閑話2 仲良し3人組
眠れないので執筆。暫く投稿していなくて申し訳ない。それとシリアス、もうちょっと続きます。ごめんなさい。でも必要なんや……。シリアスターンの時は閑話でコメディ入れるようにします。コメディ書きたいし…。
久しぶりの休日! というのも、何とあの人が今日は出張で不在で、俺達3人の暗殺の依頼も今日は一旦ストップということになったらしい。昔は結構休みとか用意してくれてたんだけど、俺達の技術が滅茶苦茶上がってからは流石に仕事を当てないって選択をするのは難しかったらしく、多忙な日々が続いていた。けど、良かった。そろそろ精神的にも疲労してきていた頃だったし、ここで一日じっくり休めるのは、正直ありがたい。
「じゃーん! 2人とも見て見てー! これ、ナンデショー?」
セツナってばまたはしゃいでるな……。まあそれがセツナのいいところなんだけど。でも、どうせ1人でボーッとしていても、嫌なこと思い出すだけだし、付き合ってあげるか。
「セツナ、また変なもの持って帰ってきたの?」
「変なものとは失礼な!? この本すっごく高かったんだからね? ていうかサツトは本好きだからわかるでしょ? これのことも知ってるんじゃない?」
「異世界の書物、だろ? もっとも、言語が特殊で、この世界じゃ読める人間は存在しないって言われてるけどな。そんなものどこで手に入れたんだ?」
異世界の書物、か。例えば俺が前世で住んでた日本の本とか? まあそんなピンポイントで日本の書物がこの世界にあるわけないか。異世界は、何も地球だけに限った話じゃないし。
「ふっふっふ……。聞いて驚かないでよ。なんとなんと! 道端に落ちていました! ええ! ほんとにそこら辺にポツンとね!!」
「言うほど驚く場所じゃなくない? というか単純に誰かの落とし物なのでは…?」
「落とし物だとしても、落とした奴が悪い! 私の手に渡った時点で、それはもう私のものになるのだ! ということでクロエちゃーん! はい捕まえたー! これでクロエちゃんは私の手の中にあるから、クロエちゃんも私のものだねー!」
何だそのとんでも理論は!? まあ好いてくれてるのが分かるし、悪い気はしないけどさ。
「ワーツカマッター。タスケテサツトー」
とりあえずサツトに助け求めとこ。
「そうか。セツナ、クロエ、末長くお幸せに、応援してるよ」
サツトはわざとらしくパチパチと拍手して、胡散臭い笑みを浮かべながら祝福の言葉を送ってくる。何でだろう、なんか鼻につくな……。
「まさかのスピード結婚!? やったークロエちゃんと一緒だー! 指輪は後で送るね!」
「助けない感じ?」
「逆に助けて欲しかったのか?」
「いやそういうわけでもないかな〜」
「何ならサツトも私と結婚しよう! そうと決まったら……。はい捕まえたー! これでサツトも私のものね! サツトもクロエちゃんも私のもの! はーれむだ!」
はっはっは! 残念だったなサツトよ。お前もセツナの毒牙からは逃げられまい……。
「どっちかといえば俺がはーれむなような………」
まあ俺の精神は男だからあながちセツナの(逆)ハーレムでも間違いはないんだけどね……。あ、ちなみにハーレムって言葉は俺が2人に教えました。何吹き込んでんだって? 仕方ないじゃん。仲良くなってつい教えちゃったんだよ。
「あはは…! はぁー楽しい。2人といる時間が一番幸せ! はぁーあ。ほんと、暗殺業なんてやめたいなぁー。転職希望中! 何かいい仕事はないですかー! へるぷみーはろーわぁーく!」
その気持ちは物凄いわかるな。俺も2人といる時は、暗殺のことなんて考えずに済む。それと、依頼がなくて、あの人に扱かれ続ける日々だって悪くはない。人を殺すための技術を教えられはするが、実際に人を殺すわけではないし。ちなみにハローワークも俺が教えました。ええ、これでも前世の話全くしてないんですけどね。ここまで言ったら別に前世の話をしてもよくない? って思うでしょ? いやーちょっと勇気がないね。うん。
「………。2人には隠してたんだが……」
「サツト……?」
どうしたんだろう? 珍しいな。サツトがこんなに真剣な表情するの。
「今日、師匠がいないのは……。出張なんかじゃないんだ。本当は、俺達のために……」
「何々!? 誕生日プレゼントってやつ!? それサプライズって奴じゃない!? サツト! サプライズは言っちゃったらサプライズじゃないんだよ! ……って、ごめんごめん。真剣な話っぽいね。セツナお口チャック!」
セツナのそのテンションはどこから湧いてくるんだ??
まあ、その元気さにはいつも助けられてるんだけど。
「……もう話していいか。ったく、ほんとにセツナは落ち着きがないな。とにかく、簡潔に言う。もう、俺達は暗殺なんてしなくていい」
「サツト、それって……」
まさか、本当に? 解放される時が、来たんだろうか。この地獄から。
「師匠はそのために今、色々やってくれてる。俺達のために。絶対に2人には言うなって言われてた。けど、やっぱり2人に隠し事はしたくなかったんだ」
こんな日……一生来ないって思ってた。でも、そっか。もう、誰も殺さなくていいんだ。
「それで俺、2人に聞きたいことがあるんだ。セツナ、それにクロエ。2人は、このまま暗殺者をやめて、どうしたい?」
どうしたい、か。当てなんてないけど、そこに関してはあの人がどうにかしてくれるんだろう。多分、サツトが聞いているのは、これからも3人ずっと一緒に過ごすのかどうか、ってことだろう。勿論、俺の答えは決まってる。
「私は3人で一緒に暮らせたらいいなって思ってる。セツナとサツトがいいなら、だけど」
「私もクロエちゃんのに賛成!」
「そっか。良かった。俺も同じ気持ちだよ」
2人も同じ気持ちなのは、嬉しいな。そうだな、もう、暗殺者もやめれるなら、この2人には……。
うん。決めた。暗殺者をやめる日に、2人には俺の前世について話そう。きっと大丈夫。俺が元男だって知っても、2人は幻滅なんてしないだろう。受け入れてくれる。だから、その日が来るまで。
もう少し、この地獄を苦しもう。
「約束だよ。私達、ずっと一緒だからね!」
「ああ、そうだな」
「破ったらアイアンクローの刑だね」
「それだけはやめてぇ!?」
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「何で………何で、私達、見捨てられたの……?」
「違う……師匠は、そんなことする人じゃ……」
俺達への暗殺の依頼は、日に日に増して行っていた。休みなんて来ない。いつしか、あの人も俺達の様子を見に来てくれなくなった。あれからもう何日も、あの人とは会えていない。代わりに届いたのは、一通の手紙。
俺達3人は、もう別々で行動しろって。それぞれの雇い先が決まったから、そっちへ行けって。そういう通達だった。
いつか、あの人が言っていたことがあった。
『一度暗殺を行った者は、もう二度と普通の生活には戻れない』って。
あの人は、最初から俺達に日の光を浴びさせるつもりなんてなかったんだ。別に、悪意があったわけじゃない。あの人は多分、俺達はこのまま暗殺者として生きていく方が、幸せだと判断したんだろう。そして多分、わざわざこんなやり口を選んだのも、自分を恨みの対象にするため。『あの人のせいで、俺は暗殺者をやらされてる』って、そう俺達に思わせるために。俺達が、人殺しで苦しむのを少しでも和らげるように、そうやって、他人のせいにできる余地を残しておいてくれたんだろう。
だったら、俺もあの人の思惑に乗ろう。
どうせ分かっていたんだ。希望がないことなんて。だから、俺にはあの人を恨む理由なんてないし、それで心が壊れたりもしない。けど、2人にはきっと必要な嘘だ。
「見捨てられたんだよ。最初からあの人は、私達を助ける気なんてなかった。暗殺者に馴れ合いは必要ないって、ずっと言ってたでしょ? 言葉通りにしたんだよ。あの人は最初から、私達の仲を引き裂くことしか考えてなかった」
「何で、何で………何でよ! 私、信じてたのに、何で……せっかく………せっかく……クロエちゃんと……サツトと…一緒にいられるって、思ったのに……」
「違う……! そんなはずない! 師匠は何か……考えが………考えがあるんだ……。そうに違いない……」
サツトは震えた声で、壊れたようにそう繰り返す。あの人に一番懐いていたの、確かサツトだったよな。裏切られたって知ったら、そりゃショックだろう。そうか、これも含めて、あの人の思惑なんだ。
サツトは、裏社会全般の暗殺を行う。裏社会じゃ、裏切りなんて日常茶飯事。誰もが騙し合い、互いに落とし合う。そんな世界だ。だからあの人は、サツトに誰も信用するなって、そう言いたいんだろう。だから、サツトと一番深く関わって、こうやって最悪の形でサツトを裏切った。
「じゃあ、どうやってこの現状を説明するの? サツト、現実を受け入れた方がいいよ。私達は、見捨てられた。今回のことでよく分かった。誰も信用なんてできない。結局、暗殺者をやめることなんてできないって。それに、これはもう決定事項だから。だから、私達の関係もこれで終わり。仕方ない。決まったことなんだから」
「やだ! 離れたくない! 一緒にいてよ! 何で………やだ………」
俺だって、できることなら2人と離れたくはない。でも、これは決定事項だ。それに、あの人のことだ。きっと、俺達3人が一緒にいない方がいい理由があるんだろう。俺には想像もつかないけど、俺はあの人を信用してる。だからきっと、セツナもサツトも、悪いようにはならないはず……。きっと、大丈夫。大丈夫で、あってほしい……。
「クロエ……。悪い、お前も辛いよな。取り乱して悪かった」
「サツト……」
あれ? 俺、いつの間に涙なんか……。
そっか。受け入れてるつもりだったけど、俺も受け入れられてなかったんだ。別れたく、なかったんだ。
「約束、破ったらアイアンクローの刑、だよ……私アイアンクロー嫌いだもん……。やだ………離れたくないよぉ……」
少し冗談混じりにいう癖は、こんな状況でも変わらないらしい。でも、決まったことだ。仕方ない。
「さよなら、2人とも。もし、何かの偶然で、また会えたときは……アイアンクローの刑、執行、かな……。またね」
俺は、最後まで笑えていただろうか……。
あぁ。もう、何も考えないでいいや。関係ない。全部関係ない。俺には、関係ない…。
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「セツナ、ずいぶんやつれたな」
「サツトの方こそ、目にクマできてるよ」
数年後。セツナとサツトは、再会することができた。それも、クロエがきっかけで裏社会の人間が一斉に浄化されたことによって、暗殺業から解放されたのが影響している。
「ねぇサツト。クロエちゃん、元気そうにしてた?」
「最近は、冒険者として生計を立ててるらしい。この前様子を見に行ったが、北の勇者と仲がいいみたいで……。笑ってた。安心した。今は、幸せなんだなって思ったから」
「そっか、そっか……。よかった……。ほんとに、よかった……」
「セツナ、お前は……どうなんだ? うまくやれそうか…?」
セツナは少し目を瞑り、今の自分の状況を考える。
「幸せ、何だと思う。そう、だね。人を殺さなくてもいいし、周りは皆、優しいよ」
その言葉を聞いて、安心したのか、サツトは少しホッとしたような表情をする。が…。
「でも……忘れられないの………。私が殺した人達の、悲鳴が………泣き叫ぶ声が……裏切り者って、そう蔑む声が…! 一生、耳をついて離れないの!! いくら水で耳の中を洗っても、いくら耳を塞いでも!! 勝手に入ってくる!! もう、うんざりなの……」
残念なことに、セツナはその幸せを、感じ取れてはいなかった。
「セツ……ナ……」
「だからねサツト。私決めたの」
どこか淀んだ目をしながら、セツナはサツトと目を合わせる。狂気的な瞳に、少しゾッとするサツト。
「私達をこんな目に遭わせたやつを………私達に酷いことした奴らを……全部殺す。牢屋に捕まってる奴らも、あの鳥籠から引き摺り出して、ミンチにしてやる……。そうでもしないと、私達に対してやったことの帳尻が合わないもんね…」
「セツナやめろ! そんなことしたって、お前は……」
「この前ね。練習がてら1人殺してみたんだー。あ、貴族じゃないよ? この前クロエちゃんの様子を見に行ったときにね。クロエちゃんのことジーッと、変態な目で見つめる気持ち悪いおっさんがいたから、殺したの。だってそうでしょ? 私のクロエちゃんに汚い目を向けてるんだもん。向けられてるクロエちゃんが可哀想だよ」
「セツナ、お前何言って……」
「あとこの前ね、サツト、変なチンピラに絡まれてたでしょ? そいつも殺しといたよ。だってサツト、滅茶苦茶困ってたもん。そんな酷いことする奴ら、殺されても文句言えないよね」
セツナはもう、壊れてしまっていた。クロエの様子を見て、やっと幸せになれると、サツトはそう信じていた。だが……。
「全部終わったら、3人で一緒に過ごそう! 安心して、サツトは何もしなくていいから」
3人とも幸せになれない時点で、サツトの幸せなんてものは、もう。
とっくに失われていたのだ。
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「クロエ……頼む……お前だけは………幸せに………」
サツトはとある場所へと向かう。この前、サツトはクロエの幼馴染だという少女と出会った。どうやら彼女はもう一度クロエに会いたいらしい。だから、クロエの居場所を調べて、彼女に伝えた。最近のクロエは、セツナを殺してしまったことで、何か気に病んでいるんだろうと、サツトはそう考えていたから。
サツトは、ずっと陰で見守っていた。クロエのことも、セツナのことも。セツナが魔族になってからは、あまり様子を見に行けていなかったが、その代わりにクロエの元に行く頻度が増えていた。だから知っているのだ。クロエがセツナを殺してしまったことも。それはセツナのためであったことも。
「ついた……」
サツトがクロエの近くに着いた時には、クロエは幼馴染の少女と共に移動するようだった。聞いていた話では会うだけだったはずだが、他にも何かしたいのだろうか? とりあえず見守ろう。そう思い、2人の動向を見守る。
すると、2人は豪邸に入って行った。
一体何をしているんだろうか。しかし、流石に不法侵入なんて真似はサツトにはできない。だから、そっと見守ろうと、そう思うサツトだったが……。
「あはは! 引っかかった!! 昔から嫌いだったの!! 私の方が、よっぽど苦しかった!! クロエも同じように苦しんでね! そしたら私、もう一度あなたと仲良くなれる気がするから! あははははは!!」
狂った女が、玄関前で笑っていた。
そこで、サツトは思い出す。この豪邸は、悪い噂が絶えない貴族の家だということで有名だと。
つまり、クロエは嵌められたのだ。目の前の女に。
「クソっ!」
サツトはすぐに駆け出す。クロエが何かされるという心配よりも、クロエがその手を血で染めてしまうことの方が心配だ。セツナを殺してしまったことで、また殺しのスイッチが入ってしまわないか。せっかく暗殺者をやめれたのに、また暗殺者としての芽が出てしまわないか。それだけが心配だった。だからこそサツトは、まずは目の前の女を殺す。
暗殺者をやめてから、サツトは人を殺さないようにしてきた。普通の人として、生きていたかったから。でも、それすらも振り切る。
(クロエが殺すくらいなら、俺が……)
クロエの手を、汚させないために。
しかし……。
サツトがクロエの幼馴染の少女を手にかけ、ドアノブに手をかけようとした、その時だった。
ガチャリと、ドアが開く。
中から出てきたのは、クロエだった。
サツトは、クロエの体についた返り血を見て……。
「遅かった、か」
ポツリと、そう呟いた。




