をした活発な少女と冷静そうな少女だ。
双子なのだろうか? 顔がとても似ている。
「はじめまして。クロエです。一応、元暗殺者です。よろしく」
「暗殺者!? へーなんか強そう!」
「強いとかそういうのじゃないと思う」
「せっかく南の勇者一行と東の勇者一行が揃ったんだ。何か催しでもせぬか?」
ガリウスがそう提案してくる。
結局この日はユリウス率いる南の勇者一行と優斗率いる東の勇者一行で食事をすることになり、各々で食事を楽しむことになった。
ちょうど10人席が空いていたので、全員で同じ席で夕食を食べることができた。
ガリウスが優斗とユリウスに酒を飲ませまくったり(異世界では15歳から飲酒が可能)
、その光景を見たマコが感化されて酒を飲もうとしたところをアンジェとセリカに止められたり、カカエ姉さんが謎の薬を優斗の飲んでいる酒に入れようとしているのをキーナとケーナが止めたりと、中々カオスな状態だったが、異世界にきて初めて複数人で騒いだので、それなりに楽しかった。その後は優斗とユリウスが酔い潰れてしまった為、各自パーティごとに解散ということになった。ちなみに誰が優斗を背負うのかで言い争いが生じたが、結局カカエ姉さんが背負うことになった。
「あー楽しかったー! クロエちゃんはどうだった?」
「うん。私も楽しかった」
「そっか。やっぱり無理矢理私がパーティに入れてよかったのかもね」
「そう…かな…?」
「うん。だってクロエちゃん、ソロで活動してた時よりもキラキラしてたよ」
「そう…なんだ」
自分では気付かなかったが、どうやらパーティに入る前はあまり元気そうではなかったらしい。自分ではそうは思っていなかったのだが、案外人肌を求めていたのかもしれない。
「そっか。そうなんだ」
胸の中に暖かいものを感じる。
前世にはあったが今世ではまだ感じたことがなかった人との触れ合いの暖かさだ。
「ありがとうアンジェ。私を誘ってくれて」
「どういたしまして。あっ、でも優斗さんには惚れないでね? いや、その…パーティ内恋愛は良くないと思うから!」
「安心して、優斗に特別な感情なんてないよ。それに友達の好きな人を寝取る趣味はない」
「友達……! ってその前に私は別に優斗さんのことが好きだなんて一度も…!」
「顔見れば分かる。ていうかこのパーティほとんど全員優斗に惚れてると思うけど……違う?」
「うっ、クロエちゃんにバレていたなんて……恥ずかしい……」
しばらくアンジェと会話を交わす。話している途中でマコが「私のライバルが他の女と話してる……はっ!これがNTRというやつか!?」と訳の分からないことを呟き出したり、セリカが「重いでしょ?交代するよ?」とカカエ姉さんから優斗を引き離そうとしていたりしていた。
「本当に今日は楽しかったな。勇者パーティなんて入りたくないって思ってたけど、案外悪くないかも」
本気でそう思う。
勇者パーティに所属する6人はとてもいい人達だ。
……………ん?6人?
えーと今隣で話してるアンジェと、後を歩いてる優斗とカカエ姉さんにセリカ。それにさっきからブツブツ呟いてるマコ。あれ?残り一人は………俺か。うん。6人だな。あれ?でもなんかモヤモヤするんだよな………誰か忘れてるような…………
「まぁいっか」
「クロエちゃん? どうしたの?」
「んーん。なんでもない」
これからも平和に過ごせますように。
そう願うクロエだった。
「はわわっ……ここ……どこですか……?」
依頼にはなかったが、この後無事エレナは保護された。
聖女なのにエレナさんの扱い雑……