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「エマ!大丈夫か!?」


騒々しくドアを開け、どかどかと室内に入室してきたのは、私の一番上の兄、サン・アンデルセンだ。


サンは私の元に駆け寄り、ガバッと抱き付いてくる。


…超絶シスコンの兄である。


「倒れたって聞いて急いで来たんだ!もう大丈夫だ!お兄ちゃまがついてるからな!」


………暑苦しいなぁ…。

ぎゅうぎゅうと締め付けてくる腕も言い放つ言葉も暑苦しい。重い。

あとお兄ちゃまとか、28の男が言わないでほしい。キモいから。


などという私の内心を知らぬ兄を私はぐいぐいと押し返した。


「落ち着いて、サン。大丈夫だから。…ほら、モーガン伯爵様もいらっしゃるのに。ご挨拶して」


そこで漸くモーガン伯爵様に気付いたのか、サンは顔をそちらに向けた。


「…あぁ、これはモーガン伯爵殿。妹が世話をかけたようですね。ありがとうございました。迎えの馬車が来るまでここは私が引き受けますので、どうぞお戻り下さい」


サンは流れるような言葉と動作でモーガン伯爵様にドアを示す。

うん、帰ってもらうのがいい。

ついでにさっきの会話も忘れてくれるとなお良い。

が、現実はそんなに甘くないようだ。


「いえ、俺も残ります。…せっかくの機会ですから」


にっこりとモーガン伯爵様は笑う。

美形の笑顔は好きなのだけど、今はちょっと遠慮してもらいたい。

もう一度言うが、サンは超シスコンなのだ。


「…『せっかくの機会』というのは、どういった意味でしょうか。私の可愛い可愛い妹に悪い虫がついてくるのはご遠慮したいですね」


「ははは。悪い虫とは言ってくれますね」


…笑顔が怖い。

ははははは、とサンとモーガン伯爵は笑顔を張り付けたまま、そこにピリピリとした空気が漂う。

怖い怖い!

片や謎に包まれた宮廷魔術師のイケメン伯爵、片や田舎貴族から宮廷事務官へとのしあがったシスコン兄。

モーガン伯爵様はその容姿、家柄だけでなく、自身も宮廷魔術師として不動のNo.1と名高い。なんでも魔法で山を砕き川を作り、国土を整えたという話がある。

……なんじゃそりゃ。神か!…ああ、おそろしや。

対してサンは今、国の財政管理部門にいる。

田舎からそこに入っただけでも快挙なのだけど、この兄は予算をおろさない、めっちゃくちゃケチ、いや、非常に財政管理の厳しい人物として知られているらしい。

私の2番目の兄、これは騎士団に勤めているのだけど、それによると、『血も涙もない金庫番の鬼』とか呼ばれているらしい。

その二人が目の前でバチバチと火花を散らしている。

…サンはさっきまでの会話を聞いていたのか、モーガン伯爵様に対して警戒の色を隠さない。


「妹は社交界にデビューしたばかりですから、まだまだ未熟者でしてね。伯爵のご冗談でも真に受けてしまうと困りますから」


……ん?今ちょっとディスった?


「冗談など言ってはおりませんが。…でもアンデルセン嬢のそういう素直なところは好ましいですね」


……え?そこ同意するの?

これ、私がチョロいって言われてないかな?

でも私、現段階で結婚に承諾はしてないし、そんなチョロくない…筈。


などと考えていたところにドアがノックされる音がした。

入ってきたのは先程の黒髪のメイドさんだ。


「…失礼致します。お迎えの馬車がお着きになりました」


「あぁ、ありがとう。…それじゃ帰ろう。…伯爵、これにて失礼致します」


サンはそういうと私の手を取る。

促されるままにベッドをおりると、モーガン伯爵がこちらを見てにっこりと笑った。…怖っ。


「…では、お身体にお気をつけて、アンデルセン嬢。またご連絡します」


え、今そんなこと言う?

それ、サンの前で言ったらまたバトル始まるやつじゃん…。

すぅ、とサンが息を吸う音がする。

サンが口を開くより前に、私が言わなくては!

…このまま口論が長引いたら帰れない!


「…はい!わかりました!ではこれにて、失礼致します」


早口で言い切ると私はサンの背をぐいぐいと押してその場から退出したのだった。

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