大団円ハッピーエンドは良き良き
「マコが、魔王の娘……?」
「うん。私は、魔王の娘………だけど、色々事情があって、人間界に来てて……」
………四天王のドラゴンの奴の反応を見るに、魔王の娘の権威は四天王よりも上っぽかった。
彼女に逆らうことは死を意味する、とか言ってたし、少なくともドラゴンの奴はマコが出てきた時点で、戦うことをやめるはずだろう。
他の奴らだって同様だ。相手が魔王の娘だと知れば、襲撃もし辛くなるはず。
「マコ、何で黙ってたの?」
俺はちょっと怒り気味にマコに問い詰める。だってそうだろう。マコが最初から魔王の娘であると明かしていれば、ここまでの惨状にならなかった可能性があるのだから。
「そ、それは……私が魔王の娘ってバレたら………もう、仲良くしてくれないと思って……」
………俺は怒りを抑える。
よくよく考えたら、俺だってマコのことを言える立場じゃなかった。
同じだ。俺だって、前世のことを打ち明ける勇気はなかった。
今でこそ、皆に全て打ち明けているけど、隠している時だって確かにあったのだ。
だから俺に、マコを責める権利なんてなかった。
マコは魔王の娘である前に、ただの子供でもあったのだから。
そんなこと、ドルーコ村の時に十分わかってたはずなのに。
「ごめん、マコ。マコにも事情があるのに」
「それは……いい。私がもっと早くきてれば、皆こんなに傷つかずに済んだのは、事実だから」
とにかく、マコのおかげでこの絶望的な状況から立て直せそうだ。
俺はドラゴンの四天王とセリカの弟を見据える。
「キングさん……どうしたんですか? さっきまで戦況は僕達に傾いていました。魔王の娘がなんだって言うんですか」
「ベル坊、大人しくしておけ。魔王様の娘に逆らってはならない」
……どうやら、向こうも交戦意思はないらしい。
「要求する。大人しくこの場から去って。私の仲間に手を出さないで」
「……申し訳ございません。マコ様がここにいるとは知らず……つい」
マコがいれば、相手の魔族達と対話ができる。なら……。
「マコ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「マコの立場を利用して、交渉を有利に進めてほしい」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
俺達は魔王軍撤退後、ある程度怪我が落ち着いて、起き上がれるようになっていた優斗達と情報共有を行っていた。
俺達が通してもらった要求は、次の3つだ。
まず、撃破した魔族達の身柄拘束。
次に、現時点で西の国に攻めてきている魔族やそれに付き従うもの達の全面的な撤退。
そして。
「魔族達と人間達との、正式な交渉の場を設けてもらうこと」
「つまり、クロエは魔族と人類の和平の道を望みたいって、そういうことでいいのか?」
「うん。優斗だってもう、“人”を殺したくないでしょ?」
「……そう、だな……。これ以上血を流させるわけにはいかない」
魔王軍と和平を結べば、もう無益な争いを行う必要はない。
今まで散々争ってきた勇者一行と魔王軍だが、絶対に和平が無理というわけではないと思う。だって……。
「ほらどう? これでお肌はツルツルスベスベ。意中の男もイチコロのチョウ美肌よ」
「魔族の癖に中々良いものを持ってるじゃないか。ふむ、これを使って美肌を手に入れれば、流石に優斗もボクに………」
何故かカカエねえさんは『十拝臣』のビハダってやつと仲良くなってるし。
「昔のクロエちゃんはね、ちょっと抜けてるところがあるんだ〜。ねね、勇者パーティになった後のクロエちゃんは、どんな感じだったの? 教えてよ。ねえ」
「うん。いいよ! クロエちゃんはねー」
セツナとアンジェも何だか仲良くなっている、というよりも、セツナはまだ瞳が澱んでいて、まともな状態ではないのだろうけど、アンジェは純真すぎてその事実に気づいてなくて、だからセツナに対して嫌悪感を抱くこともなく友好的に接している、というところだろうか。
「まって、嘘でしょ……相手は敵、勇者なのに………どうして溢れてやまないの、私の気持ちー!」
「ダメだアルト、窓わされるな……。頬を赤らめて、あからさま俺のこと好きそうな感じ出してるけど相手は魔族だ! それに俺にはクロエが………」
アルトに至っては魔族の女と何だか良い雰囲気になっている。まさかアルトのことを見てくれる女性が魔族だとは思わなかった。
「ふっ、このケツカメン、ずっと疑問に思っていたのさ。どうして人間と魔族はこんなにも争い合っているのかと。聖女さん、僕はね、前々からずっと思ってたんだ。人間と魔族、仲良く手を取り合えたら良いと。そう、まずは人間と魔族間の結婚制度から……」
「はわわっ! ケツカメンさんも分かりますか? そうです。ナーロウ様は求めていらっしゃいます。魔族と人間の和平を。そうすることで、真の調和が……」
ケツカメンとエレナさんは、互いに互いの話を押し付け合ってる感じだ。お互いにお互いの話を聞かず、ただ相手に押し付けている。まあ、見た感じケツカメンがエレナさんに一目惚れして魔族と人間の和平を望むようになったって感じだろうな。
「へー、中々良い得物じゃない。確かに、これなら……」
「だろう? まさか人間にもこの鋼鉄の価値がわかるものがおるとは。我は感服である」
セリカと鋼鉄の異名を持つ『十拝臣』も、何故か意気投合をしている。
そんなセリカ達の横ではマコとオニンニクが筋肉について熱く語り合っている。
……まあ、この一瞬でこれだけ打ち解けているのだ。魔族と人間が手を取り合う日も、そう遠くないことなのかもしれない。
「クロエ、案外、何とかなるかもな」
「……だね」
……こんなにもあっさりと、人間と魔族が和解できるのだとしたら。
暗殺者として働いていたときにも、何かあったんじゃないだろうか。
簡単に解決できる、方法が。
俺が無知で、頭が足りてないから、だから思いつかなかっただけで、簡単に事態を解決に向かわせる方法が、あったんじゃないのか?
そう思わずにはいられない。
……魔族と人間が簡単に和解できる。それは、喜ばしいことのはずなのに。
俺は何だか、素直に喜べなかった。
「クロエ?」
「…………なんでもない。とにかく、魔王城へ向かおう。魔族と人間の争いを、終わらせるために」
そうだ。きっと、解決すればスッキリするはずなんだ。
だから、行こう。
終わらせよう、全部。




