久しぶりに会うと別人みたいになってる幼馴染っているよね
閑話2とちょっと矛盾しちゃうので修正加えました。
「はい。それでは、報酬の110Tになります」
「……どうも」
勇者パーティを抜けてから、俺は元のソロの冒険者へと戻った。東の国でいると、優斗達に見つかる可能性が高いため、最近は南の国を主な拠点として活動している。まあ、東の国にいても、王都に行きさえしなければ、滅多に優斗達と遭遇することはないだろうが、それでも、万が一ということもある。
だからこそ、知り合いのいない(南の国の勇者であるユリウスはいるが、正直そこまで面識があるわけじゃないから問題ない)南の国で活動することにした。
まあ、1人でも案外上手くやっていけている。まあ、世界一の殺し屋の3人しかいない弟子のうちの1人なのだから、冒険者として活動して難なくやってけるのは当然と言えば当然なのかもしれない。ああ、そういえば、その弟子のうちの1人は俺が殺したんだった。はは……。
「クロエちゃん?」
もう、誰とも関わりたくない。
優斗ととも、アルトとも、ノエルとも。
俺は俺の中にいる『俺』が、この世界を俯瞰して見てしまっている事実を受け入れたくない。いや、違う。俺は、俺が優斗達のことまで『人』として見れていないのかもしれないって考えることが、怖くて……。
「ねぇ、クロエちゃんだよね?」
だから、さっきから声をかけてくる存在にも、俺は気づかないふりをする。聞き覚えのあるような、ないような声をしている。多分、知り合いなんだろう。ノエルではないことだけは確かだ。まあでも、俺はもう他者と関わりを断ちたい。だから……。
「ねぇってば!」
後ろから袖を掴まれる。しまった……。普段ならこんなミスは犯さないんだけど、いけない。戦闘してる時は集中できるのに、こうして普通に歩いてる時は、まるで意識がどこかへ飛んでいってしまっているかのようで、ぼーっとしがちになってしまう。まあでも、捕まってしまったからには仕方ない。こんな場所で、急にナイフを取り出して相手の喉を掻っ切るわけにもいかないし。適当に済ませて、さっさとこの場を去ろう。俺はそう思い、背後を振り向き、相手の姿を確認して……。
「な……んで………」
おかしい………。だって、君は…‥。
「あーやっぱりクロエちゃんだー。昔と全然変わってない!」
そこにいたのは、かつて俺と同じく村を焼き払われ、裏社会で売られてしまったはずの、幼馴染だった。
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「ごめんねー。私お金なくってさ」
「いや、別に良いんだけど………」
相手が相手だったため、俺はどう言い訳して良いかも分からず、結局近くの喫茶店に寄ってこうして席をともにすることになってしまったわけだけど………。
「なーんか歯切れ悪いなぁ。久しぶりの再会なんだし、もっとテンション上げてこーよ」
「う、うん……」
彼女の名前は、カヤ。俺の幼馴染で、同じ村出身。そして、俺とは違って、手足をもぎ取られ、幼くして貴族の玩具として売り払われた少女でもある。だが現在の彼女には手足が存在している。おそらくは義手義足なんだろうが、しかし、今の彼女はまるで昔あった出来事を感じさせないようで……。
何だかまるで、村を焼き払われる前の彼女そのものって感じだった。いや、少し違う。
今の彼女は、無理して昔の自分を演じているように見えた。
「やっぱり、クロエちゃんの目は誤魔化せない、かな。気づいてるんでしょ? 私が無理してるって」
「うん……」
昔は村でも1番仲の良かった友人だったし、彼女の表情の変化には敏感なのかもしれない。けど、今更俺に、何のようなんだろう。昔、見捨てたことを恨んでいるのだろうか。それとも、もう一度友人として関係を構築したいと考えているのか……。
もしかしなくても、多分俺は、彼女に期待してしまっているんだろう。心のどこかで、後者であってほしいと、もう一度友人になりたいと、そう思っている自分がいる。彼女となら、もしかしたら、俺はちゃんと『クロエ』としてこの世界に存在できるんじゃないかって、そんな気がして……。
「クロエちゃんが暗殺者止めた時にね、私も解放されたんだ。貴族の手から。国の保証とか、そういうのもあって何とか暮らして行ってたんだけど、結局東の国に居続けてると、昔のこと思い出して辛くなるから、今はこの国にいるの」
「そう、なんだ……」
「昔はさ、クロエちゃんのこと、恨んでたんだ。あんなに仲良かったのに、あんなに一緒にいたのに、私のこと、見捨てちゃうんだって。でもさ、クロエちゃんがやらされてたこと、後から聞いて、私と同じように、クロエちゃんも苦しんでたって、そう気づいた」
「カヤ……」
「私、本当は今日クロエちゃんに会ったのも、たまたまじゃないんだよ」
「…どういうこと?」
「クロエちゃんも、結局勇者パーティで上手くいかなかったって聞いたから、なら、だったら。私と一緒に来ない?」
そう言ってカヤは、俺に手を差し伸べてくる。
心のどこかで、俺が求めていたものが、今、差し出されている。
元々俺は、暗殺者になる前はもっとオープンな人間だった。
カヤだけには前世のことも話していたし、外ではしゃぎ回ったりもしてたし、それなりにこの世界の住民として生きていってたつもりだ。
多分、俺がこの世界を俯瞰した目で見るようになってしまったのは、きっと暗殺者になって、その時に自分の心が壊れないようにするためだろう。本当は自分でも分かってた。そんなこと。
でも、だからこそ。
俺が暗殺者になる前に、関わってきた、カヤとなら。もしかしたら………。
「いい、の……?」
「いいの。むしろこっちがお願いしたいくらい。これは私の我儘なの。また昔みたいな関係に戻りたいっていう、私の我儘」
そう問いかけてくるカヤの目は、どこか不安そうで…。
もしかしたら、断られることを、恐れているのかもしれない。
「今まで俺がカヤの誘い断ったことあった?」
「へ?」
「別に、カヤと一緒なら、上手くやっていける気がするから、さ。だから、その、喜んで?」
「あはは! 何それ、まるでプロポーズされてるみたいな言い方じゃん」
「ち、ちがっ! いや、カヤだって、まるでプロポーズするみたいな言い方だったし〜」
そうやって、俺は彼女と笑い合う。
まるで、昔に戻ったみたいで。この時だけは、俺は、『クロエ』でいられる気がした。
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「ここがこれから住むところだよ」
そうやってカヤに連れてこられた場所は、結構な豪邸っぽい家だった。一応、東の国からの支援があったという話は聞いたけれど、ここは南の国だ。支援金だけでどうこう、ってわけにはいかないだろう。となると、この家を購入するための金は、カヤ自身で稼いだということになるわけだが、まさか、身売りとかしてないよな?
「カヤ、ちなみにこの家はどうやって」
「ん? あー。国からの支援金だよ。流石に私じゃ稼げないからね〜」
カヤは何でもないようにそう言うが、多分嘘なんじゃないかな?
はぁ、でもいいや。もう彼女に身売りなんてさせないから。これでも俺は優秀な冒険者だ。これからは俺が稼ぐし、カヤに変なことさせるつもりはない。
「扉開けておくから、先入ってて良いよ」
「ほーい。お邪魔しまーす」
「先にリビング入ってて」
「カヤは?」
「ん、大丈夫。先くつろいでて」
部屋紹介とかしてほしいんだけど、まあいいか。少し待てばカヤも後から来るだろうし、先にリビングの様子を拝見させていただこう。俺はリビングの扉を開いて……。
「はっはっは。では、最近は少し違う道具を扱うことも考えているわけですな。頑なに一つの道具しか扱わなかった貴方が、珍しいものですな」
「いや何でも、それの幼馴染らしいので。わしは容姿よりも内面や関係性など重点を置いているものでして。っと噂をすれば」
そこにいたのは、少し小太り気味な2人の男。どちらも下衆な笑みを浮かべながら、こちらを品定めするように見てくる。カヤから聞いた話では、ここにはカヤしか住んでいないし、これからも俺とカヤの2人で住んでいくって話だったんだけど……。
「ごめんね、クロエちゃん…」
ボソリと、俺の耳元でカヤの声が響く。
「おーカヤ。ご苦労。そちらがお友達かな?」
「はい、ご主人様。言われた通りお連れしました」
つまり俺は………カヤに嵌められた?
俺はこれから、この男達の相手をさせられることになるってことなんだろうか。
ナイフは、今手元にない。カヤから持たないように言われてたから、そういう道具は今持ち合わせてない。
いや、でも、本当に…?
何で、カヤは俺のことを……。
「か、カヤ……?」
「クロエちゃんが悪いんだよ。あの時、私のことを見捨てたんだから」
「カヤ……何で……」
「私は手足もとられて身動きできないようにされて、体もたくさん汚されて……。今手足を付けさせてもらっているのは、お使いとか、そういう用事がある時だけ。基本私は逃げられない。そういう契約を魔法で結んでいるから。なのに、クロエちゃんは五体満足で、ただ命令されたままに人を殺せば良いだけの仕事。殺すくらいなら、私だってやらされてきた。気づかれないように、飲み物に毒を持ったり。それだけじゃなかった。私の方が、ずっと辛かった。だから、クロエちゃんにも同じ目にあってもらうね?」
そっか……。
結局、この世界に俺の居場所なんてないんだ。この世界は、俺の世界じゃない。俺の本当の世界は、前世で俺が死んだ時に終わってたんだ。
期待するんじゃなかった。
なかったんだ。俺が求めてたものなんて、最初から。
「それじゃあ、精々頑張ってね」
そう言って、カヤは部屋から出ていく。
「クロエと言ったか、こちらに来なさい。初仕事だ」
もう、いっか。
俺は、そのままゆっくりと2人の男達の方へ歩いていく。
「良い子だ。自分の立場をわきまえて……」
「しね」
一匹の男が、その場に血を流しながら倒れ込む。
「な、貴様! 一体何を」
「お前も、しね」
もう一匹も、黙らせる。
全く。武器を封じたくらいで、俺をどうにかできると思ったのだろうか。
俺は、世界一の殺し屋の弟子なんだから。得物なしでの雑魚狩りなんて、基礎中の基礎だ。
とりあえず、玄関へと向かう。
もしかしたら、何かの間違いかも知れない。カヤも、きっとまだ……。
『あはは! 引っかかった!! 昔から嫌いだったの!! 私の方が、よっぽど苦しかった!! クロエも同じように苦しんでね! そしたら私、もう一度あなたと仲良くなれる気がするから! あははははは!!』
聞こえてくるのは、そんなカヤの声。
何期待してんだよ、馬鹿。さっき諦めたはずだろ、それは。
もう、無理だっていうのに。
俺はそのまま、カヤの家……いや、正確にはカヤの主人の家、か。から出て……。
「遅かった、か」
そこには、カヤの死体と。
「サツ……ト?」
俺のかつての同僚。
世界一の殺し屋の弟子。サツトが、冷めた顔で立っていた。




