センス爆発。えくすぷろーじょん
えーと。エレナさん、俺の洋服を買うことを意気込んでいたんだけど……。ちょっと目の前の状況に困惑してて、それどころじゃないらしい。というのも……。
「この服も可愛いな……」
そう、原因は目の前の白夜の勇者、マコちゃんである。彼女の服のセンスが絶望的すぎて、エレナさんやセリカ達は絶句。マコはアンジェに対してこれをお揃いにしよう! と、絶望的にダサい服のペアルックを勧めてきているが、これには流石のアンジェちゃんも「私は遠慮しとこうかな……あはは……」なんて言いながら苦笑いするしかなかった。
どうしてライオンのイラストが書いてあるのに英語でpenguinなんて書いてあるんだ。なんで全身真っ黄っ黄なんだ。なんで頭にロケットみたいな帽子つけてるんだ。なんで手袋がクマさんおててなんだ。と、ツッコミどころがいくらでも見つかるような状態だったのだ。これはひどい。
「ふっ、今日も我のセンスが光っているな! 周りからの注目が心地いい!」
確かに、マコのセンスは脱帽ものだ。というか、なんであんな謎センスの服が売ってあるのか、なんかそこそこ売れてるし。一周回ってオシャレなのか……?
「……マコの洋服を改善するには……マコ自身を着せ替えるのでは駄目そうね。やっぱり、アンジェやクロエにまともな可愛い洋服を買ってあげて、そのペアルックだっていう名目でマコにまともな洋服を着させるしか、方法はなさそうだわ」
セリカもこう言う始末。まあ、こればっかりは仕方ない。本当はあんまり乗り気じゃないが、マコのためにも、とりあえず今日だけは皆の着せ替え人形になってやるしかないらしい。それくらいにマコの服装のセンスは絶望的だったのだから。
「クロエちゃん、私がクロエちゃんに似合うお洋服、ちゃんと見繕ってあげますからね!」
「クロエちゃんとお揃い、楽しみだな〜」
心なしかエレナさんのテンションも高いし、アンジェも嬉しそうにしてるし。
まあ、いっか。
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ふぅ……疲れた。
でも、まだ終わりじゃないんだよな。
お洒落な都市、レャシオ。
ここに来て、てっきり俺は今時の女の子が着るようなちゃんとした可愛い洋服店ばかり見に行くのかと思ったけど……。
「やっぱり勝負下着は大事よね〜。いつ何時、優斗と……って駄目駄目! こんなところで何考えてるの私!」
まさか下着コーナーにまで行くとは。
着せ替え人形はまあ、ぶっちゃけ着替えてるところを見られるわけでもないし、服装もそんな奇抜な、というか変な服はなかったため、そこまで恥ずかしくなかった。
服買ったとて、結局今日着るわけじゃないし。
未来で着ることにはなるだろうが、まあ、その時はその時だ。
けど、下着は流石に……。肌を晒すのは、普通に恥ずかしい。いや、別に女の子的感情じゃないはずだ。こう、なんとなく、恥ずかしいんだ。
というかセリカさんや、公共の場で変な妄想を始めるのはやめてください。
「確かに、終わりの日への備えのために、下着を新調しておく必要があるようだ。特に、レャシオは若い女子を虜にするおしゃれな……悪辣な商品が置いてあるようだし、我が買い占めて、この都市に魅了される愚かな女児達を救わねばなるまい。私の胸の中にいる白虎もそう言うのだから、間違いない」
訳:レャシオの衣類はおしゃれだから買っておきたいです。
うん、まあマコの基準でのおしゃれは、普通のおしゃれとはズレているだろうけどね。というか、マコのセンスでもおしゃれだと感じれる衣類も揃えているって、レャシオ、守備範囲広すぎない? 流石はおしゃれの都市なだけある。
というか、いつの間にマコは胸の中に四獣を飼っていたんだろうか。まあ、わかるよ。封印されている力的なノリだよね。かっこいいもんね、アレ。
「はわわっ! どうやら私好みのものはないようです」
「まあ、西の国は海洋神ハー・メルーンを信仰してるから、ナーロウ神信仰の東の国とは若干趣味嗜好も異なってくるのよね。それが衣類にも現れてる影響で、東の国出身の人には合わないものも多いかもね」
「随分詳しいんだね、セリカ」
「そりゃ私元々西の国の有力貴族出身だし、西の国の事情には詳しいわよ」
そっか。そういえばセリカは元々西の国トスェウ出身で、勇者パーティに加入するって口実で東の国に滞在してるんだっけ。西の国にもちゃんとアルトっていう勇者は存在してるんだけど、なぜか女性関係のよろしくない噂がたてられているから、そんな奴とアドレイドのご令嬢を旅させるわけには行かないっていうのが、西の国で勇者パーティを結成しなかった表向きの理由とかいう話をしたこともあったな。
実際は、魔族に討たれた弟の敵討ちって理由らしいけど。
西の国目線だと、セリカと優斗が結婚すれば、東の国との外交も上手く進みそうだからって魂胆もありそうだけど、まあ、セリカはその辺しっかりしてるから、権力争いなんかもどうにかできるだろう。
「そうですね……。確かに私はナーロウ様への信仰が深い信徒なので、西の国の趣味嗜好とはあまり合わないのかもしれません。まあ、今日は私のものではなく、クロエちゃんのものを買うことを目的としているので、別に問題はないですね!」
そういやそうだった。いや、なんだかんだで洋服着せ替え人形するのは楽しかったよ? 皆可愛いって褒めてくれるし、今まで暗殺者しかしてこなくて女の子女の子してなかったから、ちょっと恥ずかしさはあったけど、マコの選んだ洋服はアレだったけど、それでも洋服着こなすのは楽しくはあったんだよ。でもなぁ。
下着、恥ずかしいなあ。普通はそんなこと思わないのかもしれないけど、やっぱり下着姿を皆に見られるのは抵抗がある。男としての自覚、それが原因なんだろうな。けど、こればっかりは仕方ない。俺の気持ちを知りたくば、皆にTSしてもらうしかない。
そう、俺は嫌なのだ。下着姿を見せるなんて。
洋服を着るのは、女装でもしているんだと、もしくは、自分を着せ替え人形と見て、客観視しておけば楽しめる。でも、下着は違う。
どうしても自分は女なんだと自覚させられる、恥ずかしい。
いや、別に普段中に着る分にはいいんだ。ただ見せびらかすのが堪らなく嫌なだけで。
つまり、ここで取る手段は。
「あーっと、下着選びもいいけどさ、そろそろ移動しないと、依頼の時間に間に合わなくないかなーって思うんだけど……」
洋服で長い間着せ替え人形させられていたのが功を奏したのか、気付けば優斗達と別れてからかなりの時間が経っていた。勿論、下着を見る時間がないわけではない。
だが、今回の依頼はパーティ会場における西の貴族の護衛。つまり、偉い人の依頼である。
そんな依頼に1秒でも遅れるなんてことが起きてしまったら?
勇者パーティの信頼を失う、これはまだいい。だが、優斗率いる勇者パーティは東の国出身のパーティだ。つまり、勇者パーティの信頼の失墜は、西の国から東の国への信頼の失墜をも意味することになる。
だから、俺のこの発言を無視することはできないはず。
「ボクとしては、もう少しこの辺りを見てまわりたかったというのが本音だけど、今回の依頼が依頼だし、ユウト達とも合流しないといけないし、クロエの言う通り、そろそろ移動したほうがいいかもしれないね」
よし。どうやら上手く行ったようだ。このままいけば、俺は皆の前で下着姿を披露せずに済む。皆には申し訳ないが、あくまで今回の目的は依頼。正装も見繕ったし、衣類の調達という目的は達成済みなのだから、わざわざここに滞在する理由もないだろう。
「ま、ちょっと名残惜しいけど、依頼を受けてる以上、それを反故にするわけにはいかないし、仕方ないわね。ま、依頼が終わった後も時間はあるだろうし、この辺の店はその時にでも見てまわればいいんじゃない?」
「はわわっ、そうですね、依頼が終わった後、また皆で見に来ましょう」
へ?
「下着もお揃いの買いたいなー。ね、クロエちゃん、マコちゃん!」
ま、待て、俺は……。
「ふっ、まだまだ若者を惑わす邪悪な布共は存在している。我が手にし、制御をしてやらねば……」
待ってくれ……こんなはずでは……。
「依頼が終わった後の楽しみができたね!」
くそ……どうしてそんな純朴な目で俺を見るんだ。
俺は、俺は………逃げたというのに。
どうしてこうも真っ直ぐに見つめてくるのだ……!
こんなの……こんなの……。
断れないじゃないか!
「アハハ。ソウダネ、たのしみだなぁー」
かくして、俺の下着お披露目回避大作戦は、失敗に終わったのであった。
tips:千・ノーウの洗脳は、実は魔族には効果がない




