閑話1 メス堕ちの心得
「というわけでぇ! クロエには、TS娘のメス堕ちについて、学んでもらおうと思います!」
そう言ってノエルは俺の眼前にドサリと、大量の分厚い本を持ってくる。
「え、何これ?」
「TS娘メス堕ちものの小説。全部私の自作だから、親友として、ちゃんと読んでね」
えーと、書籍化されてるってことです? え、この人TS娘メス堕ちモノの小説でご飯食べてるの!? てかこの世界そんなにTS娘ってウケいいの!?
「本当は世間にも広めていきたいから、手始めに本にしてみたんだよね、私の妄想を。で、まあ私の小説の第1のファンとして、クロエが選ばれたってわけ…………まあついでにTS娘としてのメス心に磨きをかけてもらえればいいかなという思惑もちょっとだけ、本当に少しだけあるんだけど………」
自分で本にしたのか………。いや、それはそれで凄いんだけど…。まあつまり、自作小説を書いたのはいいけど、読んでくれる人がいないから俺に読んでくれと。
てかTS娘としてのメス心ってなんやねん。俺は男やぞ。
「BL本もいっぱい書いてたんだけどね。でも、まずはクロエにTS娘の自覚を持ってもらわないといけないから……ゲフンゲフン。いや、普通に忘れちゃったんだよね、BL本。今度持ってくるから、今日はTS娘メス堕ち本で我慢してね」
「ノエルさん、流石にその誤魔化し方は無理があろうかと思われます。後別にBL本もTS娘メス堕ち本も読みたくないです」
BLといいTS娘モノといい、この子性癖拗らせすぎじゃないか?
「うるせぇ!! つべこべ言わずに読め! メス堕ちしろ!! このっ! メスガキがっ!!」
「いや読むのは読むけど…。ああ、そうだ。勇者の癖にメスガキ1人わからせられないなんて、おねーさんクソザコだね、ざぁこざぁこ」
「ん“っ”………ふぅ。流石私の親友。私の求めてること、よく理解してるじゃない」
「いやノエルに仕込まれたんだけどね」
たまにノエルは変態なおっさんみたいな目をする時がある。そういう時のノエルは、暴走するとどうなるか分からないから、俺はとりあえず求められた通りに振る舞うようにしている。そんな風にしていたら、ノエルのやつ、俺が何でも要求を飲んでくれるイエスマンだとでも思ったのか、色々なことを要求してきたのだ。スカートをめくって誘惑しろだの、メスガキをやれだの、中年おっさんみたいな要求をしてくるノエルにはよく困らされた。あ、ちなみに今のノエルもその状態です。だからこんなにテンションおかしいわけ。面倒臭い……。
街の人は皆ノエルのことを美人で優しい勇者様だと思ってるみたいだけど、中身これだよ?
いくら親友とはいえ、流石にここまでの変態度合いにはドン引きだ。親しき中にも礼儀ありって言葉、ノエルは知らないんだろうか。まあここ異世界だし、知らなくても仕方ないか。
「メスガキ属性はカバーしておいて損はないわ。男の心を射止めるための武器として、ね」
「メスガキ好きの男とか絶対ろくなのいないでしょ」
「はぁああああぁぁああああぁあっっっっっっっっ!?!?!?? クロエ、それは禁句よ。今ならまだ間に合うわ。全国のメスガキ好きの紳士に謝りなさい」
まあ確かに、主語がデカすぎたかもしれない。別にメスガキ好きの男だからと言ってヤバいとは限らないし、まともな人だっているだろう。
「うん。そうだね。流石にこれは素直に謝罪かも。でも、やっぱり俺はメスガキ好きとかよくわかんないな」
「ふーん。そこまで言うなら、クロエ、貴方の性癖を聞こうじゃない」
「えー。別に性癖も何もないけど……。まあ、強いて言うなら……幼馴染の子、とかが好みかな」
よくアニメや漫画では、幼馴染のヒロインという存在が出てくることがある。そういう子は大抵健気で、献身的で、良い子ばかりなのだ。でも、ほとんど、ほぼ100%の確率で、その子の恋が実ることはない。もう本当に、何でかわかんないけど、大体正ヒロインらしき存在に負けて、失恋してしまうのだ。
まあ、何だ。そういう彼女達を見ていると、自然と応援したくなるといいますか、こう、なんだろう、頑張れって、結ばれないってわかってるからこそ、肩入れしてしまうというか……。まあ、アンダードッグ効果ってやつですね。はい。不利な方を応援したくなるっていう、それです。
という感じで、物語の中じゃ、特にそういう幼馴染ヒロインが好きだったから、強いていうなら幼馴染の子かなって思ったんだけど……。
「……………ごめん」
ノエルさん、何故かガン萎えしていらっしゃる……? ノエル的には、幼馴染ってつまらない性癖なんだろうか。いや、まあTS娘とか好きな奴だし、普通の性癖じゃ満足できないんだろうなって思ってたんだけど、そんな萎える?
「てか、何で謝るの?」
「いや、だってクロエ………」
ノエルは、口をモゴモゴして、すごく言いにくそうにしている。
「幼馴染って……ほら………」
暗い表情、謎の謝罪、その原因となったのは、幼馴染。
もしかして、俺の過去のこと、考えて触れづらく思ってるのか?
そういえば確かに、俺の幼馴染の話もノエルにしたような……。そっか、俺が幼馴染がタイプとか答えるもんだから、もしかしたら………って勘繰っちゃったんだな。
さっきまでは大興奮で俺にメス堕ちモノの小説を勧めてきた癖に、変なところで気を回してくれるんだよね、ノエルって。変態だけど、何だかんだで俺のこと気にかけてくれてる、本当に良い親友だよ。
「ノエル、別にそういうのじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。前世から普通に幼馴染属性は好きだよ。まあそれもあくまで創作の中での話だし、リアルとは関係ないから」
「なーんだ。心配して損した」
「おい」
前言撤回。こいつやっぱり薄情だ。
「ま、幼馴染属性なんて弱者が好む属性……。真の強者はね、TS娘のメス堕ちを好むモノなの」
「性癖に弱者も強者もないのでは?」
「まあ、私の自作小説を読めば、クロエも高みへ行けると思うわ」
「へいへい」
まあ、でも、せっかく書いたのに誰にも読まれないっていうのは流石に可哀想だし、TS娘メス堕ちモノだろうがBL本だろうが読んであげるんだけどさ。
俺はそう思いながら、ノエルが持ってきた本の中から、適当に一冊取り出し、中身を開く。
えーと、タイトルが……。
「『TS娘ロエちゃんと天才美少女エルちゃんの甘々百合百合イチャラブ生活』……?」
「あ“っ”! 待ってクロエ、それはらめぇええええええええ!!」
ああ、これ、もしかして。
「ノエルさん? あの、ロエちゃんって子、なんかどーっかで見たような設定してる気がするんですけど? というかエルちゃんってこれ、ノエルのことだよね、銀髪に金のメッシュで北国出身の勇者って………まんまじゃん……」
「違うのクロエ! 誤解! 誤解だからぁ!!!!」
本編の内容は、エルちゃんが『ロエ、私が貴方をメス堕ちさせてあげるからね』なんて囁いてて、それをロエちゃんが、『俺は男だ! メス堕ちなんてしない!』なんて風に激しく主張して抵抗するも、結局何だかんだでイチャコラするといったものだ。うん。身の危険を感じる。
「ノエル、ごめん。今日ちょっと帰るね」
「うわぁああああああんちがうのぉぉぉおおおおぉぉぉおお!!!!」
後日、めちゃくちゃ説得された。




