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シャレオツお洒落な西の国〜

「わーい西の国だー! お洋服だー! おしゃれだー!!」


えー、わたくしめの目の前でアンジェがはしゃいでおりますが。

一応現在我々は勇者パーティとして依頼を受注している最中でして、決して旅行に来ているわけではないんですけれども。まあいっか。


「へー、ここが西の国トスェウの都市、レャシオね〜。中々立派な建物が揃ってるわね」


セリカは案外お洒落に興味があったのか、街の洋服店や景色を見てキラキラと目を輝かせている。そういや一応貴族のお嬢様でもあったもんな、身嗜みには多少気を遣ってはいるのだろう。


「ふっ、無駄に凝った装飾が施された洋服どもがこの地を支配しているようだが、この我の目は誤魔化せんぞ! うら若き少女を籠絡し、この地の商品に魅了させ、気づいた頃には時すでに遅し。この地に地縛霊が如く縛りつけ、未来永劫骨の髄まで国の民としてしゃぶり尽くされ、疲弊する未来が見えようぞ!」


「マコちゃん、西の国は全体的に裕福ってわけじゃないらしいけど、レャシオは割りかし住民満足度の高い都市だから、多分そんな未来はないと思うぜ」


いつも通り、マコが謎の厨二病能力『未来視』(精度0.000007%くらい)を発動させるも、隣にいたアルトに否定される。

にしても、マコちゃんは本当に厨二病を隠さなくなったな。ドルーコ村での一件から吹っ切れたのだろうか。


「ボクとしては、こんな素敵な都市に依頼で来れるなんて嬉しいことこの上ないんだけどさ、どうして変態勇者(女の敵)までここにいるのかな?」


「カカエねえさん、アルトは西の国の勇者だから、この国にいるのは当然っていうか……。むしろ、『優斗の勇者パーティのお手伝い』として来てくれてるんだから、ありがたいことなんだけど…」


そう、本来ならアルトが一緒に依頼に赴く必要はないのだが、今度依頼で西の国に行くねーって連絡したら、アルトが協力してくれると申し出てくれたのだ。だからこそ、アルトに対してはむしろ感謝するべきであるはずなのだが……。


これは勇者パーティの女性陣のアルトへの当たりの強さを考慮しなかった俺の責任だろう。アルトには申し訳ないことをした。


「クロエもクロエだよ。いくら自認が男だとは言ったって、今の君は可憐な女の子なんだよ? そこにいる変態は、腐っても勇者。襲われたらただで済まないんだからさ。ボクとしては、自衛として半径3m以内には近づかないようにするくらいは最低限して欲しいくらいなんだけど」


「アルトなら大丈夫だよ。襲われることなんてない。それに、仮に危なくなっても、勇者パーティの皆がいるから」


仮に危なくなってもとはいうが、アルトに限ってそんなことはしないだろう。勿論勇者パーティのことを信頼しているのもあるが、同時にアルトのことも同じくらい信頼してるからな。


「……ボクの目が光っているうちは、絶対にクロエに手出しはさせないからね、変態勇者」


「うちのクロエに手出したら、流石の私達も容赦しないわよ」


「はわわっ、2人とも落ち着いてください。大丈夫ですよね、西の国の勇者様。まさかそんな気の迷いを起こすような方ではありませんものね?」


カカエねえさん、セリカ、エレナさんはアルトのことを全く信頼してないからか、各々の言い方でアルトに釘を刺す。ちなみに、エレナさんが1番圧が凄くて怖かった。聖女って威圧感あるんだね…。


「皆、アルトのこと、少しは信頼してやってくれないか? これでも俺と同じ勇者なんだ。悪い奴じゃないし、間違ってもクロエのことを襲うなんてことはしないと思うから」


「まあ、ユウトが言うなら……」


「仕方ないわね……」


しかし流石は勇者。しっかりとパーティのリーダーらしく、アルトと勇者パーティの仲を取り持とうとしてくれている。

俺としても、アルトに肩身の狭い思いをしながら協力してもらうのは気が引けるので、優斗だけでもアルトに気を遣ってくれているのはありがたい。


あと、アンジェやマコも、アルトに対して特別あたりが強いわけではないのも救いかもしれない。アンジェは苦手意識こそあるものの、根がいい子なのでアルトに酷いことはしないし、マコはそもそもあんま気にしてない節がある。というかアルトは勇者パーティの誰もがスルーしているマコの戯言(厨二病)に比較的付き合ってあげているので、マコからの好感度は案外高いのかもしれない。


「ハーレム勇者に擁護されるとは……。ったく、どいつもこいつも俺のこと変態呼ばわりしやがって……。俺が何したってんだ……」


確かに、女性陣のアルトへの好感度の低さは異常だ。勇者パーティに限らず、その辺の一般女性に対してアルトの印象を聞いてみても、大抵は変態との答えが返ってくる。アルトより変態な奴なんていくらでもいると思うが、何故なんだろうか。不思議だ。


「アルトって別にそんなに変態じゃないのにね。むしろ健全な方というか…」


「だよなぁ。俺そこまで変態じゃないよなぁ。いや、そりゃ下心はあるけどさ、常識の範囲内だと思うんだよな」


「あのさ、クロエとの距離近くない? クロエの半径3m以内に入らないでって言ったよね?」


「あ、はひ……」


カカエねえさんが言ったのは自衛として半径3m以内に入らないで欲しいという話であって、アルトに俺の半径3m以内に入るなという内容ではなかったはずなのだが、いつの間にか彼女の中ではそうなっていたらしい。アルトもカカエねえさんお呼びに勇者パーティ女性陣一行の圧に負けて大人しく俺との距離をとりだした。


……まあ、仕方ない。流石にアルトが可哀想になるが、俺がアルトの近くにいても、皆納得してくれないだろうし、アルトとはなるべくプライベートの関わりだけにした方がいいかもしれない。勇者パーティとして一緒に動こうとすると、アルトが悲惨な目にあってしまうことになるから。


(アルト、ごめんね)


俺はこっそりアルトに手を合わせて謝る。

どうにかして皆とアルトの仲も良くなればいいとは思うのだが、それはまだまだ先になりそうだ。まあ、優斗とマコがアルトに友好的だから、そこから輪を広げていくのがベストなんだろうけどね。


「よし。依頼の時間まで結構余裕があるから、各自で好きな店を回ろうか。俺とアルトは男だし、2人で回ることにするよ。男がいたら、女子会もできないだろうし。また依頼の時に合流しよう」


「いや、俺はクロエと……」


「さっきの様子を見てたけど、あんまりクロエと行動しすぎると、またパーティの皆に何か言われるだろうし、大人しく俺と行動しておいた方がいいと思うよ」


「く……。まあ、仕方ないか……」


女性陣にハブられてるアルトに気を遣ってか、優斗はアルトの肩に手を回し、2人で行動する旨をパーティメンバーに伝えた。まあ、各自で行動ってなった時、カカエねえさんやセリカを筆頭に優斗の取り合いが開始することは目に見えているので、そういう意味でも2人で行動してくれることを告げてくれるのはこちらとしてもありがたい。


「まさか、ユウトのことまで狙って…!?」


「流石にそれはないと思うけど……」


「いや! ありえる! ボクは見たことがあるんだ! 男同士での恋愛…BL本を読んだボクにはわかる!!」


カカエねえさんはとんでもない発想をし始めているが、まあないだろう。アルトは女好きであるし、優斗は…………俺のことが好きらしいし……。


……というか。

カカエねえさんがBL本読んだって言ってるけど、絶対これノエルが読ませたよね?

ノエルのやつ、カカエねえさんに変な知識をつけさせたな……。

今度北の国に行ったら、あいつはしばこう。


「男同士ってちょっと……ねえ……」


セリカはドン引きしてあり得ないと一蹴。エレナさんはマコとアンジェの耳を魔法で塞いで2人に変な知識を入れないようにしている。やっぱり聖女って凄いんだなぁ。


まあ、本人達にその気がないのにそういう勘繰りをするのは失礼だしな。皆の反応も正しい。


「まあ、いいか。変態よりも優斗の方が強いし。それで、ボク達はどこを見て回ろうか?」


「依頼の性質上、私やカカエ達は良いとしても、最低限クロエ達の正装は見繕っておいた方が良さそうね。まあ、急な依頼だし、少なくともちゃんとしたところに発注なんて暇はなかったから、ある程度身嗜みを整えておけば、それで許されるだろうけど……」


そう、今回の依頼は宴会場における、西の国の貴族の護衛だ。

西の国のお偉いさんが集まる場所で、だらしない服装を着ていくわけにはいかない。ということで、ちゃんとした正装を持っていない俺やマコのために、レャシオに寄ったというのが今回の経緯である。


ちなみにカカエねえさんやセリカは貴族だし、アンジェは王族。エレナさんも聖女であるため、身嗜みはきちんとしているし、何の問題もない。というか勇者パーティは王との謁見の機会も度々あるので、正装がない方がおかしいのだ。


まあ、マコは王との謁見に来なかったり、依頼にもついて来なかったりと、割と自由人な振る舞いをしていることから、そういう服を買う機会に恵まれなかったし、俺は勇者パーティへの加入が最後だったことから王との謁見なんかもなかったから、そういう服を持ち合わせてないんだけどね。


ちなみに勇者召喚の際に王城に集められたことはあるが、あれは宴会でも何でもなく、少なくともあの時点においては公式な場でも何でもなかったため、服装は冒険者として着用しているものをそのまま着ていた。


「そういえば、クロエちゃん。前に私に妄想……前世のことを打ち明けてくれた時、女の子らしい洋服を買ってあげるって言いましたよね。レャシオは良い都市なので、この機会にお洒落な服を買ってあげますよ」


「げ……そういえばそんな話もしてたっけ……」


というかエレナさん、やっぱり俺の前世の話信じてないっぽいな……。

というか、女の子らしい洋服か……。女の子らしく振る舞うことはあっても、服装からこだわったことはないし、少し抵抗感はある。あんまり意識したくないというか、こう、お洒落するのが恥ずかしいというか……。


ま、まあでも皆には前世のことは伝えてあるし、気を遣ってエレナさんの提案を却下してくれたりは……。


「いいわねそれ。そういえばマコの服装もなんかダs………ワンパターンだし、クロエと一緒にこの機会にお洒落な服を何着か見繕ってあげてもいいかもね」


「私もせっかくレャシオに来たんだし、いっぱいお洒落したいなー。そうだ! マコちゃん、クロエちゃん、お揃いの服買ってみない? 私達年も同じだし、せっかくだからさ! ね?」


……お、おう。

セリカもアンジェも乗り気だな。というか、アンジェさん、精神年齢は俺の方が上なんですけど、そういうとこ気にしない感じですか……。


く……、かくなる上は我が盟友! 厨二病の民、マコ殿に縋るしか…!


「ふっ、我が相棒クロエと、我が姫アンジェリーヌ。2人との服の共鳴(レゾナンス)……。良い響きだ。同じ衣類を共有することで、我が相棒クロエと我が姫アンジェリエンヌとの絆をより強固なものとし、きたる災厄の日(ラグナロク)に備え、我々の戦力の増強を図る。……実に良い提案だ。災厄の日(ラグナロク)において、四柱の勇者だけでは戦力不足であることは明白…。とすれば、闇の勇者たる我の力を増強するというのは、必要になってくる。この機会に白夜の勇者たる我の力を強化することで、災厄の日(ラグナロク)に備えようというのだな!」


「そうだね! ラグナロクに備えよう!」


「相棒? 盟友じゃないっけ……」


駄目だった。この子、なんだかんだでお洒落するのが楽しみだったっぽいな。声色からウキウキしてるのが読み取れる。

というか、アンジェのことをアンジェリーヌと言ったりアンジェリエンヌと言ったり、闇の勇者から白夜の勇者になったり、ちょこちょこ設定がブレてるのはなんなんだ……。アンジェの呼び方に関しては、何なら前は姫アンジェリーナとかだったような…。

てかいつの間に5人目の勇者になったんだ君は……。


「はいはいそうねーラグナロくんに備えようねー」


「ラグナロク……ラグナロー……ラグナロウ………はわわっ! ら、ラグナロクとは、ナーロウ様のことですか!?」


「ボクとしては服で強化される理論にツッコミを入れたいところなんだけどね……」


マコの厨二病は、パーティメンバーには既に当たり前の日常と化している。そのせいか、こんな感じでさらっと流されるのが常態化している。

これのせいというべきか、おかげというべきか、なんだかんだで厨二病ノリに付き合ってくれるアンジェやアルトに懐いてるんだよな、マコって。


あとエレナさんは天然っぽい。聖女様だもんね。うん。さっきまでアルトに圧をかけていたり、マコとアンジェのことを魔法で保護していたりした人と同一人物とは思えないね。


「ふっ……。やはり終わりの日(ラグナロク)を理解しているのはごくわずかなようだ。盟友クロエよ。今は皆には伝わっていないが、時期皆理解するだろう。それまで、同じ終焉の日(ラグナロク)を理解し、見据えているものとして、前世の時のように協力し合おうではないか!」


いつ俺が終焉の日(ラグナロク)とやらを理解したのか、一切言及した覚えはないが、マコの中ではそうなっているらしい。というか前世でマコと何かしていた記憶なんてないんだが、この前、前世の話をしてから前世設定が気に入ったのか多用してくるようになった。まったく、この子の中で俺は一体どういう存在になってるんだか。


「そうだね。終焉の日(ラグナロク)が来た時のことを考えて備えておかないとね」


まあ、適当に相手はしてあげるけどさぁ。正直厨二病の語彙なんて持ち合わせていないからね、完璧に合わせるなんて無理なんだからね。


「まあ、くだらない話は置いておくとして、とりあえず、レャシオの街を回ってみましょうか」


「だねぇ」


もう展開は見えている。

きっとマコと俺はこれから勇者パーティの着せ替え人形にされるんだろう。


暗殺者から冒険者に、冒険者から着せ替え人形にジョブチェンジ、なんてね。


「クロエちゃん、可愛いお洋服、いっぱい着ましょうね〜」


まあ、いっか。

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