勇者パーティの元暗殺者
エタってな……流石にエタってましたね(惨敗)
結局俺は、勇者パーティに戻ることになった。まだ完全に吹っ切れたわけじゃない、けど。
でも、勇者パーティにいた時、楽しくなかったと言ったら、多分嘘になる。きっと俺は、勇者パーティでの出来事を楽しんでいたんだろう。
大丈夫だ。少なくともノエルや優斗は、俺の事情を知ってくれている。
ここでうじうじ悩んでたってしょうがないんだから、余計なことは考えない。そう決めた。
だからこそ、気持ちの整理のためにも、これは必要なんだ。
「カヤ、セツナ、ありがとう」
俺が今来ている場所は、カヤとセツナの墓がある墓所だ。この世界も弔いの文化は同じなんだななんて、そんな感傷に浸りつつも、俺は2人の墓石の前で手を合わせる。
カヤとセツナの墓は、同じにしてもらった。2人とも身寄りがなく、引き取り先もいなかったためだ。
「って、あれ……」
今さっきまで気づかなかったが、俺と同じように墓石の前で手を合わせている1人の少女がいることに、俺は気づいた。
少女は勇者パーティの1人で、この国の王族の…。
「アンジェ?」
「あ、こんにちは! クロエちゃん」
「アンジェも、誰かを弔いに?」
「そうだね。私も、クロエちゃんと同じように、弔いに来たんだ。……そこで眠ってる、2人のことを」
アンジェが、カヤとセツナを、弔いに……?
どう、してだろうか。ノエルや優斗から話を聞いたのか。いや、セツナの件に関しては、アンジェ達が知っていてもおかしくはないのかもしれない。実際、俺がセツナを殺害したその現場に、勇者パーティはいたわけなのだから。
「2人とも、クロエちゃんの大切な人だったんだよね」
アンジェは、物凄く穏やかな表情で、墓石を見つめる。
やっぱり、アンジェは優しくて、純粋な子なんだろう。全く知らない赤の他人を、わざわざ弔いに来るくらいなのだから。
「……クロエちゃんのせいじゃないから」
「え?」
「クロエちゃんが悪かったんじゃない。これは、クロエちゃんだけの責任なんかじゃない」
アンジェは、キリッとした、先ほどとは打って変わった、意志の強そうな目をしながら、呟く。
「これは、私達の責任……、いや、達は、逃げかも。そうだね、これは、私の責任だよ」
「そんな……アンジェは関係な」
「関係あるよ。私は。だって私は、この王国の、王族なんだから」
有無を言わさぬ威圧感。とても14歳の少女が出すとは思えない気迫、威厳だった。
「アンジェ…?」
「私は、カヤちゃんとセツナちゃんの死の、責任がある。彼女達を死なせてしまったのは、私が国をうまくまとめることができなかったから」
当然だろう。アンジェは王族ではあるが、王座についたわけではない。ましてやまだ14の少女だ。国の統制など、到底任せられるような歳とはいえない。でも、今のアンジェには、有無を言わせぬ何かがあった。
「ねえクロエちゃん、もし、誰かを殺したことが辛いって、人の死なんて背負えないなんて、そう思うんだったら、そのことで自分を責めなくてもいいんだよ。全部、私が背負う。彼女達を殺したのは、私なんだから」
それを言うのは、相当な覚悟がいる。生半可な覚悟で言ってしまえば、それは逆に彼女達の死への侮辱になってしまう。それでも、アンジェは言葉を紡ぐ。
「クロエちゃんは、気負わなくていいよ。クロエちゃんがカヤちゃんやセツナちゃんの死への責任を背負ったとしても、私は私で、勝手に2人の死の責任を背負うから。ううん、ちょっと違うかも。私には、2人の死の責任を背負う義務がある」
上っ面の言葉なんかじゃない。アンジェは、本気でそのつもりで言っている。ただの優しくて、純粋なだけの女の子じゃ、到底軽々しく口にできるようなものではないことくらい、俺にだって分かる。
「凄いな……アンジェは」
「へ? そうかな……。私なんて、セリカさんみたいに強くないし、エレナさんや、他のパーティメンバーよりも劣ってると思うけど…」
「ううん。アンジェは、凄いよ。こんなの簡単に言えることじゃない。ちょっと勘違いしてた、アンジェのこと。か弱くて、優しくて、可愛らしい純粋な女の子だって、ずっとそう思ってた」
「え? そうかな。えへへ〜! か、可愛いなんてそんなぁ〜!」
あれ、やっぱ可愛くて純粋な女の子かもしれない。今からでも訂正しよかな。
いやいやいや、俺が言いたいのはそんなことじゃなくて…。
「んん! 正直、侮ってたんだ、アンジェのこと。守られて当然の、か弱い存在だって認識が、多分、ずっとあった。そう、私が言いたいのは、アンジェは、私が思ってるよりも強くて、真っ直ぐで、芯のある女の子だったんだってこと」
「うぇええ!? どうしたのクロエちゃん? きゅ、急にそんなベタ褒めされちゃったら、て、照れるよ……」
「いや、で、でも本当に凄いなって思ったから………」
「むむむ! まさか! 私が王族だからって、私に媚を売ろうとしてるなぁ〜? 残念ながらクロエちゃんの思惑はうまくいかないよ! 私はこれでもしっかりしてて、強くて、芯のある女の子なんだから!! クロエちゃんの言葉には惑わされません!」
「の割には私がさっき言ってたこと、真に受けてるような気がするけどねー」
「そ、そんなことないから! 私は、芯のある女の子……ってえーい! とにかく! 惑わされてなんかやらないぞー!」
「あはは!」
「なっ! クロエちゃん! 何がそんなにおかしいの? 私これでも真剣なんだからね!」
そっか。アンジェって、こういう子だったんだ。
全然知らなかった。いや、俺の方が勝手に決めつけてたのかもしれない。
アンジェはこういう子だ、こういう“キャラ”だって。
そんなことなかった。アンジェには、俺の知らない一面がたくさんあった。
俺のアンジェへの“キャラ像”が、崩壊していく。
……まだ、怖くないと言えば嘘になる。
皆を、キャラとして見たくない、でも同時に、そうしないことで、俺の心が壊れてしまわないかって。
でも……。
アンジェは、背負ってくれた。まだ、あんなにも小さいのに。
こんな小さい女の子が頑張ってるのに、俺が何にもしないなんて、情けない。
怖くないわけがない、怖いに決まってる。でも、逃げてばっかりはいられない。いつかきっと、向き合わなきゃいけない日が来る。
今すぐに、とはいかないけど、でも。
「アンジェ、ありがとう」
一緒に背負ってくれる人は、きっといるから。
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墓参りも終わり、とうとう俺は勇者パーティへと復帰することになった。扉の向こうには、勇者パーティ全員が揃って、俺を待っている。
久しぶりに会う皆。少し緊張する。けどきっと大丈夫だ。拒絶されるなんてことは、多分ないはずだ。
俺はそっと、扉を開ける。
「皆、ただいま」
「わああああああ! クロエ! ごめんねえええええええ!」
扉を開けた瞬間、俺に真っ先に抱きついてきたのは、意外にも、一番年長のカカエ姉さんだった。
「え、はえ?」
「ボク……ボクのせいで……ごめんクロエ! 帰ってきてくれてありがとう! 心配、してたんだ……本当に本当に………よかった……よかった!」
意外だった。今のカカエ姉さんは、鼻水と涙で綺麗な顔が台無しで、そんな姿、優斗に見られたくもないはずなのに。もっと、優斗一筋で、他のパーティメンバーにそこまで興味がないのかな、なんて、そんなふうに思ってた自分が恥ずかしくなる。
ああ、そっか。
『もっと深く皆と関わればいい』
優斗の言っていた言葉を思い出す。
俺は、俺が思っているよりも、皆のこと、知らなかったのかもしれない。
「……ただいま。それと、改めてよろしく」
皆の知らない一面、これからも、知っていくことになるだろう。
悩んでいたことが、バカバカしくなってくる。
キャラだって?
ふざけるな。皆は、そんなものでカテゴライズされるような存在なんかじゃない。
皆、ここで確かに存在してるんだ。
今は、胸を張って言える。
俺は、勇者パーティの一員だ。




