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突撃!魔王城!

ZAたのち〜!


俺達勇者パーティ一行は、人類と魔族の和平のために、魔王城の城門へと足を運んでいた。

優斗率いる東の国の勇者パーティに加え、西の国の勇者であるアルト、北の国の勇者であるノエルを加えた計9人の一行だ。


魔王城に乗り込むにしては人数が少なすぎないかと思うかもしれないが、こちらはあくまで和平を目的としているため、戦力を過剰に持っていくわけにはいかなかった。

それに、竜の四天王にも和平については交渉の段階で盛り込んであったため知られているはずだ。騙し討ちされる可能性が0なわけではないが、魔王の娘であるマコがこちらにはいる。基本的に交渉の余地はあると考えていいはずだ。


ちなみに、西の国で撃破したオニンニク含む魔族達は、南の国にいる勇者、ユリウスに見てもらうことになった。一応枷などをして抵抗できないようにしているし、ユリウスも勇者だ。仮に襲われても十分対処可能だろう。

聞くところによると、ユリウスのパーティメンバーであるガリウスや、キーナケーナの姉妹の実力は、俺達の勇者パーティの面々にも匹敵するほどのものらしいし。


「あー? 何だお前ら? ………ってあれか。噂の勇者様ご一行ってやつかい。和平の交渉、だったかな。ったく、何考えてんだか」


魔王城の門前には、門番らしき魔族の女がいた。白い髪に丸みを帯びたツノを生やしており、どことなく羊を連想させるような頭部をしている魔族だった。

彼女が何か詠唱を行った後、呼応するように魔王城の門が開いていく。


「ほらよ。でも、気をつけろよ。私は門番しかしてないから、人と魔族が争おうが仲良くしようがどうでもいいって思ってる。けど、魔王城にいる連中にゃあ、人のことをよく思わない連中もいる。ま、マコ様がいるから大丈夫だとは思うが」


「忠告ありがとう。俺達がよく思われないのも仕方ないよ。でも、人と魔族の争いは、今ここで終わらせる」


門番の女は気怠そうにしつつも、勇者一行の身を案じる。それに対して、優斗は礼を返し、続いて勇者一行も彼女に各々会釈などを交わしながら、魔王城の中へと入っていく。


「ここに、ベルもいるのね……」


「セリカ、あくまで今回の目的は魔王との交渉だから……」


「分かってるわよ。まずは人間と魔族との間の壁をなくす。じゃないと、いつまでもあの子とまともな対話はできないだろうし」


「皆、私についてきて欲しい。魔王城の構造なら、私が把握してる」


しばらく歩く。案内はマコがしてくれるみたいだし、俺達はただそれに付き従えばいいだけだ。


「マコ、案内をお願いするよ」


「合点承知! 我がしっかり導いてみせよう。キングドラゴンの上に乗ったつもりでついてくるがいい!」


歩く。

ひたすらに、歩く。


左に曲がって、右に曲がって、また右に曲がって、さらに右に曲がって。


「はわわっ! 魔王城って、随分複雑な構造をしているんですねっ!」


「攻められにくいようにしてるのかなー? 魔王は受けに重きを置いてる。勇×魔か……ありだな」


「ボクは本で読んで理解があるからこそ言うけど、そういうのは頭の中だけにとどめておいた方がいいんじゃないかな」


「ノエル、そんなに受け攻めの話をしたいなら今から攻めてあげようか? ちょうど俺の手にお手頃なナイフが握られていることだし」


「ちょっ! 冗談だって、タンマタンマ!」


ノエルがふざけたことを言い出していたので、とりあえず軽く殺気を出しながら脅しをかけておいた。普段ならいいけど、ここは皆もいるし、もう少し自分の癖は抑えて欲しいものである。


「クロエちゃん、元暗殺者なだけあって殺気がすごいね……」


「一応、この道で7、8年くらいはやってたからね。まあ、さっきのは軽くだったけど」


「私のところに暗殺に来た時は、全然殺気なんて出してなかったよね?」


「正直、アンジェの姿を一目見たら、殺そうなんて思えなかったから。殺そうと思えない相手に、殺気は出せないよ」


「ちょっと待って! その理論だとクロエは私のことを殺してもいいって思ってるってこと!?」


確かに。


「うーん。そうなのかも?」


「そんなバカな! 私のクロエたんは私のことなんてどうでも良かったんだ! 親友だと思ってたのは私だけだったんだ! それもこれも全部私から親友の座を奪ったお前のせいだぞセリカ=アドレイド!!」


「はぁ? 何で私?」


ノエル氏、相変わらず暴走していらっしゃる。

というか、まだセリカに対して謎の対抗心を燃やしていたのか。

心配せずとも、俺の親友はノエルなのにな。


「クロエたん……!! トゥンク♡」


あーそうだった。ノエルは俺の心の中を覗けるんだった。めんどくさ………。いや、ちょっとやりづらいな。

というか口でトゥンクって言うな!l


「なあマコちゃん、本当に道これであってるのか? さっきから一向に着く気配がないんだけど」


と、くだらないやり取りを交わしていたところ、無言で歩いていたアルトがマコに対して疑問を問いかける。対して、マコは。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ、合っているはず……! き、き、き、き、記憶では、……そう、こんな感じの道がたくさんあって……それで、えと、……そう、次は右だ!」


「いや、道分かってないんかい!!」


思わず突っ込んでしまったのは許して欲しい。


「ち、違うぞ我が相棒! 我は道を記憶している! 大体こんな感じの道を進んだら父上のいる場所まで辿り着けるはず! 同じような道を通ったことがあるから!」


「いや全部同じような道しかないじゃん。どこ通っても薄暗い廊下続いてるだけだよこれ」


「いや! 多分微妙に違うところがあるはずだ! あるはずなのだ! 我がミルク片手に歩いていたら、不覚なことにこぼしてしまってシミを作ってしまった場所がどこかに!!」


「はわわっ! 歩き飲みはやめましょうね〜」


魔王城でミルクこぼす魔王の娘さん……。


「というか、そのシミをあてにしようにも、こんだけ複雑な場所でそれを見つけるのは正直……」


「そうだな。流石に厳しいと思う。ここは、一旦入口に戻って、門番の子に道案内してもらうのはどうだろう? 流石にここで立ち往生して和平を結べませんでした、なんて間抜けすぎるし」


「はわわっ! 確かにそっちの方がいい気がします〜」


「ま、そうね、賛成だわ」


「ボクも同意」


優斗の言葉にエレナさん、セリカ、カカエねえさんが同意し、とりあえず一旦入口に戻ることになった。

まさかマコが道を覚えていなかったとは。

いや、まあしばらく人間の世界で過ごしていたわけだから、仕方ないのかもしれないけど、分からないのならはやめに言ってくれた方が助かったかもしれない。


「マコ、分からないことは分からないでもいいんだよ。別に、それで責めたりはしないから」


「うっ……恥ずかしい………」


「ま、私は最初からマコちゃんが道に迷ってること知ってたけどね〜」


あ、そっか。ノエルは心の中が読め……って。


「ならはよ言え!!!」





◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●






「……と、いうわけなんだ」


「何してんすか………」


門番の彼女は呆れた表情でため息をつきながら。


「仕方ない。案内しますよ。門番っつっても基本やることないんで」


ポンコツなマコに代わって道案内をしてくれることになった。


「と、いうわけで進みます。んじゃ、まずはここ、右に曲がります」


「初っ端から間違ってるじゃん!!」


「でも50%だから、50%であってたから!」


「次左です」


「ふむふむ」


「少し進めば、はい、ここで扉があります。私が案内するのはここまでですかね。んにゃあ。暇つぶしにすらならんね」


「すぐじゃん!!!!」


「50%で合ってたもん!!」


まさか、二択外しただけであんなに迷うことになるとは思わなんだ。

魔王城が複雑なことには変わりはないと思うが、それはそれとしてマコの道案内はあまり信用しない方がいいのかもしれない。


「それじゃあ私はこれで。あ、ちなみにここのお部屋は中継地点みたいなもんだから、まだ少し歩く必要はあるけど。ま、ここからはその部屋の者に案内してもらったらって感じで」


そう言って門番の娘は持ち場へと戻っていった。


「それじゃ、扉を開けるか」


優斗が言い、扉に手をかける。

その先には……。


「待ってましたよ、姉さん」


「ベル……」


待っていたのは、セリカの弟で、現在は魔族で『十拝臣』のネクロマンサー、ベルだった。

彼の隣には、少し年老いた老人のような見た目をしている竜人種がいた。


「ベル様、この者達を……」


「案内してあげると良いよ。といっても、一度にこの大所帯で来られると困るからね。姉さんはこの部屋に残ってもらえませんか?」


「……どういうつもり?」


「家族と少しでも共に過ごしたいと思うのは、そんなにおかしいことですか?」


ベルが何を企んでいるのか、分からない。とにかく、セリカ1人ここで残すのは不安だ。


「なら、俺も残る。セリカに何かあったら困るし」


「クロエ………」


「……まあ、いいでしょう。勇者の恋人さんも、この部屋に残りということで」


恋人じゃないんだけど!?

まあいいや。もうセリカの弟には俺が勇者のの恋人であるようにしか見えないのだろう。そういうこともある。人生とは割り切りなのだ。


「わかった。クロエ、セリカを頼む」


「任せて」


優斗の言葉に、俺はサムズアップしながら返す。


「これでメス堕ちしてないってマ? これもう付き合ってるだろ」


ノエルは後でおしおきかな。


ふざけたことを言うノエル含め、俺とセリカを除く勇者一行は、老人の竜人種に連れられて先の部屋に行った。




はずだった。




「許せるわけないよね。私の知らないクロエちゃんを知って。私がいない間にクロエちゃんと仲良くなって。私の知らない間にクロエちゃんを誑かして。私の私の私の私の私の……!!!!」


「アンジェ!!」


眼前には、アンジェを羽交締めにし、首元にナイフを突きつけているセツナの姿が、あった。

セツナは南の勇者ユリウスに枷をつけた状態で託したはずなのだが、いつの間にここに……。


「和平なんて、させないですよ。そうしたら、僕が姉さんを手に入れることができなくなる。せっかく、父にも兄にも邪魔をさせない状況を作り出せたと言うのに。僕が姉さんを手に入れるためには、人と魔族には争っていてもらいたいんですよ。アドレイドを出し抜くためには、魔族を利用するしかないのに!!」


セリカの弟、ベルは、セリカに狂気的な笑みを浮かべながら話しかけている。


……やっぱり、この2人は……。


「アンジェ……! クソっ!」


優斗が悪態をつく。それもそうだ。せっかく念願の和平が叶おうとしてるというのに、最悪のタイミングで邪魔が入った上、仲間が危険に晒されているのだかあら。


でも、和平を邪魔させるわけにはいかない。


「優斗! アンジェのことは任せて! セツナの相手は私がやる!」


「……わかった!」


優斗は快く返事をし、一行と共に先の道へと進む。竜人種の案内者も、このことはベルに聞かされていなかったのか、困惑しながらも優斗達を案内することに専念してくれるようだった。


俺はセツナに対峙する。


説得は、できないだろう。


まずは和平を成立させる。


それからだ。

セツナもベルも、今のままじゃ救えない。


「セリカ、いけそう?」


「余裕! いつでもどんとこいよ!」


だから、あとは勇者達に託す。

俺の元には心強い仲間がいるんだから。



「あ! そういえば!」


「? どうしたんだ、マコ」


「さっきの部屋に、私が昔こぼしたミルクのシミのあとがあったような……」


「………………」


「…………ごめんなさい」


「はわわっ! 大丈夫ですよ〜。皆気にしてませんからね〜」


「まあ、ボクもうっかりさんはよくするからね」


「俺もそういう方がマコらしくて良いと思うよ」

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