「くぁwせdrftgyふじこlp」「は?」
暗殺者をやめてから……いや、バラバラになってから、サツトと会う機会なんてなかった。今でも暗殺者をやっているのか、それすらも知らない。
「サツト……何で」
「ずっと………見守ってきたんだ。クロエのこと」
見守ってきたというのは、一体いつからなんだろうか。
「セツナは………死んだよ。私が殺したから」
「アイアンクローの刑、だっけか?」
「………そんな約束もしてたっけ」
セツナが欠けてる時点で、サツトと一緒にいても、辛いだけだ。俺の幸せなんて、とっくに失われてる。
わかってる。この世界を客観視しなきゃ、物語の中の話なんだって、そう思わなきゃ、多分俺の心は壊れる。でも、きっとそうしたら、俺は勇者パーティの面々や、ノエル達と関わることができない。だって、今この状態で関わったら、俺の中であの人達の存在が、物語の中の人、ただのキャラクターだと格付けされてしまうことになってしまう気がしてならないから。だから……。
「俺の幸せは、もうとっくに潰えたよ。けど、クロエは、そうじゃない。きっとまだ……」
「もう無理だよ。これからは、死んだように生きるつもり」
「……違う。ずっと見てきたからこそわかる。お前はまだ……引き返せる。俺じゃお前を幸せにすることはできない。けど…」
知ったような口を聞かないでほしい。俺の前世の事すら知らないくせに。俺のことをいちばん理解してるのは、俺なんだ。この世界にいて、俺が幸せになる術なんてない。俺には、その資格だってない。誰も、俺を…。
「私のよく疼く右目が告げている……。ダークサイドに堕ちたな? 我が盟友クロエよ! 過去のことを引きずるなど、愚の骨頂! 私は克服したぞ! 過去のトラウマなど! 見よ! この漆黒の闇を!! 私は秘匿されしこの力を恥ずことなく解放することにした!」
「マコ…?」
「ずっとこのテンションなんだ。流石に疲れるというか……ともかく、依頼通りマコちゃんをここに連れてきたよ」
「ありがとうございます。ユリウスさん」
南の勇者、ユリウス=アルジャーノン。こんなところで遭遇するとは思わなかった。そういえば、伝説の武器とやらを探すために、マコは一時的にユリウスと行動するという話は聞いていた気がするが、まだ一緒にいたのか。
「サツト、どういう……」
「勇者パーティにいるときのお前は、幸せそうだった。心の底から、楽しそうだった。だから、呼んだ。俺じゃきっと、力不足だろうから。幼馴染の子のことは……すまなかった。俺もそんなつもりじゃなかったんだ。いや、これは言い訳だな…。余計なことをしてしまった」
俺はもう、その段階じゃないのに。もう駄目なんだよ、勇者パーティは。だから、だから……。
「やっと、見つけた…」
声が聞こえたと思ったら、急に後ろから抱きつかれる。気配で何となくわかってはいた。けど……こんなところまで……。
「何で、相談くらいしてくれたっていいじゃない……! 私達……友達、でしょ?」
「ノエル……」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
勇者パーティは、俺の行方をこっそり探していたらしい。サツトは俺の行動を全て監視……いや、言い方が良くないな。でも、やってることはストーカーみたいなものだし、監視と表現してもいいかもしれないが。とにかく、俺の行動を全て追ってきたサツトが、今の俺には勇者パーティが必要だと判断して、俺のことを探していた勇者パーティやノエル達と接触を図ったらしい。
といっても、南の国にやってきたのは、優斗とノエル、そして、元々南の国にいたマコのみだったわけだが……。
「マコ達には一旦席を外してもらった。クロエとは、ちゃんと話をしておくべきだと思ったから」
「優斗には、もうクロエの前世については、教えてあるわ。勝手に言っちゃって、その、ごめん。けど、私だって、何がクロエのためになるのかなんて、わからなくて………」
怖い。優斗や、ノエルと接するのが。
俺自身の心を守るための、防衛作用なのかもしれない。けど、そうじゃないかもしれない。ただ単に俺が薄情で、いや、情と呼べるものすらなくて、優斗やノエルのことなんて、本当はどうでもいいんだって。そう思ってしまうのが、怖い。
「だったらもう、放っておいてくれよ。私は……俺は、もう勇者パーティなんかどうでもいいんだ。元々、アンジェが無理矢理加入させてきただけだったし。もう……」
「それが……クロエの素なんだな」
「そうだよ。ずっと隠してきた。騙してきたんだ。幻滅した?」
「そんなことない。クロエのこと知れるだけで、俺は嬉しいよ」
何でそんなセリフがさらっと出てくるんだ。やっぱり勇者だからか。たらし気質なんだろうか。
でもきっと、上辺だけだ。取り繕ったところで、響かない。
「新しい側面が知れてよかったね。挨拶は済んだし、もういいでしょ。俺は、俺の好きなように生きたい。だからほっといてよ」
俺が、俺自身が薄情だってことに気づく前に。
優斗達を、優斗達として、思い出に残せるように。
俺は、勇者パーティと縁を切る。
「待ってくれ!!」
「何? 話は終わったんだよ。もう、これ以上は……」
「本音で、話してほしい。何で、勇者パーティを離れようと思ったのか、とか。とにかく、行かないで欲しいんだよ」
「だから……自由に生きたいからって」
「………俺には話せないか。でも、俺が知りたいんだ。クロエが、何を考えて、どう行動してるのか。これは俺のわがままだ。けど、俺はこのわがままを、通すつもりしかない」
優斗が俺の腕を掴む力が、どんどん強くなってくる。
絶対に逃さないって、そんな意思すら感じてくる。どうしてそんなにも、俺のことを止めようとするのか。
やめて欲しい。俺は、俺の醜い部分を、自覚したくない。だから…。
「実は俺、最低な人間なんだ」
「え…?」
優斗が、最低…? 一体どこが…。どこからどうみても、ただの好青年で、非の打ち所なんて……。
「俺、転生した時から、ずっと……皆のこと、人間として見れてなかった」
「……」
それは…。もしかして…。
「異世界転生なんてものをして、現実味がなくて……。どうしても、エレナ達のこと、ゲームかなんかのキャラクターみたいに思えてきて。だけど、彼女達は実際にこの世界に息をして、生きてる。でも、やっぱりどうしても実感が湧かなくて……。俺は、結局彼女達のことを人間として見ているのか、わかんなくなった」
同……じ……?
優斗は、今の俺と、同じで…。
「幻滅されるかもしれないけど、俺の正直な気持ちを言うよ。正直、コレクション感覚みたいな部分はあったんだ。エレナ達や、クロエのことを勇者パーティの一員にしていたの。俺に対して好意を持ってるってことを自覚した上で、ハーレムパーティだななんて、心の中でそう思いながらも、それにどこか酔いしれてる自分がいた。でも、関わっていくうちに、そうじゃないんだって、彼女達もここに生きてる人間なんだって、そう気づけた」
「……この間、悩んでたのは…?」
「彼女達のこと、人間だって、そう思えたからかな。俺なんかでいいのかなって、そう悩んだのは」
でもそれは、エレナさん達のことを人間として認めることができたって、そういうことだろう。俺は……多分違う。
心のどこかで、きっと…。
「クロエも、同じなんだよな、俺と。転生なんてものをして。いや、少し違うんだったか。怖いんだったよな。皆のことをそういう目で見てしまうことが」
「なん……で……」
「俺は、正直そういう目、物語のキャラクターだとか、そんな目で見られたくはない。けど、そのせいでクロエが苦しむなら、俺はそれでも構わないとも思う。気にしすぎなんじゃないかな。結局、自分の腹の中にある気持ちなんて、他の誰にもわかんないんだから」
「で、でも……」
「それは嫌、なんだろ?」
「ぇっ…」
「皆のことを、キャラクターだなんて目で見たくない。だったら、尚更だよ。皆のことをキャラクターとして処理してしまわないために、もっと深く皆と関わればいい。もし、ここが現実だって感じることで辛くなるなら、俺やノエルが、クロエのことを支える。それじゃ、駄目かな?」
何でかわからないけど、俺の考えてること、全部バレてる。見透かされてる……。
でも、何だろう。だからか、不思議と……。
優斗達と一緒にいれば、大丈夫なんじゃないかって、そんな気もしてくる。
……でも、もし、今度こそ上手くいかなかったら?
このまま、何も改善できないまま、再び勇者パーティに戻って、それで……。
「逃さないから、クロエ。不安になんてさせない。私が幸せに…………ええっと、私達、ね! 私達が、クロエを幸せにしてあげるから」
「ノエル……」
悲観的に、なりすぎてたのかな。勝手に、ノエルや優斗達のこと決めつけて……。
関わってみたら、案外なんてことはないのかもしれない。
もう一度、皆と関わってみてもいいのかな。
「いいよ! どんどん絡もう! もうこの際百合でもいいから!!」
「は?」
「で、でも百合だと私の脳が焼かれる可能性が…」
「は?」
「あークロエ。実はノエルは……」
「私、クロエの考えてることぜーんぶ手に取るようにわかっちゃうのよね〜。クロエの脳内素っ裸! なんちて」
「は?」
脳内が宇宙猫状態だ。一体何を言っているんだ、彼女は。
「今はどっちかっていうと、宇宙猫より猫ミームじゃない?」
「は?」
本当に何を言ってるんだ?? 今はって何だ今はって!
「ほら、知らない? 猫ミーム。ちぴちゃぱするやつ」
「知るかぁ!? って何でナチュラルに脳内読んでるの!? ノエルってエスパータイプだったの!?」
「エスパータイプってえっちだよね」
「この、脳内ピンク魔人が……!!」
「あーでも、宇宙猫も猫ミーム? あれ、よくわかんないや」
いや、俺はノエルが何で俺の思考を読んでいるのかがよくわかんないんだけど。
「あぁそれはね。前にオニンニクって四天王がドルーコ村にやってきた時あったでしょ? どうやらそこで私、十拝臣だか十連敗だかの1人っていう千・ノーウとかいうやつと会ってたらしいのよ。覚えてないけど」
「はぁ…」
「なんかそこで脳みそ覗かれたらしくて、気づいたら私も他人の脳内を覗けるようになってたってわけ」
「え、なんで?」
「何でだろうね。私もよくわかんないけど、多分千・ノーウの能力を私が奪ったっぽい。勇者の力ってすげー」
勇者の力凄いどころじゃないんだけど……。
脳内全部覗かれてるって、いや、全部思考読まれてたらそりゃ物語の世界だ何だなんてとても思えないけどさぁ……。
「って、じゃあやけに優斗が俺の考えてること当ててたのは……」
「あーうん。ノエルがクロエの脳内定期的に覗いてたから、だよ」
「え、えぇ…………」
いや、いくら何でも思考読まれるのはちょっと。
「ご、ごめんってば! で、でもこうでもしないと、クロエのこと助けられそうになかったし……。この能力はこれ以降破棄するつもりだし! ね? ね?」
「うん。ちゃんとその能力は封印しといてね」
『大量に人殺しといて、どの面下げて勇者パーティに入ってるの、この人でなし』
……セツナの言葉は、今でも脳内に残ってる。
わかってる。資格なんてないって。こんな俺は、勇者パーティにいていいような奴なんかじゃないって。
でも。
必要としてくれるっていうなら。
もう少しだけ。
この世界に、浸ってもいいかな。
「おっ、いいじゃんいいじゃん! そのちょっとスカした感じ!」
「覗くな!!!!!!」
勇者の中でユリウスだけクロエの前世のことを知りません。そうです。彼はハブられています。




