ボクは勇者パーティが好き
ボクは、昔からルシフェル家の人間として相応しく振る舞うよう、厳しく教育されてきた。
男の子のように外ではしゃいで遊び回れば、三日間家に閉じ込められ、只管勉強、所作のレッスンを、常に先生や侍女の目に晒されながらこなすことになる。何もしなかったとしても、さっき言ったメニューに加えて休憩で少し外の空気を浴びに行くのが許される程度のものだった。
でも、それが当たり前だと思ってきたから、家のために、政略結婚の道具になるのが、ボクの運命なんだって思ってたから、受け入れてきた。
そんな時、ボクはムレーハ王国の王宮に赴くことになった。王子との邂逅、他の貴族との交流。
なんてことない。いつものように事務的にこなしていた。
けど、そんな時、ボクの目に止まったものがあった。
勇者の冒険譚。
図書室にあった、勇者の冒険についてが記録されたものだ。
ボクは何気なく、その本を取って呼んだ。
その世界は、自由だった。
もちろん、簡単な旅じゃないことはわかってる。
けど、ボクに取っては何もかも未知のものばかりで、心惹かれることしかなかった。
中でも、ボクに大きな影響を与えたのは、勇者パーティの1人である、カレナだ。
彼女の一人称が、ボクだったことが、ボクはとても衝撃を受けたのだ。
今まで自分の中で築いてきた女性はかくあるべき、という像が、音を立てて崩れ去っていく気がした。
その時からだろうか、父に対して、反抗するようになったのは。
一人称も私からボクにしたし、まるで勇者の冒険譚に出てきたカレナのように振る舞うようになった。
当然父は怒った。けど、ボクは楽しくて仕方がなかった。
まるで翼を得た鳥かのような気分だったから。
そうしてボクは、優斗がこの世界にやってきたと同時に、彼に声をかけた。
勇者パーティ最初の仲間になろうって思ってたからね。実際、カレナも勇者の第一の仲間として勇者パーティに加入したみたいだったし。
まあ、グイグイ行き過ぎたせいで優斗に警戒されちゃって、ボクが勇者パーティに加入したのはエレナとセリカがパーティに入った後になっちゃったんだけどね。三番目だ。ありゃりゃ。
それで、そこからマコが加入して、アンジェが入って、そしてクロエが勇者パーティに来た。
本当に、皆と一緒にいる時間はとても自由で、楽しくて、退屈しなかった。
エレナもセリカも、マコもアンジェも、そしてクロエも、皆個性的で魅力的だ。
だから、認めさせなきゃいけない。
あの父に、ボクの、ボクたちの勇者パーティを。
ボクは父のいる部屋を開け、部屋に入る。
さぁ、しょうぶ……だ………。
「うっ……ひっぐ………ぐすん」
「は?」
えぇ……? なんか泣いてるんだけど………。なんで?
「うぇ……ひっぐ………かかえぇえええええぇえええ!! いかないでくれぇえええええぇええぇえ!!」
「うゎ……」
「ん? あっ。か、かかえ……んん!! な、なんだ? 何か用か?」
「いや、流石に無理あるでしょ」
あれ? ボクの父ってもしかして親バカだったりする……?
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「つまり、ボクに幸せになって欲しかったから厳しく教育してきた。けどそれで反抗するようになって、家出までしちゃったから寂しかったと?」
「うん」
「はぁ………。でも、だからってボクのパーティメンバーを馬鹿にするのは違うでしょ……」
「うっ……それは……すまん………」
子供か!
なんなんだこの父は。
昔はあんなに嫌いだったのに、こんな姿見せられると、困るじゃないか。
いや、昔は嫌いだった、は語弊があるかもしれないね。
正直いうと、勇者の冒険譚を読むまでは、ボクは父のことは結構好きだったんだ。
まあ、ボクも心の中じゃ、父との決別を受け入れてなかったのかもしれない。
だから案外、父に対する嫌悪感を振り払うのも容易だったのかもしれないね。
「カカエのパーティメンバーには、直接謝罪する。けど、かかえぇ……。たまには帰ってきてくれぇ……!!」
「わかった。わかったから。はぁ……ったく。昔の威厳溢れる父はどこへ行ったんだか………」
てか多分この父、結界で閉じ込められたって時に満面の笑みを浮かべてたけど、あれ多分ボクと一緒にいれる時間が増えて嬉しかったからなんだろうな。勇者パーティバカにしてたのだって、元を辿ればボクを奪った勇者パーティを恨んでたんだろう。確かに娘の心配をして言った発言ではなかったわけだけどねぇ。
ったく。本当に困った父だ。
「カカエ、結界が解けた。原因は外にあったみたいだ。出れるか?」
「あーうん。今すぐいくよ」
そしてどうやら、案外すぐに結界は解けることになったらしい。原因はなんだったんだろうね?
あの結界、相当な使い手のものだと思うんだけど……。
もしかしたら、外にいたクロエがなんとかしてくれたのかもしれないね。
アルト? 誰だいそいつは。ボクはそんなケダモノのことなんて知らないね。
というか、結局ボクの父は結界の件に関して何の関係もなかったみたいだ。もし結界を自分ではったのなら、あんなに泣き喚いたりしないだろうし。まったく。昔から紛らわしいんだ。ボクの父は。貴族社会じゃ腹黒サターンなんてあだ名がついてるくらいだ。まあ、今回の感じを見るに、多分勘違いが重なっただけなんだろうけどさ。
「いかないでくれぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇっ!! あとちょっと!! あとちょっとだけ!!! ほら!! シエもいるからぁ!!!」
この後エレナやセリカが乱入して大乱闘状態になりながらも、ボクはなんとか屋敷から脱出することに成功した。
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ふぅ……。ったく。本当に親バカもほどほどにして欲しいものだね。仲間をバカにされたら、流石のボクも頭に来ちゃうわけだし、バカにするにしてももっとこう、別のとこにして欲しいものだ。
と、そういえばクロエのことを相当待たせてしまったわけだし、謝罪の一つや二つくらい述べたほうがいいかもしれない。後、この際、仲間に感謝を伝えるようにしてみてもいいかもしれない。というか、さっきエレナ達には感謝の言葉を述べておいた。物凄く意外な顔をされたけど、ボクは皆のこと好きなんだよ? 優斗にしか興味ないと思われてたのは心外だったよ。ボクは勇者パーティそのものが好きなんだからさ。
いやもちろん優斗のことは大好きだよ? 何度惚れ薬を作ってボクの虜にしてやろうかと思ったことか。
っと。そういえば結界が解けたのはクロエが結界をはった主を討伐したかららしい。さっき優斗から聞いた。その件も含めて、クロエには感謝しないとね。
っと、あれ? 皆どしたの?
なんか雰囲気暗……い……。
何これ……。
「死体だ。魔族の」
「人間にしか見えないけど……」
「ああ。元人間の魔族だ。それも、クロエの元暗殺者仲間の」
「えーと……。クロエは……?」
「……………」
優斗は黙り込んで、何も言わなくなってしまった。
というか、多分これ、クロエが殺したってことだよね。
あの子、人殺しなんて誰よりもやりたくないって思ってたはずなのに……。
いや、魔族なんだけど……。でもこの魔族は、クロエの昔の知り合いで……。
嘘でしょ。
こんな、ことになってたなんて。
ボクの、せい…?
ボクが、この屋敷にケジメをつけにやってきてしまったから。
ボクが、クロエをここに連れてきてしまったから。
だから、あの子にこんなことをさせてしまったのかな。
はは…。笑えないや。
勇者パーティが大好きで、ずっと今の勇者パーティを守っていきたいなんて、そう思ってたのに。
「ボクが、壊しちゃったんだ……」
せっかく、父と仲直りしたというのに。
ボクの心は、晴れやかになってはくれなかった。




