コケコッコー!!!!!!
勇者パーティの休暇最後の日。
俺達勇者パーティは、現在カカエ姉さんの実家へとやってきていた。
何でも、決着をつけなきゃいけないことがあるらしい。マコは用事があるみたいで、今回は同行してきていないが、代わりにアルトがついてきてくれている。
といっても、流れで何となく合流しただけで、アルト自身はカカエの実家に用はないらしいが。
「ひぇーすっごい豪邸」
カカエ姉さんの実家を見て、アルトが感心したかのようにそう呟く。
実際、カカエ姉さんの家はかなり豪邸だ。正面には立派な門があり、側にはおそらくこれから勇者パーティの屋敷内の案内をしてくれるであろう執事らしき男の人が立っている。
「貴族だったんだ……」
どうやら、カカエ姉さんは貴族だったらしい。他のパーティメンバーは知っていたらしいが、俺は初耳だ。そういえば家名がないのは実家と縁を切ったから、とか言ってた気がする。
決着を付けようとしたことは何なのか。カカエ姉さんが抱えているものは何なのか。
それがこれから、明らかになる。
俺は、意気揚々と正門を……。
「クロエ様については、お屋敷への入室が許可されていませんので、お引き取り願います」
あの……。
出禁、くらっちゃったぁ…………。
◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●◯●
「にしても、何でクロエちゃんが出禁なんだろうな。ちゃんと正式な勇者パーティのはずなのに」
カカエの屋敷に入れなかった俺だったが、そんな俺を見かねてか、アルトが一緒に外に残っていてくれることになった。持つべきものは友だね。
優斗は『俺はクロエと残る』と言ったアルトを見て、何とも言えない表情をしていたが、まあ多分、勇者パーティには男がいないから、自分以外の唯一の男であるアルトが一緒に来てくれないのは不満だったのかもしれない。
実際、パーティのリーダーの筈なのに、俺と一緒に残ると言ったアルトを見て、『じゃあ俺も残る』とか言い始めたくらいだ。アルトの事好きすぎないか?
もしかしたら、ハーレムパーティで男1人だけっていうのはかなり疲れるものなのだろうか。
それにしても……。
「アルト、何で急に“ちゃん”付けで呼ぶようになったの?」
「いや、特に理由はないよ。まあ、元々はちゃん付けで呼んでたし、強いて言うならその頃の癖かな」
「そっか。でも、えっと、正直俺は、アルトと、その、仲良いって思ってるからさ、できれば気さくに呼び捨てで呼んで欲しいかなって……」
正直、ノエルと同じぐらいには、アルトのことは仲の良い友人だと思っている。だって、前世のことだって話してるし、2人で遊びに行くことだってよくある。
「確かに…恋人同士だったら呼び捨てで呼ぶもんな……なら呼び捨ての方が……」
アルトは何やらボソボソと呟き始める。呼び捨てにすることはそんなに難しいことだったのだろうか。いや、そんなはずはない。実際、俺の前世をカミングアウトして以降はアルトは呼び捨てで呼んでくれていたし、呼び捨てのハードルは低い筈だ。
それとも、もしかしたら嫌われてしまったとか?
何か気に触ることでもしてしまったのだろうか。俺のことが嫌いになってしまったから、呼び捨てで呼びたいと思わなくなってしまったのだろうか。
「ねえ、アルト。もしかして、俺のこと……」
「え? い、いや? ななな、何の話だ!?」
アルトは俺の言葉に、明らかに動揺したかのような様子を見せている。
この反応、もしや………。
本当に、俺のことが嫌いになってしまったのだろうか。
もしかしたら、失恋したアルトに、慰めデートだとか言い出したのが、アルトからしたら上から目線に感じたのかもしれない。
鬱陶しい奴だと、思われてしまったのだろうか。
もし、そうなら……。
「そ……っか。今までごめん……」
「…クロエ?」
「嫌いな奴相手にするの、しんどかったよね。ごめん。こっちが勝手に仲良いって勘違いしちゃってた」
「は? え、待て待て待て! 何の話だ!?」
「本当に、ごめん。これからは、気をつけるから…」
「違うぞ! 絶対に違う。クロエ、多分今誤解してるって」
「? 何が違うの?」
「いや、だって俺はクロエの事嫌いじゃないし。む、むしろ、す、す………」
むしろ好きだと、そう言いたいのだろうか。それにしては詰まり過ぎだし、やっぱり無理して好きって言おうとしてるんだろう。
「ごめんアルト。無理しなくていいから。別に、アルトに嫌われてても、つらくなんて……ない……から……」
何だか、目頭が熱くなってくる。
そうか、自分では気づいてなかったけど、いつの間にか、アルトの存在は、自分の中で大きなものになっていたらしい。
実際、暗殺者やってた頃は、メンタルズタボロだったし。
今こうして安定してるのは、ノエルやアルト、それに勇者パーティの面々のおかげだったんだろう。
中でもアルトは、唯一の男友達と言っていい存在だし、前世の性別を考えれば、これほど気のおける存在はいない。
そんなアルトに、嫌われているとなったら………。
「ごめん。泣かせるつもりはなかった。けど、俺、本当にクロエのこと嫌いじゃないし、むしろ好きだから。だから、泣かないでくれ」
「はうっ…!」
急にアルトに抱きしめられて、俺は変な声を出してしまう。
「その、好きなんて言うのは、ちょっと気恥ずかしいだろ? だから、言いづらかっただけで………。えーと、本当に俺、クロエのことは好きだから」
確かに、恥ずかしいと思うのはわかる。
何なら、今こうやって好きだと言われている俺の方も恥ずかしいと思ってるくらいだ。外から見れば、俺の顔面は真っ赤なリンゴ状態だろう。
ただの友達に対して、好きだとか何だとか言うのは少しハードルが高いかもしれない。
だったら……。
「アルトは、俺のこと、嫌いじゃない?」
「当たり前だ。嫌いだったら、わざわざ一緒に残るなんて言わないよ」
「アルトは、俺のこと友達だって、思ってくれてる?」
「うっ、それは………そう、だな……俺とクロエは友達だ。…………今は、まだ……」
「そっか……。よかった」
最後の方は聞き取れなかったが、どうやらアルトは俺のことを友人として認識してくれているらしい。
にしても、俺、こんなに重い人間だったっけ?
やっぱり、暗殺者時代にメンタルやられてるせいなのかな。アルトやノエルに嫌われてるってなったら、正直辛すぎて生きていけないまである。
でも、よかった。アルトは俺のこと、嫌いじゃないらしい。うん、嫌いな相手にわざわざハグなんてしないだろうしね。
「やばい……抱きしめちゃった………心臓バクバクする…………やばい…………」
「アルト」
「え? あ、ああ! な、何だ?」
「ごめん。変なこと言い出して。今日のことは、忘れていいから」
流石に、友達同士でハグというのは、一応異性同士だし、あまりよく思われないだろう。まあ、本音を言うと、泣き出しちゃったのが恥ずかしいから忘れて欲しいっていうのがそうなんだけど。
「恋人同士でイチャイチャ、かー。いつの間にそんなに呑気な子になっちゃったの?」
俺とアルトの2人っきりだと思っていたが、どうやら周囲には人がいたらしく、俺とアルトは恋人同士に見えたらしい。まあ、男女で、ハグし合ってたらそう思われても仕方ないよな。
でも、今の声、どこかで………。
俺は、声の主の方へ顔を向ける。そこには……。
紫色の肌を持ち、頭に大きく捻れた真っ赤な角を持った魔族がいた。
しかし、肌の色や角以外は、俺にとって、とても見覚えのあるもので……。
「セツ………ナ……?」
「久しぶり、クロエちゃん」
昔の友人が、魔族となって、俺に気さくに話しかけていた。
ちなみにマコは伝説の剣の噂を聞いて南の国を訪れ、
そこでマコが優斗のパーティメンバーであることを知っていたユリウス(南の国の勇者)がまだ幼いマコの面倒を見ようと護衛を申し出るも、
マコは自分が伝説の剣を見つけた時に横取りしてくる気だろうと勘違いしてユリウスから逃げたり攻撃したりし出し、
結果的にユリウスは街の人からロリコン扱いされるという。
滅茶苦茶迷惑かけに行ってます。ちなみに伝説の剣の噂はホラなので、本当にただ迷惑をかけに行っただけという。