あれ?いつのまにか勇者パーティ入り!?
現在、俺は1人の男から迫られていた。異世界ーーーもとい日本から召喚された、所謂勇者と呼ばれている黒髪の青年だ。
「クロエがいてくれたら助かるんだ。クロエは小さいし小回りが効くから。今の勇者パーティには火力重視の奴しかいない。だからできれば勇者パーティに入って欲しい」
俺だって勇者パーティには憧れてる。
魔王討伐を達成したら世界の英雄だなんて言われて褒め称えられるわけだし、
これからの生活にも困らないだろう。
何より俺は昔から修羅場をくぐってきている。実力は他の冒険者と比べても中々なものだ。
ここまでなら断る理由は一つとしてないだろう。戦うのが怖いとかそんな理由があればまた別だが、俺は別段そう思ったことはない。暗殺よりも精神的にずっと楽だからな。
ただ俺ははっきり言って
「むり」
「はぁ!?どうして断るのよ!」
勇者の隣に立つ赤髪ツインテールの巨乳ツンデレ女が話す。
いや、お前だよお前。正確には“お前ら”のせいでそのパーティに入る気がしないんだよ。
別にパーティメンバーの人格に問題があるとかじゃない。
少し個性的だが全然良い人達だと思う。ただ………
「はわわっセリカさん落ち着いてください!」
「ユウトのお誘いを断るなんて不思議な子だねぇ」
「これでライバルが増えずに済んだ……」
「えー!私はクロエちゃんと一緒に旅がしたかったのになぁ」
ハーレムパーティは嫌だぁぁぁぁぁ!
なんだこのテンプレ!?
金髪巨乳聖女にツンデレ、
紫色の髪が肩にかかるくらいまでに切り揃えられているボクっ娘お姉さんに、
胸こそないが身長が小さくて可愛らしい見た目をした銀髪寡黙っ娘。
とどめはこの国のお姫様であるアンジェ様
美女が集うその光景はまさしく楽園…!
真ん中に男さえいなければな!
なんだなんだこの差……
俺は今まで血液に塗れた生活をしてきたのに、こいつらは色欲に塗れた生活を送ってやがった!
まあここまでにはないにしろ
女にモテまくる男ってのは俺の前世にもいた……と思う。記憶があやふやで思い出せない部分はいるが、確かにいた。だから別にハーレム築いてるのは良い。良いんだ。
だけど俺には絶対に譲れない要素がある。
もちろん精神が男だからいくら体は女とはいえ女性だらけの輪に入りにくいというのもある。でも一番の問題はそれじゃない。
俺は前世で聞いたことのある単語がある。
メス堕ちーーー言葉通りメスに堕ちること……メスになることを表す言葉だ。
俺は一度だけ、うろ覚えではあるが前世で俺と似たような境遇になっている奴が主人公の作品を読んだことがある。
内容は今の俺のようにTS転生して勇者と共に戦っていくうちに段々と勇者に心惹かれていって………という内容だったはずだ。
……考えただけでも恐ろしい。
俺が男に恋するだなんて。
別に男同士の恋愛がダメだと言ってるんじゃない。
ただ俺自身が男に惚れるなんて到底考えることができないだけだ。
(勇者パーティに入ったらメス堕ちするかもしれないーーー)
そんな不安が俺にはある。現に目の前にいる5人の魅力的な女性達は全員勇者ことユウトくんにご執心だ。
あんなもの見せられたら嫌いでも好きになってしまうのではないかと思うのも無理はない。
そういうわけで俺は勇者パーティに入るのを拒んでいた。
ただ、一切関わりを持たないというわけではない。
依頼を受けていった場所にたまたま勇者パーティが通りかかって少し協力して魔物を討伐したり、
王都の街中で金髪巨乳聖女さんことエレナさんにばったり会って一緒に買い物したり、
王都で迷った時に紫髪のボクっ娘お姉さんのカカエさんに道案内してもらったり、
銀髪寡黙っ娘ことマコちゃんと伝説の剣(偽物)を巡って争ったりした。
とまあなんだかんだで勇者パーティとは仲良くやっているわけだ。
勇者のユウトくんとは基本的にお近づきになりたくないが、ユウトくんを囲っている5人のヒロインズとの交流は個人的に楽しいししていきたいと思ってる。
そういえばさっきから6人で何か話し合ってるな……まあ俺の勧誘に失敗したし、次の魔物討伐作戦の作戦会議でもしてるんだろ。
思えば勇者パーティとの出会いは王城だったな。
急に冒険者が王城に集められたんだよな。
王様が魔王討伐すっぞ!とか言い出した時には何言ってんだこいつって思ったものだ。何せ魔王の根城である魔王城の周りには闇の魔術障壁が張ってあるもんだから、勇者がいないと入ることすらできないんだよな。
当時は勇者が出現していなかったから、とうとう気が触れてしまったのかと思ったものだ。
だって王様クッソ若いからなぁ……前世でいうところの高校生くらいの年齢だ。
そんな年齢で国の最高責任者になったら俺なら気が狂うね。間違いない。
まあ流石に気が狂った王様を放置するのは可哀想なので、今の時代には勇者はいないので魔王城にお邪魔することすらできませんよ〜と軽く伝えたら、居ないなら呼べば良いのだ!とか叫びながら玉座から飛び出していったもんだからあれはもうダメだなって思ってた。
次の瞬間には王様が飛び出していった方向から真っ白な光の柱が立ってたものだから本当にびっくりした。
気づけばそこには黒髪の日本人の青年が立っていて………って感じの流れだったな。
と、物思いに耽っていると話し合いをして何かを決めたらしい勇者パーティ御一行が俺に視線を向けてきている。どうしたんだ?また勧誘か?
「勇者パーティの話なら断ったんだけど……まだ何かある?」
俺が口を開くと、アンジェが唐突に声高々に宣言した。
「クロエ!貴女を勇者パーティの一員に任命します!これは王族からの命令であり、拒否権はありません!」
………………………
え……?
はい……?
え…………
は……………
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「普段出さないような声出てるよクロエちゃん。やっぱり本当は勇者パーティに入りたかったんじゃないの?」
なんでそうなる!?え待って本当に唐突すぎる…え、なんで?
「ボクの目にはいきなり勇者パーティに入れだなんて命令されて困惑しているようにしか見えないけど?」
そうです!その通りですカカエねぇさん!
「ふんっ、べ、べつにパーティに入ってくれて嬉しいだなんて、お、思ってないんだからね!!」
テンプレやめろぉぉぉぉ!まず入るなんて一言も言ってないからね!?
いや王族の命令とか言われたら入らざるを得ないんだけども!
「ふっ……流石は我が好敵手……アンジェが強制的にパーティ入りをさせてくることを想定して………あえて誘いに乗らないとは………やられた………」
君の中で俺は一体どういう存在になってるの……?
君俺がパーティに入るの反対してなかった?
てかそんなキャラだったっけ?
もっと大人しくなかった……?そういえば伝説の剣(偽物)を取り合った時も……
『これが伝説の剣! 漆黒に輝く剣先を見れば、人々が魅了されるのも致し方なし! これがあれば私の常闇の秘術・深淵【ジ・アビス】も更なる進化を…ボソボソ』
そういえばなんかボソボソ言ってたな……ていうか伝説の剣(偽物)を巡って争ったときからこんなキャラだったのか……
銀髪寡黙っ娘から厨二ロリっ娘に変更しておこう。
「これからよろしく。クロエ」
そう言って手を差し出してくる勇者ことユウトくん。
もう俺が勇者パーティに入ることは決定事項なのかよ……‥。
あとエレナさん……俺現実ではわわって使う人初めて見たよ。
いや、可愛いけどね。本当に素ではわわって言ってるし、ぶりっ子してるわけじゃなくて本当に天然って感じがして俺的にはものすごく好きなんだけどもね。
だから良いと思うよ。かわいいはせいぎ。
……………………………いやいくらなんでもはわわっ多用しすぎじゃない?
もう10回以上は言ってるよ!?