人の脳を覗く時は脳破壊に注意しよう!
「あーもうなんでこうなるんだよ! せっかくノエルちゃんをかっこよく助けて、キャーアルト君カッコいい♡って言ってもらえるチャンスだったのにー!!!」
もはや優斗との約束など、カケラも頭に残っていないアルトであるが、もし仮にかっこよくノエルを助けたところで、ノエルはアルトのことをかっこいいと思うことはないどころか、心の中で感謝されることもないだろう。
そもそも、ノエルがセリカに遅れをとることなどないため、助ける場面そのものが存在しないのだ。
「えーいちょこまかと!」
「ぎゃあああああ! その魔法ずるい!!! 範囲広すぎるってばぁぁぁぁぁぁ!!」
先程からカカエはアルトのいる場所の半径10m以内に、対象に直接痛みを与え、最悪の場合死に至らせる究極の魔法を放っているのだが、アルトはその人間離れした身体能力で、次々にカカエの範囲攻撃を交わしていく。
何度も、何度も、何度も。
しかし、これだけ魔法を繰り出しておいて一切魔力切れを起こさないというのは、おかしくないだろうか?
勿論、カカエ自身の持っている魔力量は、一般人に比べれば多大なものではあるが、カカエが連続して魔法を放てている理由はそれだけではない。
後方で支援しているエレナさんに注目してみよう!
何と彼女、聖女の特権で、魔力そのものの回復を行うことができるのだ!
つまり、エレナがいれば、魔力切れは起こらないのだ!
したがって、アルトは彼女らの洗脳が解けるまで、永遠に彼女らの魔法を受け続けなければならないということになる。
「いくらなんでもおかしいだろあのクソ勇者のパーティィィィィィ! ハーレムの上にチートかよぉぉぉぉぉ!!」
優斗に対して、元々ハーレムを形成していることで気に食わないと思っていたアルトだったが、今回の一件で、さらに優斗のことが嫌いになりそうだった。
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「ふぅ。中々手強かったわね、流石は勇者パーティの1人ってところかしら」
北の勇者、ノエルの傍らには、巨大な大剣を地面に落とし、壁にもたれかかるように倒れているセリカの姿があった。
『ぎゃあああああ! その魔法ずるい!!! 範囲広すぎるってばぁぁぁぁぁぁ!!』
遠くの方で何やら喚いている勇者の声が聞こえるが、気にしなくてもいいだろう。
「さぁ出てきなさい。いるのは分かってるのよ、黒幕さん」
ノエルは虚空に向かってそう言い放つ。
見た感じ、誰もいなさそうだが…………。
「よく気づいたな、いかにも! ワタシが『十拝臣』が1人!! 千・ノーウ様だ!!」
ノエルが先程声を放った虚空から、突如、髭を生やしたガリガリの老人が姿を現した!
『いくらなんでもおかしいだろあのクソ勇者のパーティィィィィィ! ハーレムの上にチートかよぉぉぉぉぉ!!』
タイミングの悪いことに、千・ノーウが自己紹介をした途端に、遠くからアルトの声が聞こえてきたため、千・ノーウの自己紹介はいまいち締まらないものとなってしまったが。
「そんな素直に出てくることないんじゃない?」
しかし、ノエルはアルトの叫びを気にかけることはない。
元は自分のせいのため、ノエルとしてはアルトに対して多少の申し訳ない気持ちはあるものの、アルトにいつもしつこく勧誘されているせいか、アルトが酷い目にあってむしろ清々するまである。
ここまでくると、自己紹介を遮られた千・ノーウよりも、完全に脈なしなアルトの方が可哀想かもしれない。
「しかし、おかしいな……ワタシの洗脳は完璧なはず………にもかかわらず……この村では洗脳にかかってないのは……1、2、3、4、5………脳筋バカを入れて6………ムムム! やはりおかしいぞ! 何故こんなに洗脳にかかってない奴がいるんだ? 勇者の3人ならまだわかるが………」
(私とクロエ、それに優斗にアルト、で、目の前のこいつを入れて………5? ってことはもう1人洗脳にかかってない奴がいるってこと?)
ノエルは脳内で洗脳にかかっていない人物を洗い出す。
ノエルはオニンニクの存在を知らないせいか、脳内でまだ洗脳にかかっていない人物がいるかもしれないと結論付ける。
一方で、千・ノーウは、クロエが洗脳にかかっていないことに、違和感を感じている。勇者の3人、それに仲間であるオニンニクが洗脳にかかっていないのはわかるが、残りの2人は誰が洗脳できていないのか分かっていないようだ。
ノエルから言わせれば、それはお前自身だろ、という話になるのだが。
「しかし、残念だったな! いくら勇者といえども! ワタシの目の前に出れば、直接脳内にアクセスし、洗脳することができるのだー!」
そして、千・ノーウの魔の手が、ノエルの脳内に襲いかかった。
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「っ! 俺、ずっとお前のことが好きだったんだ……だから………体の関係でも……それでもお前と一緒にいれるなら………いいって、そう思ってたんだ……」
黒髪の真面目そうな青年が、金髪で、ガタイの良い男に対して、そう語りかける。
「けど……もう、我慢できない…‥! 俺は……俺は………もうお前との体の関係なんて終わりにしたいんだ!! いつも抱かれるばっかりで、辛くて…‥…。だから……今度は俺が抱く」
そう言って、黒髪の青年は金髪の男を抱きしめてーーー。
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場面は変わりーーー。
「いえーい彼女さん見ってるー? 君の大事な彼氏さんは、俺の虜になっちゃいました〜!」
「ごめんな果林。でも俺、知っちまったんだ。男同士で、愛し合うってことの、喜びをさ」
屈強な男が、眼鏡をかけた気弱そうな少年と陽気に肩を組んでビデオを撮っている場面。
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さらに場面は変わりーーー。
「だ、だめだよ……僕、男だよ? その………いいの?」
「………構わない。男だとか、女だとか、関係ない。俺は、お前が好きになったんだ」
「……///」
少し女性らしい見た目をした少年に迫る男の様子。
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「の、ノエル? だ、ダメだってば。親友、だろ? そ、そんなの、友達同士ですることじゃ………」
「いいじゃないの。私とクロエの仲でしょ? 大丈夫。優しくしてあげるから。ほら、私に身を委ねて」
女の子同士で何かをしようとしている場面だったり……。
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「優斗。その、いっつも戦い見てて、かっこいいなって思ってて…………」
「俺も、クロエのこと………」
たまにBLでもGLでもない光景は映るものの…………。
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「アルト! 俺、ずっと前からお前のことが………!」
「俺も、今まで嫌いだって言ってたけどさ、照れ隠しだったんだ、アレ。だから、その、俺でよければ………」
結局はBLだった。
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「な、な、な、な、な、なんじゃこりゃぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
千・ノーウは、ノエルの脳内を覗いた際、強烈なBL成分(+α)を摂取したせいで、BLに耐性の無かった千・ノーウの脳が拒絶反応を起こし、それにより千・ノーウの魔法が解けていく。
千・ノーウは恋愛経験もないまま老後を迎えたため、そもそも恋愛そのものの経験がなかった。
今回の結果は、それが原因と言えるだろう。
やがて千・ノーウは急激な脳へのショックにより、気絶してしまった。
「? なんだかよくわかんないけど、倒せたのなら、いっか」
当然、ノエルがそんな千・ノーウのことを知る由はない。
こうして、ノエルの活躍(?)により、ドルーコ村の洗脳は解かれたのであった!