勇者パーティにはTS娘がいるらしい
「TS娘開示しようと思う」
「ふぁっ!?」
再び勇者パーティの一員として活動を再開することにした俺ことクロエだが、正直、そろそろ勇者パーティの皆にも俺の前世のことを話しておくべきだと思って、ノエルと相談することにした。
皆のことをちゃんと知りたいなら、まずは自分のことから話さないとって思ったから。
前世のことを話すのに、抵抗がないわけじゃない。拒絶されたらどうしようとか、そういう不安感はある。けど。
ノエルは、俺のことを受け入れてくれた(癖は歪んでるけど)。
アルトは、ある意味好きだった子が男でした〜を食らった立場だし、俺のことを嫌っていてもおかしくないのに、友人として接してくれてる。
優斗は、俺のことを支えてくれるって、そう言ってくれた。
だから……。
「くっ、とうとうその時が来たのね…! 女の子らしく振る舞うクロエに、メス堕ちの波動を感じていたけど、もうその波動を感じ取ることはできないのね…!」
メス堕ちの波動ってなんやねん。
「別に他人には今まで通りの私として接するから、女の子らしく振る舞うのをやめるってわけじゃないけど」
「な、それじゃ、私にだけ見せてた“俺”を、他の奴にも見せるってこと!? 私だけの特権が…! 私のTS娘クロエたんが…!」
いつから俺はノエルの所有物になったんですかね……?
大体、ノエル以外にもアルトとかには俺の前世のこと話してあるし、ついこの間優斗にノエル自身がバラしてたじゃんか。
「は? アルトに前世を…!? 駄目よクロエ! あんなゲス男にそんな弱みを握らせたら! 何要求されるかたまったもんじゃない!」
相変わらずアルトのイメージが悪いな……。アルトって、下心あるけど健全な男の子の範囲内って感じだし、話してみれば全然悪いやつって感じしないんだけどな……。同じ勇者の優斗やユリウスが好青年だし、ノエルも外面だけはいいから、その3人とのギャップのせいもあるのかもだけど、ていうか…。
「おい、心読んだだろ」
「あ、いやー。その、ほら? 私ってばクロエの親友だし? その、クロエが何か大事な相談事をするってなったら、やっぱりさ、その、本音を知っておかないと、ね?」
「そっかそっか。ノエルは俺のこと信用してくれないんだね。そんな能力使わなくても、ちゃんとノエルには本音で話すのに。あーあー傷ついたー」
「ご、ごめんってば! でもさ、クロエもクロエじゃない? 私が知らない間に勇者パーティ抜けて失踪なんかして。またあの時みたいにならないか心配で仕方ないからこうやって何考えてるか覗きたくなるようになっちゃったんだし」
うっ……それを言われるとあまり強くは出れない……。いや、でも最低限のプライバシーは保護してほしいなって思うよな。自分の考えてること筒抜けっていうのは、いくらノエル相手とはいえちょっと…。
「まあ、いいや。あんまり覗かないようにしてね。それで、さっきの話の続きなんだけど、誰からがいいと思う?」
まず、誰から開示するか。全員まとめて、でも悪くはないんだけど、やっぱり一人一人、ちゃんと向き合って話をしたいというのはある。全員集めて前世男でした、解散! じゃ、受け止められるものも受け止められないだろう。
「それなら、カカエさんとか? 年齢的にも1番大人だし、クロエが勇者パーティに戻ってきた時に抱きついてきたんでしょ?」
なるほど、カカエ姉さんか。まあ、確かにマコやアンジェに話すよりも、そっちの方がハードルは低いような気はするな。
「分かった。それじゃあ、ノエルもついてきてくれる? 1人だと不安だからさ」
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「………と、いうわけなんだけど」
「えーと、つまりクロエは前世男の子で、この世界に転生して女の子になったってこと?」
「そういうことになります」
前世の話をカカエ姉さんにした、が、意外にもカカエ姉さんはそこまで取り乱すことなく、落ち着いた声で冷静に話を進めてくれている。ノエルの言った通り、カカエ姉さんから開示してよかったかもしれない。
「そっかぁ。本当にいるんだね、TS娘って」
「え?」
何故、その単語を……?
「いやさ、ボクは物語を読むのが好きでね。勇者パーティに入ったのだって、勇者の冒険譚を読んで憧れてたからなんだ。それで、物語の中でクロエと同じ状況の登場人物がいてね。本当にそんな子がいるんだなと、感心したってこと」
いや、でも異世界にTS娘なんて単語が普及しているとは思えない。いや、そりゃハーレムとか、そういうのは通じるけどさ。俺が布教した言葉だし。
でも、心当たりがないわけじゃない。
俺だって、TSモノに詳しかったわけじゃない。けど、その手のモノに詳しい友達ならいる。
つまり……。
「ノエル。何か俺にいうことない?」
俺の隣でボケーっとしてるこいつしかいない。
「クロエ、好きなジャンルを布教したいと思うのはオタクの性よ。溢れる好きは止められないの」
「絵もついててね、とても読みやすい本だったよ」
まさかの挿絵付き!? ノエルのやつ、ちゃんと絵も描けるタイプのオタクだったのか。
「でも納得したよね。クロエに似てる見た目の子が絵になっていたからさ。あぁ、この本のモデルはクロエだったんだなぁって思って…」
んん? ちょっと待て、俺に似てる見た目の子…? モデルだって? 作品のモデルにさせてくれなんて、一度もノエルから言われたことないぞ?
「本人に許可取ってないよね? 何で勝手に本にされてるの??? ねえ、ノエル???」
「い、いや違うのクロエ! ほ、ほら、私もモデルにしてるしさ! お互い様だよ? ね?」
「問答無用! 今すぐその本は没収だ! 全部焚書する!」
「あ、駄目駄目! それは私の最高傑作で…!」
とりあえず、カカエ姉さんが持っていた一冊を没収させていただく。カカエ姉さんは一瞬戸惑いを見せたものの、俺が勝手にモデルにされたという事情を知ったからか、すぐに本を引き渡してくれた。
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「ったく、何で勝手に人をモデルにするかなぁ……。いや、別にモデルにするのはいいんだけどさ、メス堕ちはやめてくれない? 自分じゃないとはいえ、自分モデルの子がメス堕ちする様を見せられるのは複雑というか」
「は、はひ……。すみませんでした。………で、でも! 私がTS娘本を布教したおかげで、カカエさんに前世のことを受け入れてもらえたでしょ? だから結果オーライ! じゃない?」
まあ、いいか。ノエルの言う通り、すぐにカカエ姉さんに受け入れてもらえたのは、ノエルのTS本の影響も少なからずあるわけだし。でもあのあと、カカエ姉さんにクロエはいつメス堕ちするの?って迫られたの、あれもノエルのせいだからな。結果的にプラマイマイナスだよ。
さて、お次はセリカだ。カカエ姉さんの次に年長だし、何より勇者パーティの中じゃ絡みやすい部類ではあったから、他のメンツと比べれば、まだ話しやすい………。やっぱりちょっと不安だけど。
「大丈夫クロエ? やっぱりカカエさんだけにTS娘本を布教していたのは判断ミスだったかも。勇者パーティ全員にTS娘メス堕ち本を…」
「待て待てはやまるな。カカエ姉さんはまだしも、アンジェとかマコにそれを読ませるのはまずいってば」
うぅ……。ノエルが暴走する前に、皆に前世のことを伝えておかないと。じゃないとまたメス堕ちしないの? 攻撃をくらうことになる。何なら俺に対して歪んだ認識を皆に植え付けられる可能性すらある。
「さて、多分いつも通りなら、セリカはこの辺りで1人依頼を受けているはずなんだけど、っと」
見つけた。セリカは時々、平和ボケしないようにと単独で依頼をこなしている。今日勇者パーティは各々で行動している日だったため、いつも通りソロプレイをしているかなと思って、セリカが受けてそうな依頼の場所にやってきていたのだが、どうやら当たっていたようだ。
「あれ? クロエじゃない。それに……北の勇者まで」
「セリカ。少し、大事な話がある」
「大事な話? わかった。私でよければ何でも話しなさい。相談くらいは乗ってあげてもいいから」
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「前世が男、ねえ………」
セリカがどういう反応をするのか、少なからず怖かった部分はあるが、見た感じ、引いてる感じはしない…?
「その、それで……」
「まあ、驚きはしたけど、納得はしてるわ」
「へ?」
納得はしてる……か。何がセリカをそう思わせたんだろうか?
特別何か前世の匂わせ的なのをした覚えはなかったんだけど。
「いやね、クロエって私に勇者パーティに入りたくなかった理由を、ユウトに惚れたくないからって話してたじゃない? 普通なら、誰かに惚れたくないなんて発想は出てこないと思うのよ。でも、前世が男で、今世は女、だからこそ抵抗感があるって考えれば納得って話よ」
そういえばそんな話もしたな……。確かに、言われてみればわざわざこいつに惚れたくないなんて発想は出てこないかもしれない。恨んでる相手とかに対して思うにしても、そもそも恨んでるのに惚れる惚れないの話を持ってくるのがキツい部分はありそうだし。
「セリカ、その………変に思ったりはしなかった? 俺って、こ、こんなだけど」
「んー変は変よ? でも、クロエって元々変な子だったし、別に印象変わらずって感じ。前々からたまに自分のこと俺って言ってる時あったし、マコと仲良くしてるから、ちょっと痛い子なのかなーって」
へ? 俺ってそんな風に見られてたの? というか、一人称は徹底してたつもりだけど、無意識に俺って言っちゃってた時もあるんだな。勇者パーティでいる時はそんなことなかったと思うんだけど……。セリカ単体と会話している時には漏れてたのかもしれない。
というか、変な子って、セリカだってツンデレデカパイの癖に……。
「ツンデレデカパイの癖に……」
「だーれがツンデレデカパイですって?」
「あ、心の声が!」
「意図して言ったのじゃないのね。というかむしろそっちの方が失礼じゃない?」
「失礼なのはセリカも同じじゃ?」
「まー普段散々いじられてるからね〜。お返しよお返し。むしろ今までの蓄積がある分クロエのが失礼度は上よ」
安心した。セリカはいつも通りの接し方でいてくれた。そこに変な気遣いは感じられないし、本当に俺に対する印象は変わっていないんだろう。
よかった。
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「で、何でノエルは拗ねてるの?」
「拗ねてるんじゃないの、脳破壊。クロエの親友枠は私だと思ってたのに……。あの女、私のクロエとあんなに楽しそうに会話して…! 唯一のアドバンテージだった前世バレももうない……。おのれ許さんぞセリカ=アドレイド…………!!」
いつからこの人は後方彼女面みたいなことするようになったんだろうか。というか別に親友枠取られたとかで怒ってるわけじゃなさそう。あなた単純に友達が別の友達と話してて会話に混ざれないから気まずかったのを誤魔化してるだけでは?
「クロエ、今失礼なこと考えなかった???」
ニコニコと不自然な笑みを浮かべるノエル。まさか、俺の脳内を…?
「ノエル、脳内覗くのはやめてってあれほど……」
「ねえクロエ、決めつけるのはやめない? 私聞いたよ、疑問系で。つまり確信はしてない。そう、ちょっと疑いがあっただけ。でもクロエは覗いたって思うんだ。親友のことを疑うなんて、あーあー傷ついたー」
くっ、確かに脳内を覗いたという証拠はない……。というか、ノエルさんその笑み怖いんでやめてください……。ノエルの同伴ってもしかして危険か? 別の人に頼んだ方がいいかもしれない。
「優斗に頼もうかな……」
「やっぱり私のことを親友とは思ってないんだ! クロエのバカ! TS娘! メス堕ちしろ!!」
「バカ以外ろくに悪口になってないな……」
というかメス堕ちしろは願望言ってるだけじゃん。まあ、別にノエルでもいいんだけど、やっぱり勇者パーティの話ではあるわけだし、優斗同伴の方がいいかもしれない。
「ま、そうだね。今回に関しては、私よりも優斗の方が適任かも。悔しいけど、私はここでおさらばかな?」
「うん。ここからは優斗にお願いすることに……って、またナチュラルに心読んできたよね? 今のは絶対言い逃れできないよね?」
「ひゅ、ひゅーひゅー!」
口笛で誤魔化そうとしてるけど吹けてない……。ひやかしみたいになってる……。
まあ、いいか。ノエルポンコツだし、心の中読まれてもあんま気になんないから。
「誰がポンコツだってぇ!?」
「そういうとこ」
少しは取り繕おうや…。
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と、いうことで選手交代。同伴者は優斗さんとなりました。そしてお次に前世のことを話すのは聖女のエレナさんです。教会でお祈りしてたんで、教会の前で待機して、教会から出てくるのを待ってました。待ち伏せってやつですね。ストーカーみたいだな…。
「はわわっ! 勇者様にクロエちゃん、どうしてここに…?」
案の定エレナさんは待ち伏せしていた俺達に驚いている。………ように見えたけど、今のはわわっ! は驚きのはわわっ! ではないな。多分口癖のはわわっ! だろう。驚きのはわわっ! はもっとこう、はわわわぁぁぁぁぁぁあ!? みたいな感じだ。多分。
「クロエが勇者パーティの皆に話したいことがあるそうなんだ」
「私に………いや、俺にとっては大事な話なんだ。だから、エレナさんにも知っておいて欲しくて」
「はわわっ、クロエちゃんが俺っ娘に…!」
一人称俺にしても、特に引く様子はない。まあ、これでもエレナさんは聖女だし、器が広いんだろう。カカエ姉さんとセリカには受け入れてもらえたんだ。心優しいエレナさんなら、きっと俺のことを受け入れてくれる。
「実は………。俺、クロエは、前世の記憶があるんだ。それで……」
「前世の記憶…? 人は確かに輪廻転生を繰り返すけど、その輪廻の中で、我らが主たるナーロウ様によって新しい存在に生まれ変わるから、前世の記憶が残る例はないですよ?」
ナーロウ様? 初めて聞いた名前だ。けど、それがこの世界で信仰されてる神様なんだろう。転生する時に神様に会った記憶はないが、もしかしたら会ったことがあるのかもしれない。前世の記憶が残る例はないっていうけど、現に俺は残ってるしなぁ…。どう説明したものか。
「エレナ、クロエの言ってることは本当だ。俺だってそうだろ? 俺は前の世界で一度死んで、こっちの世界に来て勇者になった存在だ。だから、前世の記憶も持ってるし……」
「はわわっ! 勇者の召喚は輪廻とはまた別の循環をしてます。なので、クロエちゃんに前世の記憶があるとすれば、クロエちゃんは誰かに召喚された、という話になりますが、召喚された人間は必然的に勇者適性を持っていますし、仮に召喚された場合なら、乳幼児から人生をはじめるなんてありえないんですよ」
「えーと、でも正直俺の前世の記憶は曖昧だし、別にそこまで詳細に覚えてるってわけでもないから、まあちょっとした例外なんじゃないかな」
「はわわっ! ナーロウ様がそんな手違いを起こすはずがありません。ですので、クロエちゃんはきっと何か勘違いをしてるんでしょう」
んー。信仰心の塊だなぁ。自分の信仰してる神に間違いがあるはずがないと信じて疑わない感じだ。教会の聖女さんとしては100点満点だけど、前世のことを伝えたい俺としては、少し厄介な相手だなぁ。
「エレナ、クロエに前世の記憶があることは、本当なんだ。少なくとも、実際にそのことで思い悩んで、俺達のパーティを抜けた時もあった。だから、クロエの勘違いだと思っててもいい。でも、そのことでクロエが頭を悩ませたり、不安に思っていたことは事実なんだ。だから、そのことは、理解してやってほしい」
「……そうですか。一体何で勇者パーティを抜けていたんだろうと思っていましたが、それが原因だったのですね」
「うん。詳しく説明すると長くなるけど、ただ、ありのままの俺を受け入れてもらって、皆と接したいって、そう思ったんだ」
エレナさんなら、拒絶されることはないだろう。そう思えるからこそ、俺は自分の本音を包みなく話すことができる。
なんだかんだで、優斗が隣にいてくれているのもありがたかったりする。ノエルは保守的なことがあるから、最悪勇者パーティの皆に理解してくれなくてもいいんじゃない? って感じで、保留にしてはくれる。それが悪いわけじゃないけど、今は皆と真っ直ぐに向き合いたい。だから、優斗みたいに前に引っ張ってくれるのは、正直滅茶苦茶やりやすくて助かってるんだ。
「そうですか。話してくれてありがとう、クロエちゃん。正直に話してくれて、嬉しかった。私は、まだまだ全然、皆のことを知れていなかったんですね。それじゃあ改めて、これからもよろしくお願いします。何かあったら、前世のことでも、それ以外でも、何でも気軽に相談してね」
心の中が、自然と温まるような、決して完全に満たされるわけじゃない、けれど確かに、穏やかな気持ちになれる。そんな笑みを浮かべながら、エレナさんは俺への理解を示してくれる。
やっぱり、普段のポンコツ具合からは感じ取れなかったけど、この人は聖女なんだなぁって、改めてそう感じる。
「あ、そうだエレナさん。まだ言ってなかったんだけど、俺の前世のことで」
「はわわっ、何ですか?」
「実は、前世の俺は、男で……。その、未だにその自認があるっていうか……」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
ん?
「いや、その、前世は男だったんだ」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
ありゃ? あーでもそっか。エレナさんは俺が前世の記憶があると思い込んでる女の子だと思ってるのか。だったら、自認が男だって伝え方のほうがいいかな。
「えーと、俺、自分のこと男だと思ってて」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
あれ? 伝わってないかな。いや、それもそうか、性自認がどうこうなんて概念、あるかどうか怪しいもんな……。
「あーエレナ。少なくとも、クロエは自分の前世のことを男だと思ってて、その感覚で今でも自分の中では自分のことを男だと思ってるんだ。一応それを知らない他人に変に思われないために、女の子らしく振る舞うことはあるけど、クロエの素は男の子っぽい性格なんだ。最初は戸惑うかも知れないけど、それがクロエなんだ」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
え、エレナさん……?
「え、と。俺は………おとk」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
な、なんか圧を感じる。
「いや……」
「? クロエちゃんは女の子ですよ?」
え、なにこれ? 何ではいしか許さないNPCみたいなことになってんの? エレナさん何でクロエちゃんは女の子ですよbotになってるの?
怖いんですけど!? なにこれ!?
「え、エレナ……?」
優斗も滅茶苦茶困惑してるじゃん。どうなってるのエレナさん。
「お、俺は………女の子、です………」
「はい。そうですね。クロエちゃんは女の子です!」
や、やっと進んだ……。てか何でエレナさんは頑なに俺が男って認めてくれなかったんだ‥‥。意味がわからん……。
「今度、女の子らしい洋服でも買いましょうか。クロエちゃん、年頃の割にお洒落していなくて勿体無いと思ってたんです」
「え………」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「有無を言わさぬオーラがあったな……」
「怖かった‥‥。何でエレナさんあんな風になってるの?」
「実は……エレナにはそれとなく、前世のことを伏せながらクロエのことを相談したことがあったんだ。もしかしたらエレナなりに、クロエがこの世界に地に足つけて過ごせるような配慮をしようと思ってたのかもしれないな」
んー? 今世を受け入れさせて、異世界を客観視しちゃう癖を直させる的な?
まあ、よくわからんけど、エレナさん悪い人じゃないし、むしろ俺のためを思ってくれて言ってくれてたのかもしれないな。
「それで、次は……」
「マコとアンジェ。2人にはまとめて話そうかなって」
既に2人のことは呼びつけてある。大事な用があるから来てくれって。
「クロエちゃん、大事な用事って?」
「ふっ……我が盟友クロエよ…! 我を呼び出し大事な用とは……。遂にその時がやってきてしまったのだな…! 行こう! ともに終焉からこの世界を守護するのだ!」
やっぱ1人ずつの方が良かったかこれ。片方がやかましすぎる。まあいいか。優斗もいるし、収まりはつくだろう。
「大事な話なんだけど……」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「……って感じなんだけど」
「そうなんだ。前世、かぁ……。私も、前世は男の人だったのかな?」
「ふっ、我は元々勘づいていたぞ! 我が盟友クロエの魂は、その辺の愚民とは違うと!」
「2人とも、その……。変じゃないかな? えーと、今までずっと、このこと隠してきてて……」
「ううん、全然。むしろ、クロエちゃんのこと知れて嬉しいっていうか……。うーん正直、前世のことを話されても、クロエちゃんはクロエちゃんだから。だから変だとか、そういうことは一切思わないかなぁ……」
天使かなこの子。天使だね。
「ふっ、流石は姫アンジェリーナ。飲み込みが早い。だが我も負けていない! 覚えているぞ我が盟友クロエ! 前世でも私達は良き宿敵で友であった! 多分、私が勇者的な存在で、我が盟友クロエはなんかいい感じの相棒だったに違いない! 覚えている! 覚えているぞ!」
誰だよアンジェリーナ。アンジェの名前はアンジェ=エマニュエルで、リーナ要素どこにもないよ。あと多分って言ってるから、覚えてるって嘘だよね?
「マコって普段こんな感じだったのか……」
これには流石に隣の優斗さんもびっくりしていらっしゃる。まあ、正直俺もびっくりした。優斗の前でなら落ち着くかなって思ったら、最初からアクセル全開なんだもん。
まあ、ともかく、これで勇者パーティの皆には、俺の前世のことを話すことはできたかな。
色々と不安はあったけど、打ち明けてみればなんてことはなかった。皆思ったより気にしてないし、俺のことちゃんとパーティメンバーとして認めてくれてる。
そのことを知れただけで、打ち明けた意味があるってもんだ。




